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メガネに願いを  作者: 虹色
第六章 九重祭!
58/103

◇◇ どきどきの体育祭(2) ◇◇


応援席に戻ると、2年女子の最後のグループが走り出すところだった。

うちのチームは・・・ソノちゃん。


「ソノちゃーん!」

「園田、がんばれよー!」


クラスメイトたちの声が上がる。


それを聞いた1年生と3年生も、周りでソノちゃんの名前を叫ぶ。

知り合いじゃないけれど、同じチームの仲間。

そう思うと、すごく楽しい!


一斉に走り出した4人が封筒からカードを取り出して向かったのは・・・本部のテント?

ああ、先生かな?


最初にソノちゃんが英語の内川先生と手をつないで走り出した。

次の人も英語の先生?

じゃあ、条件は『英語の先生』?


ソノちゃんと僅かの差で、ほかのチームもパンの下に到着。

でも、ここで差が出た。

ソノちゃんが連れてきた内川先生は、背の高い男の先生!


内川先生を急かしてソノちゃんが背中に乗り、あっという間にパンを取る。そのまま1位でゴール!

さすが、ソノちゃん。先のことを見通して素早く判断するのって、才能だよね。


「やったー!」

「園田、えらいぞー!」


盛り上がる応援席。

わたしもカナちゃんと手を握り合わせてぴょんぴょんととび跳ねて。


「お、日向だ。」


後ろから栗原くんの声。


・・・そうだった。

数馬くんの応援を!



と、思ったけど。



どうしよう?

緊張して、ドキドキしてきちゃった・・・。


「日向くん、何番目?」


カナちゃんはいいよね、「日向くん」って気軽に呼べて・・・。


「え、ええと、かかっ、かっ、かっ、か・・・。」


ダメだ。

言えない。

変な鳥の鳴き声みたいになっちゃってるし・・・。


「3番目、くらいかな?」


ああ・・・、やっぱり無理?


くよくよ考えている間にふた組のレースが終わり、数馬くんがスタートラインに。


「日向くーん! 頑張って〜!」


!!


桃ちゃんの声だ!


さすがに演劇部だけあって、よく通る。

しかもきれいな声。


わたしも負けないで応援しなくちゃ!

息を吸って。せーの!


「・・・・か・・ずま、くん・・・。」


だめ!

こんな声じゃ、隣のカナちゃんにだって聞こえないよ〜!


「日向〜!」


栗原くんも大きな声。


そうだ!

こんなに周りの人が声を出していたら、わたしが呼んでも、みんな気付かないかも。

気付かれなければ平気かも!


もう一度、息を吸って。


「か」

パーン!!


スタートのピストルと被った?!


もう、どうでもいいや!

ああ、数馬くん、頑張って!


カードには・・・何て?


ん?

こっちに来る?


そうだよね?

こっちを見てる。一直線に。


あれ?


もしかして、わたしだったり?

香織ちゃんが、別名『告白レース』って。

いえ、わたしじゃなくて桃ちゃんってことも、でも、見てるのは・・・。


やっぱり?!

目の前だよ!!


どうしよう?

そりゃあ、最近は普通にお話しもできるようになったけど!

みんなの前で?

手をつないで?


どうしよう?!

恥ずかしいよ!


「栗原!!」



・・・誰?



「あれ? 俺?」


後ろから声が?


「ごめん、ちょっと通して。」


あ。

栗原くんか。

はいはい、行ってらっしゃい。



あー・・・。


男の子同士、手をつないでるよ。

なんか、可愛いね。


「一瞬、茉莉さんがご指名されるのかと思っちゃった。」


カナちゃん・・・。


「まさか〜。 さっき一度行って来たもの。そんなに何回もご指名されないよ〜。あははは・・・。」


「そうだよねー。ふふ。」


そうだよ。

当たり前じゃないの。


・・・ん?

なんとなく視線が・・・桃ちゃん?


もしかして、笑った?


そうだよね?

今、鼻で笑ったでしょう?!

わたしが数馬くんに呼ばれると期待してたと思ってるんでしょう?!


そんなことないんだから!

ここでご指名されなくても、わたしは数馬くんとはお友達なんだから!!



「数馬くーん! 行けー!」



やった! 言えた!

簡単なことじゃない?

ほら、何度でも。


「数馬くーん!」


よし!


