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メガネに願いを  作者: 虹色
第六章 九重祭!
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◇◇ おそろいの ◇◇


だめ。うまく話せない。

いつもと違う数馬くんが・・・恥ずかしくて。

言われていることに集中できない。

絶対に答えが変!


一緒に歩くのはだいぶ慣れたつもりだったのに・・・今日はだめ。


“髪型を変えただけだよ。”

“数馬くんは、いつもの数馬くんだよ。”


そう言い聞かせても・・・なんだか、違うひとみたいで。


長袖Tシャツとグレイのシャツを重ねた私服もいつもの制服姿と違って・・・似合うけど!

しかも、今日は髪型も違うんだもの。

恥ずかしいよー・・・。


どうしたらいいの?

やっぱり一人で帰ってくればよかった。

駅まで送るって言われたときに、もっと強く断れば。


せめて栗原くんがいてくれればよかったのに。

家が反対側だなんて!


でも、でも、あの角を曲がったら駅が見えるはず。

あと少しだよ!


「そういえば、茉莉ちゃんがいつも使ってるボールペンって、どこのメーカー?」


「えっ。ぼ、ボールペン、ですか?」


しゃべり方が変になってるし!

ますます緊張する〜!!


「うん、4色のやつ。いつも、色が綺麗だなあって思ってたんだ。」


「あ、ああ、あれは・・・ええと、あれ? 思い出せない・・・。」


焦り過ぎ〜!


「あの、よくあるやつなんですけど・・・。」


ダメだ・・・。


「ええと、これから駅ビルに入ってる文房具屋に行くんだけど、・・・同じのが欲しいから、もし急いでなければ一緒に見てもらえないかな?」


一緒に?!

文房具屋さんに?!

しかも、「同じのが」って・・・。



でも、無理!

いつもならなんとか大丈夫かも知れないけれど、今日は! 絶対!



「ええと、その、・・・大丈夫、です。」



断れない〜〜〜〜!

こんなチャンス、二度となさそうだもの・・・。


だけど、どうしよう?

こんな状態で引き受けちゃうなんて。

わたしってほんとうに馬鹿な子だ・・・。





「あ、これです。」


文房具屋さんで並んだ商品を見たら、なんとなく落ち着いてきたみたい。


よかった。

文房具屋さんならわたしのホームグラウンドみたいなものだし、これだけいろいろな物があれば、数馬くんに意識を集中しなくても済むものね。

それに、ここのお店はこのあたりの文房具屋さんの中では一番大きい。

店内を回っていれば、話題には困らないはず。


「ふうん・・・。茉莉ちゃんが使ってるのはこの色だよね?」


「うん、そう。」


よし。

ほんとうに落ち着いてきた。

これなら大丈夫かな。



実を言えば、筆記用具にはちょっとこだわりがある。

デザインが可愛いものも好きだけど、なによりも握りやすさと書き心地が大事。

シャーペンの芯は2B。消したときに跡が残らない柔らかさ。メーカーも決めている。消しゴムも。


「ええと、ちょっと試し書きをした方がいい・・・よ。」


「そう?」


「うん。何て言うか・・・滑り具合が違うので。」


わたし自身は、ボールペンはあまり滑らかなのは好きじゃない。

少し摩擦感がある方が好き。

去年、万年筆を見つけて使ってみたら(もちろん安いものだけど。)、最高だった!

だけど、勉強には向かない・・・。


数馬くんが棚から1本取って、試し書き用の紙にくるくると線を描く。


「あれ?」


「予想と違う?」


「うん。ちょっと重い・・・かな?」


「やっぱり? わたし、ボールペンはちょっとひっかかる感じのが好きだから。」


「そうなんだ?」


「あと、この、芯を出すときの押した感触も、いろいろあるんだよ。」


「へえ。」


ああ・・・。

わたし、ちゃんとしゃべれてる。こんなにはきはきと。

なんだか感動・・・。



数馬くんは次々と棚からボールペンを取って、試し書き。



あ。

横顔だ・・・。


あんまりジロジロ見たらいけないよね。

でも・・・うつむいた感じが涼しげな目もと。

メガネをはずしたら、どんな? ・・・やだ! 何を考えてるの?

数馬くんがわたしの前で簡単にメガネをはずすことなんてないよね?


そういえば、入試から一年半か・・・。

あのときもこんなふうに見ていたけれど、今日はこんなに近くで。

さっきは、髪に触ったんだっけ。信じられないけど・・・きゃぅ。こっち向いた!


「やっぱりこれにする。」


やーん、笑顔が今日はちょっとかわいい!

・・・って、そんなこと考えてる場合じゃないのに!


焦らない、焦らない。

ドキドキしてるときには酸素を補給・・・あれ?


「それ?」


わたしと同じの?


「うん。比べてみたら、気に入った。」


おそろいだ。

いいの、かな?



うん。

数馬くんが気にしないなら、いいんだね。

メガネはおそろいモドキだけど、これは本物のおそろいだ!





