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メガネに願いを  作者: 虹色
第七章 二人の気持ち
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◆◆ それぞれの夢 ◆◆


「日向くん。」


うわ、浜野さんだ。

劇の練習のころから話す機会が増えたけど、いつまでたってもなんとなく苦手だ。


彼女が男に人気があるのは知っている。

見ていれば、そうなんだろうな、とは思う。

だけど、苦手だ。


今日は何の用だろう?

・・・ああ、森川さんと一緒ってことは。


「合唱祭の自由曲の楽譜、持って来たの。これなんだけど・・・。」


うう・・・。

何が苦手って、そうやって期待を込めたような目つきで見上げられることが一番苦手なんだよ。

俺に何を言ってほしいんだよ?! ・・・と、怒鳴りたくなる。



渡された楽譜は「オー・ハッピー・デイ」。

浜野さんの視線を避けながら全体を軽くながめて、森川さんに質問。


「どんな感じ?」


「うーん・・・、とりあえず、耳に馴染みのある曲にしたの。あと、リズムが取りやすそうかな、と思って。」


なるほどね。


「アレンジまでは無理だと思うから、楽譜どおりでいくつもり。」


「わかった。とにかく俺は、歌の練習を始める前に一通り弾けるようにするってことだよね?」


「うん。ちゃんとした練習は修学旅行のあとになると思う。それまでに、完璧じゃなくてもかまわないから、お願いします。」


しばらくは夜に練習だな。2曲だし。

ピアノ部屋が防音でよかったよ・・・。


「あ、ねえ、日向くんのお母さんって、歌の指導が出来るんでしょう?」


え?

浜野さん・・・、嫌な予感・・・。


「うちのクラスにも教えてくれないかな? 日向くんのお家に行くから。」


だから、その期待に満ちた目つきはやめてくれ!


「ちょっと・・・。」


全然よくない。


「桃子。そんなの無理に決まってるじゃん。」


森川さん!

助かった!


「そお?」


「合唱なんだから、全員一緒じゃなくちゃ意味がないし、そんなに大勢で日向くんの家にお邪魔するわけにはいかないでしょう? みんなの都合だってつかないだろうし。」


うんうん!

そうだそうだ!


「そっかあ・・・。残念。」


「じゃあ、日向くん、それ、よろしくね。」


「了解。」


とにかくやらないと。



だけど、浜野さんはやっぱり苦手だ。

森川さんが一緒にいてくれて、ものすごく助かったな・・・。








今週は進路相談を兼ねた個人面談が、放課後に行われている。

生徒会のメンバーの中では、今日の俺が最後。


思っていたより遅くなってしまった。

2番目だったのに、俺の前の佐藤が時間がかかってたし・・・。

あいつは遅刻が多いから、進路以外も言われるのは仕方ないけど、それにしても長かった。


今日は全員来てるんだっけ?



そういえば、最近、茉莉ちゃんとうまく行ってる気がするなあ。

まあ、 “うまく” って言っても、何か具体的にあるわけじゃないけど、茉莉ちゃんの気後れの度合いが減ったというか・・・。


たとえば、冗談を言ってくれるとか、楽しかったことを笑いながら教えてくれたりとか。

目が合うと恥ずかしそうに下を向いてしまうのは相変わらずだけど。

それでも、


「ねえ、数馬くん、聞いて!」


なんて笑顔で言われると、幸せで胸がいっぱいになってしまう。

なんでもない話題で、茉莉ちゃんから話しかけられること自体、すごいことなんだから。


もちろん、それは俺だけに限ったことではなくて、芳輝や虎次郎にも同じように言うし、翔にだってそうだろう。

だけど・・・何故か、俺に慣れるのには特別に時間がかかったから、みんなと同じになっただけでも、確実な進歩だ!

これからも、あきらめないで頑張ろう!



「遅くなってごめん。」


「よう、数馬。」

「あ、お疲れさま。」


茉莉ちゃんの声だ〜♪ それに笑顔も。

ああ、なごむなあ・・・。


「先輩、先輩、聞いてくださいよ! 潤くんは、将来、冒険家になるんですって!」


「冒険家?」


ああ。

進路相談の話題か。

でも、潤が?