フィールドでは栗原くんの背中に乗った数馬くんがあっという間にパンを取って、二人で仲良くゴールへと走っている。

一着でゴールした二人に応援席の生徒が歓声を上げる。

その歓声の中で、カナちゃんがいつもの無邪気な顔で言った。


「茉莉さん。」


「え、なあに?」


「あたし、茉莉さんが日向くんのこと『数馬くん』って呼ぶの、初めて聞いた気がする。」


「・・・そうだった、かな?」


やだ、カナちゃん。

そんなこと言われたら、急に恥ずかしくなってきちゃう・・・。


「い、い、いつも呼んでるんだよ、いつも。ほら、さっきの一年生は『潤くん』だし。」


「うん。そっちはときどき聞いてたけど、日向くんのことは・・・、おとといだって言わなかったよね?」


「そ、そうだった・・・?」


あーん、ダメだよ。

指摘しないで〜。

顔が熱い。

カナちゃんの顔を見ることができない。


「茉莉さん。」


「はい・・・。」


「一歩前進?」


一歩・・・?

わたしの気持ち、バレちゃった?


「・・・どうだろう?」


たぶん、4分の1歩・・・くらいかな。

確実なのは、 “ひたすら恥ずかしい” ・・・ってこと。


「ふふふ。茉莉さん、可愛いね。」


「カナちゃん・・・。」


そんなに笑わないで。


カナちゃんだって、一葉の手塚くんはどうなの?

おととい、文化祭に来てくれてて、ごあいさつしたとき、嬉しそうだったよ。

来月の大会で会えるといいね。


・・・って、わたしが言ったら否定する?




・・・あれ?

桃ちゃんにご指名だ。

たしか7組の男の子だよね?


よかったね、桃ちゃん。

もう、数馬くんを狙う必要なんてないでしょう?

行ってらっしゃーい♪



3年女子が終わるころ、不機嫌な顔で桃ちゃんが戻ってきた。

何かが起こったのか、何も起こらなかったのか。

不機嫌の原因はなんだろうね?



そういえば、啓ちゃんも出るっていってたけど・・・ああ、3年男子の最初のグループにいた。


「啓ちゃーん!」


あ、気付いた?

手を振り返してくれた。



パーン!



スタートから封筒を開けるまでは、ほとんど差がつかない。

あれ? 4人のうち3人もこっちに来るけど?!

啓ちゃんと・・・あと2人の先輩も知ってる。っていうか、見覚えがある。いつもごあいさつしてくれる・・・。


「ジャス!」

「ジャスミンちゃん!」

「ジャスミンちゃん!」


3人とも?!


「キャ〜! 茉莉さん、すごい!」


みんなで後ろから叩かないで〜!!


「星野先輩、笑って〜!」

「星野くーん! 頑張って〜!」


周りで女の子たちの黄色い声。

啓ちゃんがいるなら、啓ちゃんに決まって・・・啓ちゃん! ほかの二人を睨まなくてもいいから!


「あの、ごめんなさい。」


二人の先輩に謝って、啓ちゃんと手をつなぐ。


「行くよ。」


わたしがうなずくと、啓ちゃんがわたしを引っ張るように駆けだした。



啓ちゃんと手をつないで走るなんて、何年振りだろう?

とても懐かしい感じがする。


啓ちゃんがにっこりと笑いかける。

大好きな優しい笑顔。


そうだ。

いつもこの笑顔に元気づけられてきた。


「ジャス、急いで。」


「うん。」


こんなふうにおんぶしてもらうのは、今日が最後?


「取れた!」


啓ちゃん。

いつも見守っていてくれてありがとう。



ゴールに向かって走りながら、少しだけ泣きそうになった。






午後に行われたオリジナル種目の『ディフェンス玉入れ』は、とにかく盛り上がった。・・・・笑いで。


玉やディフェンスのラケットが当たってもいいようにと、前列に並ぶ投球係全員がヘルメットを着用させられ、その姿だけでも面白かった。

投げた玉はなかなかカゴに入らず、ものすごく得点の低い玉入れになった。0対0で延長も一度。

向き合って投げ合うので玉が後ろに飛んで行き、玉拾いが間に合わなくて、投球係の半分が一緒に玉拾いをしたり。

男子のエキサイトした試合では、向き合った投球係がカゴではなく相手の生徒に玉を投げ始めた。


わたしも投球係として参加したけれど、投げた玉はことごとく相手のディフェンスにブロックされた。

でも、後ろにいるディフェンスがブロックした玉が落ちてきて自分のヘルメットに当たるのは可笑しくて、カナちゃんと大笑いしてしまった。


その隙間を縫って、啓ちゃんや生徒会のみんなの声援が聞こえた。

自分を応援してくれる人がいるって、とても嬉しい。

わたしの声も、みんなに届いたかな?

頑張って呼んだ数馬くんにも・・・?







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