文房具屋さんから改札口の間にもいろいろなお店が並んでる。

雑貨屋さん、本屋さん、ドーナツ屋さん、花屋さん。

まだ緊張してはいるけれど、さっきに比べると格段に落ち着いた。

無理に話をしなくてもいいような気がして、少しゆっくりめに歩いてくれている数馬くんと並んで、商品を眺める余裕も出てきた。



考えてみたら、今日は新しい体験をしたなあ。

数馬くんのお部屋に入れてもらったし・・・、髪を触っちゃうなんて!

あーん、思い出したら手が!


「あ、茉莉ちゃん、ストップ。」


「あ、は、はいっ。」


あれ、メガネ屋さん?


「メガネってさあ、見ると、変えてみようかな、なんて思わない?」


・・・え?

数馬くんは変えたいの?


商品の棚には色とりどりのフレーム。

最近のらしい、小さめのレンズ仕様。

数馬くんの手がその上を少し迷って、黒いフレームのひとつを選ぶ。



もしかして、メガネをはずすの?

さっき、そんなことあるはずないって思ったばっかりなのに!

でも、鏡をみてるからよく見えない。

ああ、もう次のを・・・。


「一人のときは、なかなか選びにくくて・・・どうかな?」



!!



似合う!

っていうか、似合い過ぎ!!


「か・・・。」


かっこいい!

その髪型とその服装と・・・その顔!

でも、でも、でも・・・!


「あの・・・、すごく似合う、よ・・・。」


とても遠いひとになってしまう。

それに・・・。



数馬くん。

メガネ、変えちゃうの?



似合うけど、淋しいよ。

わたしの願掛けはここで終わり?

数馬くんが変えた直後にわたしも変えたりしたら、変に思われちゃう。


それに、このメガネに変えたら、数馬くんの人気がますますうなぎ上りに・・・。

ああ、でも、ありのままの数馬くんを世の中に見せるのは、数馬くんの権利だもんね。

人気が高まれば交友関係も広がって、将来の可能性も大きく広がって・・・。


「うーん・・・。やっぱり、今使ってる方が慣れてるからなあ。それに・・・気に入ってるし。」


ほんと?!


いつものメガネをかける数馬くん。

ああ、こっちもやっぱり似合う。


わ! やだやだ、目が合っちゃった!

じっと見ていたのがバレちゃうよ~!


「あの、いっ、今のも・・・その、数馬くんには似合って・・る、よ。」


だって、一目惚れなんだよ、そのメガネの数馬くんに。


「え? あ、ありがとう・・・。あの、茉莉ちゃんは中学のころは、どんなのを?」


「中学のころ? 子ども用のところで買った金属の・・・ちょっと丸い感じの・・・。」


もしかしたら、今よりは似合っていたかもね・・・。


「ふうん・・・。あ、茉莉ちゃんには赤が似合いそうだけど・・・どう?」


これを?

かけてみてってこと・・・?


「ちょっとだけ! お願い!」


お願いされちゃってる・・・けど。

よく考えたら、こうやってやりとりしていることも、恥ずかしい気が・・・。


「ええと、じゃあ・・・。」


あんまり恥ずかしがるのも、逆に変だよね・・・。


わ。

いつもと違う自分を見せるのって、こんなに恥ずかしいんだ。


っていうか、もう、何をやっても恥ずかしいよ・・・。

ああ・・・顔が熱い。

この半年で、何十回目?

そろそろ何が起こっても大丈夫にならないかな・・・?


「・・どう、かな?」


レンズが入ってないからはっきりとは見えないけど・・・、驚かれてる?


「あ、・・・似合うよ、うん、すごくかわいい。いや、あの。」


“かわいい” ?!

数馬くんに “かわいい” って言われた?!

それとも空耳かな・・・?


「あ、ええと、でも、や・・やっぱり、いつもの方がいいよ。うん。」


いつもの方?

こっち?


「ああ・・・うん、それがいいよ、茉莉ちゃんは。さっきのは・・・知らない人みたいで・・・。」


知らない人って。

さっき、わたしも違うメガネをかけた数馬くんを見てそう思った・・・。


「うん。やっぱり茉莉ちゃんには、それが似合うよ。」


似合う?

このメガネが?


「・・・似合うかな?」


「うん。」


そんなにはっきりと、確信を持って?

優しく笑って?


このメガネが似合うって誰かが言ってくれたのって、初めてだ!


「俺も、まだ当分はこのメガネにしておこう。」


「え?」


ほんとうに?


「これ、その、せっかく茉莉ちゃんと似てるし・・・、ちょっと仲間っぽい感じでいいかな、なんて。」


わたしのと似てるから?

いいの?


「あ、ええと、これで芳輝も同じようなメガネをかけてたら、面白いよな! ははは・・・。」


数馬くん・・・。


「うん。そうだね。」


・・・よかった。


おそろいのボールペンを使っても、ほんとうのおそろいじゃなくても、このメガネはわたしにとっては特別中の特別なんだもの。









第六章はここまでです。

次から第七章に入ります。

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