表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メガネに願いを  作者: 虹色
第六章 九重祭!
62/103

◇◇ たくさんの写真 ◇◇


13、14、15、16。16枚だ・・・。


こんなに写真がある。

しかも、これはプリントして配ってくれた分だけで、USBメモリーと携帯にも何枚も!


劇の練習から文化祭、後夜祭、そしてきのうのクラスの打ち上げ。

たくさんになって当たり前かも知れないけれど、でも・・・わたしなのに!


なんか、すごいよね?

今でも信じられない!



代休が明けた今朝、教室に着いたら、劇のビデオを撮ってくれた木村くんが持って来ていたノートパソコンの周りにみんなが集まって騒いでいた。

その様子を見た途端、 “写真だ!” って分かって、一気に悲しい気分になった。

今までの経験からすれば、当然のこと。


すぐに誰かに名前を呼ばれて、仕方なく行ってみたら・・・写ってた!

それも、1枚じゃなく!


代休の間に録画をコピーしてくれるからと言われて木村くんに渡してあったUSBメモリーに、選んだ写真を入れてもらった。

自宅でプリントして持って来てくれた人も何人か。

携帯で撮った写真は、メールか赤外線で送ってもらった。


どの写真にも、楽しそうなわたしが写ってる。

笑っていなくても、不安そうだったり、淋しそうだったりしている写真はない。

いつも辛かったみんなと写真を見る時間が、思い出を確認する時間になった。


楽しいふりをしなくてもよかった。

なんて幸せなんだろう!




これは、初めて衣装を着たときの。


あらためて見ると、やっぱり恥ずかしいね。

まだ覚悟が決まらなくて、顔が引きつってる。


でも、みんなで並んだ写真は楽しそう。

着てから時間が経っていたから?

栗原くんの衣装は、何度見ても笑っちゃうな。



本番は・・・さすがにたくさんあるね。

終わってから控室でたくさん撮ったし、教室に戻ってからも、何枚か撮ったから。


制服姿もけっこうある。

携帯には手塚くんと一緒の写真も。

カナちゃんの隣で照れている手塚くんが微笑ましい。



そうだ。

啓ちゃんと一緒に撮ればよかったな。

二人で制服姿でなんて、なかなかチャンスがないのに。

去年はいとこだってことを隠していたから話もしなかった。

あと半年で啓ちゃんは卒業だし・・・卒業式には撮れるかもしれないけど、ちょっと淋しいよ。


啓ちゃんとの思い出っていえば体育祭の『借り人』だけど、体育祭は、失くしたり壊したりしないようにカメラや携帯を持たないからね。

でも、手をつないで走ったことが思い出になったから、いいかな。

そういえばあのときに、3人も自分のところに来たのにはほんとうにびっくりしたよ・・・。


一番驚いたのは、数馬くんが来たのかと勘違いしたときだけど。

まったく早とちりだよね。



これは後夜祭の写真。


体育館でみんなと笑ってるのがたくさん。

それと・・・生徒会の仮装の。


ソノちゃんが撮ってくれた舞台に上がる前。

舞台の上で、芳くんと数馬くんとわたしがポーズを取っているところ。

自分で言うのも何だけど、意外に決まってるよね。

こういうファッションに憧れるひとがいるのも、少しわかる気がする。


それから・・・、数馬くんに手を引かれて戻るところ。やだ、だめ! 見られない!

今になっても恥ずかしい! 顔が熱くなっちゃう!


あーん!

あのことまで思い出しちゃった!

数馬くんの手が・・・ダメダメ! あれは何にも意味はないんだから。


だけど、だけど、だけど!


ほっぺに触ったのはホントだもん!

意味はなくても、ほんとうにあったことだもん!

なかったことにはできないよ!



はあ・・・。



なにを考えてるんだろう、わたし。

一人で盛り上がったりして。



だけどね。


数馬くんのことが好きなんだもの。

わたしじゃ全然釣り合わないってわかっているけれど、好きなんだもの。

嬉しいのは仕方ないよね?

ドキドキするくらい、許されてもいいよね?



期待はしてないよ。

わたしのことを好きになってほしいなんて、望まない。

好きになってくれたらもちろん嬉しいけれど、無理な願いだって分かってる。

“無理” っていうよりも、 “無駄” ?



でも・・・。



好きです。



いつも優しくて、わたしを勇気づけてくれる。

ほんの少しのことでも「助かるよ」って言ってくれる。

生徒会でのいろいろな相談事を、いつでも真剣に考えている。

九重祭の委員さんも、ほかの委員会の人たちも、今までにたくさん相談に来た。

なのに自分がそんなことをしてるって気付いていなくて、感謝されるといつも驚いた顔をして。


せめて、数馬くんの役に立ちたい。

同じ生徒会の仲間として、少しでも頼りにしてもらえるようになりたい。


頑張ろう・・・。



「ジャスミン! 啓ちゃんが来たわよ!」


啓ちゃん?


「はーい!」


こんな時間・・・塾の帰り?

そうだ!