今のところ、見た感じとはだいぶかけ離れているようだけど・・・。


「涼子はそうやって馬鹿にするけど、俺はちゃんと考えてるんだぞ。体も鍛えてるし。」


「へえ。」


「毎日筋トレをしてるし、夏休みには登山だってしてます。」


「そうなんだ?」


生徒会メンバー全員が驚いた。

体の線が細い潤が、運動に縁があるとは思ってもみなかったから。


「意外だなあ。で、卒業後はどうするんだ?」


「大学の経済学部に進みます。」


ん?

経済学部?


「それは、冒険家と関係があるの? それとも普通に就職して、冒険は有給休暇を使ってやるとか?」


茉莉ちゃんが不思議そうに尋ねると、潤は胸を張って答えた。


「大学で株の勉強をして、それで儲けたお金を使って冒険家として活動するんです。」


「株で儲けたお金・・・。」


「はい。冒険旅行にはものすごくお金がかかります。だから、普通は資金調達のために、スポンサーや出資者を探さなくちゃいけません。そのためには企画力と交渉力も必要です。」


ああ、なんとなくわかる気がする・・・。


「だけど、僕にはそういう活動が無理だと思うんです。」


「今の時点で? もう決めちゃうのか?」


「はい。」


潔いことで。


「かといって、お金を稼ぐために就職してしまったら、何か月も旅行に出かけているわけにもいかなくなります。」


たしかに。


「だから、僕は株の投資で、短い期間で効率よく資金を貯めたいんです。そして、それを使って冒険家をやる。」


「「「なるほどねー・・・。」」」


納得するようなしないような・・・。

でも、宝くじとどっちが確率が高いんだろう?


「ふふふ。潤くんには向いてるかもね。」


え?

茉莉ちゃんはそう思うのか?


「そんなふうに言ってくれたのはジャスミン先輩が初めてです!」


あーあ、嬉しそうに・・・。


「うん。潤くんって、けっこう情報通っていうか、早耳だよね? そういうのって、株の取り引きには有効なんじゃない?」


「えー? 株の方だけですか?」


「ははは。儲かり過ぎてやめられなくなって、結局、冒険には行かなかったりして。」


うん、それはありそうだ。


「あ。潤なら冒険家も向いてるかもしれないよ。」


「え? 数馬先輩、ほんとですか?」


「うん。ほら、潤って危険を察知するのが早いし、そういうときに “逃げよう” って判断するのも早いだろ? 冒険家って、そういう能力も重要だと思うよ。」


「あ! 先輩、文化祭のときのことを言ってるんですか? あれは慎也も同罪なのに。」


「あははは! でも、慎也は冒険家になるわけじゃないんだろ?」


「僕ですか? 僕は銀行か税務署ですね。」


「堅いなあ。」


うん。

潤とは正反対だ。・・・似てるのに。


「わたしは科学者です!」


「わあ、すごいね、涼子ちゃん。何の研究をしたいの?」


「今はまだ絞り切れてませんけど、物理学部に進むつもりです。」


「将来、涼子の名前をどこかで見ることになるかもな。」


「ふふ、そうなるといいんですけど。虎次郎先輩は?」


「とりあえず、剣道を教える立場にと思ってはいるけど。」


「道場?」


「道場に就職は難しいだろうな。どこかに勤めてボランティアでやるか、教師になって部活の顧問だな。」


虎次郎の剣道をやってる姿って、迫力ありそうだなあ。


「芳輝先輩は?」


「うーん、翻訳かな。」


「ああ、英語を生かして? でも、通訳じゃないんだ?」


「うん。どっちかっていうと、じっくり考えられる文章の方がいいな。できれば学術論文の翻訳をやってみたいけど。数馬は決まってるの?」


俺?


「一応、設計とか建築とかの方面に進もうかと。」


「あ、ビルとか橋ですか?」


「まあ、そういう目立つものもいいけど、もっと普通の目の高さにある・・・街並みみたいなもの、かな。」


茉莉ちゃんは・・・どう思う?


あ。

もしかして、俺、浜野さんと同じような目つきで茉莉ちゃんを見ていたかも・・・?


「街並みをつくるなんて、楽しそう。」


微笑んでくれた。

拒否されなかった・・・。


「茉莉ちゃんは?」


「わたし? わたしはね、児童福祉か心理学を勉強するつもり。」


「心理学ですか?」


「そう。できれば学校のカウンセラーになって、子どもたちの言えない気持ちに気付いてあげたいの。」


茉莉ちゃんらしいな・・・。



だけど。



子どもたちの気持ちに気付くより先に、毎日一緒にいる俺の気持ちに気付いてくれたらいいのに。







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