「啓ちゃん、啓ちゃん! 写真がこんなにあるの!」


プリントしてもらった写真と携帯を持って、リビングへ。

わたしの顔を見て、にっこり笑う啓ちゃん・・・と、叔母さん。


「あれ、叔母さんも一緒? こんばんは。」


「こんばんは、ジャスミン。代休の間に来ようと思ったんだけど、原稿の締め切りがあって忙しくて。」


「原稿?」


「そうなの。ほら、PTAの広報委員だから。 わたし、体育祭の担当でね、その原稿。」


ああ、PTAの広報誌を作るのね。


「忙しかったんだね。」


「そうよ。でも、なんとか提出したから、写真を持ってきたの。早く見せようと思って。」


「写真?」


「そう。体育祭の。」


「体育祭は家族は・・・あ、広報委員だから?」


「当たり! 広報委員だから、一般の保護者が見られない体育祭もフリーパスってわけ。しかも、写真も取り放題よ♪」


なるほどね。


「春菜はそれが目的で引き受けたんでしょう?」


“春菜” は叔母さんの名前。

うちのお母さんは “若菜” だ。

お互いに名前で呼び合っているのは、子どものころのままらしい。


「引き受けたんじゃなくて、じゃんけんで勝ち取ったのよ。広報委員の体育祭担当は人気があるんだから。」


ふうん。


「母さん、写真は?」


「あ、そうそう。ええと・・・、ああ、これだわ。はい、開けてみて。」


差し出された封筒を開けるわたしの後ろにお母さん。

出てきた写真は。


「あ。」

「あら。」



啓ちゃんとわたし・・・。



手をつないで走っているところ。

顔を見合わせて笑っているところ。

パンを取るために、わたしがおぶわれて手を伸ばしているところ。


「叔母さん、これ・・・。」


思わず胸が詰まって、言葉が途切れてしまう。


「小さいころの二人みたいねえ。」


お母さんが懐かしそうに言った。


「いい写真でしょう?」


あのときの気持ちがよみがえる。

一緒に走って、泣きそうになってしまった・・・。


「ジャス、さっき、写真がたくさんあるって言ってたけど?」


あ。

啓ちゃん。


「あ、うん、そうなの。」


涙が出る前でよかった。


「ほら、見て。わたしね、イベントの写真がこんなにたくさんあるのって、初めてなの。」


「あら、お母さんにも見せてよ。今、お茶を入れるから二人とも座って。ジャス、湯呑み茶碗出して。」


「はーい。」


「今年の九重祭では、ジャスは大活躍だったもんね。」


最初はどうなることかと思いましたけど・・・。






「啓ちゃん、ありがとう。」


玄関で靴を履いている啓ちゃんにあらためてお礼を言う。


「え? 何のこと?」


そう。

きっと啓ちゃんは忘れてると思った。


「生徒会に誘ってくれたこと。」


「・・・そう? よかった?」


「うん。生徒会に出たから劇の主役が回ってきて・・・大変だったけど、クラスのみんなと仲良くなれたから。」


「ああ。ジャスはそう思うの?」


優しい笑顔。

わたしのことを何でもお見通しの啓ちゃん。


「うん。」


「そう・・・。そうだね。生徒会に出たのも一つのきっかけだったと思うよ。でも、たぶん、ジャス自身が変わったんだよ。」


「わたし?」


「うん。最近、学校で見かけるジャスは、いつも楽しそうだよ。」


楽しそう?


「うん、楽しいよ。」


「それは、ジャス自身が変わったからだと思うよ。じゃあ、おやすみ、ジャス。」


微笑んでわたしの頬をなでる啓ちゃんの手に、数馬くんの手を思い出してしまう。

かぁっと火照る頬。

啓ちゃんが気付かないといいけど。


「おやすみなさい、啓ちゃん。」





わたしが・・・変わった?

そうなのかな?


前のわたしは、どんなわたし?



一年生のとき・・・。


みんなに合わせなくちゃって頑張ってた。

目立たないことに半分はあきらめて・・・、半分はなんとかしようと思って。



二年生になって・・・そうだ。

あのとき、 “もう頑張らなくていいや” って思ったんだ。

そうしたらカナちゃんと友達になれて。ほかの人とも話せるようになって。

生徒会に出たのはそのあとだった。


つまり、生徒会に立候補しなくても、今年は友達ができていた・・・?



自分が根本的に変わったわけじゃない。

変わったのは・・・表現の仕方? 付き合い方?



今のクラスでは、無理をしないでいられる。

わたしという、そのままで。

みんな、そのままを受け入れてくれている。



去年は?


みんなに合わせようとして、自分を隠した。

自信のない自分を。



もしかしたら。


わたしはわたしのままでいれば、それでよかったのかな?

自分を隠してしまったから、みんなにわたしという存在がよくわからなくなっていた?



そうかも知れない。

“わたしはわたし” 、それでいいのに。

ほかの人と違っていても、悪いことなんかないのに。


でも、怖かった。

ほかの人と違うことが。



・・・栗原くんだ。

あのときに栗原くんと話して、 “無理するのはやめよう” って思ったんだ。



わたしに足りなかったのは、他人と違うことを認める勇気だったのかも。

一度開き直ってしまえば、あとは何でもないことなのに。

何でもないどころか、みんながわたしの存在に気付いてくれた。




ふふ。


栗原くんに、いつか、お礼を言わなくちゃ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