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メガネに願いを  作者: 虹色
第六章 九重祭!
54/103

◆◆ こうなったら。 ◆◆


なんだ、今のは?!

あれ、航平兄ちゃんだったよな?


花束を渡しに行って・・・茉莉ちゃんが抱きついたように見えた・・・けど・・・。


「茉莉花って、意外に大胆ね?」


「え?」


浜野さん?

いつのまに隣に・・・。


「みんなの前であんなに堂々と抱きついたりして、超ラブラブって感じ。そう思わない、日向くん?」


ほかの人にもそう見えた?


「そうかな? 違うと思うよ。」


絶対に違うはずだ。


そうだ!

あれは茉莉ちゃんが抱きついたんじゃなくて、兄ちゃんが無理矢理舞台から抱き下ろしたに違いない。


「花束なんて、茉莉花の彼氏なのかし・・・・あ、日向くん!」


とにかく兄ちゃんを捕まえて、ちゃんと話を聞かなくちゃ!

たしか、講堂からは出て行ったような・・・。




それにしても。

衣装を着ていた茉莉ちゃんは、ものすごく可愛かった。

いや、普段でも十分すぎるほど可愛いけど、あれは!

なんていうか・・・他人に見られないように、箱にしまっておきたいくらいだった。


その余韻に浸っているときに、あんなふうに登場するなんて。

思わず立ち上がって叫びそうになったじゃないか!

まったく、高校の文化祭であんなことするなんて、カッコつけすぎだ!



あ。

いた。

けど。


囲まれてるよ・・・。



扉を出て左側の少し先に、廊下を塞ぐほどの男子生徒の集団。

その中心で、窓側の壁を背に、相手の攻撃を防ぐように両手を胸の前にかざして、困った顔をしている背の高い男。

航平兄ちゃんはスポーツで鍛えた体が自慢だし、顔も凛々しくて精悍だって褒められるけど、今はどう見ても、ファンに囲まれているスポーツ選手には見えない。


つまり・・・。

取り囲んでいるのは、俺と同じ目的の生徒だな。


何人いるんだ?


あ、佐藤と川村。

二人とも浜野さんの追っかけじゃなかったのかよ! しかも、俺よりも先にって・・・。

それに・・・木田に吉川、野口・・・ああ、あいつも、去年同じクラスだった。

きっと、こういう場面には必ず・・・やっぱりいた。潤と慎也。



・・・放っておこう。



あの様子だと、俺が出て行くまでもない。

俺が言いたいことは全部、ほかの誰かが言ってくれるだろう。

それも、俺が言うよりもずっと効果的に。


みんなの前で花束を渡すなんて気障なことをしたり、茉莉ちゃんを舞台から抱き下ろしたりした罰だ!

たくさん困ってしまえ!



そうだ。


この隙に控室の出入り口に行って、茉莉ちゃんが出てくるのを待とう!

兄ちゃんの狼藉を謝らなくちゃ!

それから、劇の成功のお祝いを言って・・・。


「あ! 数馬! おーい、助けてくれよ!」


うわ! 見つかった!

いや、聞こえなかったふりをすれば。


「数馬〜! こっちに来て説明してくれよ!」


ああ・・・、だめか・・・。


あんなに名前を呼ばれたら、俺が関係者だってことは隠せないじゃないか。

声がでかいから・・・。


「日向の知り合い?」


え?!

あ。

星野先輩・・・。


「はい・・・。上の兄です。すみません・・・。」


「ああ、二人いるって・・・。」


「数馬〜!!」


もう! ・・・え?

もしかして、俺も睨まれてる・・・?

こんなに大勢に睨まれるのはさすがに怖い・・・。

俺もみんなと同じ気持ちなのに!


「ええと・・・。」


「日向。ちゃんと説明してくれよ。」


「わ! そんなに引っ張らなくても。」


俺も悪者扱いかよ?!


「数馬〜。みんな信用してくれないんだよ〜。」


あーあ、もう。


「あんなところで花束を渡したりするからだぞ。」


「なんでだよ? 花束って、ああやって渡すものじゃないのか?」


「そういうこともあるかもしれないけど、出てくるのを待つとか、控室に届けてもらうとか、もっと地味な方法があるだろ?」


「ああ、そうか!」


まったく。

目立ちたがり屋の性格だから、地味なことは考え付かないんだな。


「日向。誰なんだよ?」


佐藤・・・。そんなにジト目で見るなよ。


「ええと・・・、うちの兄貴・・・。」


「ふうん。で、大野さんとはどういう関係?」


あ! そうだった!


「そうだよ! なんで花束なんて急に?」


たった2回会っただけだぞ!

いつの間にそんなに仲良くなったんだよ?!


「おふくろに頼まれたんだよ。今朝、茉莉ちゃんを見に行くって張り切って準備してたら、スリッパが足にひっかかって転んでさあ。」


え?


「テーブルの脚に頭打ったんで、親父が念のために病院に連れて行くことになって。で、行けない代わりに手紙を書くから、花束と一緒に渡してくれって言われて。」


「母さんの代理・・・。」


転んで頭を打つなんて、そそっかしい母さんなら十分にあり得る・・・。


いや!

だからって、茉莉ちゃんを舞台から下ろしたりする必要はないはずだ!


「だけど、どうしてあんなことしたんだよ?!」


「あんなこと?」


「茉莉ちゃんを舞台から・・・。」


「ん? ああ! あれか! 落っこちそうになったんだよ。」


「へ?」


「花束を受け取ろうとして、落っこちそうに、っていうか、落っこちて来たんだよ。」


落っこちた?!


「それを受け止めた・・・?」


「そう。あそこにいたのが俺だったから、ちゃんと受け止められたけどな。」


威張るなよ・・・。


・・・まあ、助けてくれたんだから、少しは威張ってもいいのか。


「なんだ。」


にやにやしないでくれ!


「日向、ちょっと訊くけど。」


「え、あ、うん。」


周りのこと、一瞬忘れてた・・・。


「どうして日向のおふくろさんが、大野さんと知り合いなんだ? しかも、張り切って劇を見に来るほど。」



そうだった・・・。

花束よりも前に、そっちが・・・。


「あれ? 知らないの?」


兄ちゃん!


「茉莉ちゃん、うちに歌の練習に来てて。」


「歌?! ・・・ですか?」


「そうだよ。ほら、さっき、劇で歌ってただろ? あれの練習。うちの母親、音大出だから。」


「日向・・・。」


ああ・・・。

追及の矛先が、兄ちゃんから俺に・・・。


「どういうきっかけで? 日向が誘ったのか?」


「ち、違う違う! 栗原が!」


「栗原? バスケ部の?」


「そうだよ、栗原なんだよ。あいつが直接、うちの母親に頼んで。」


「直接?」


「う・・、嘘じゃないよ。あいつのお母さんとうちの母親がコーラス仲間で、それで。」


俺だって驚いたんだから。


「ふうん・・・。」


納得した顔じゃないな・・・。

ああ・・・、どれだけ続くんだ?

そうだ!

適当に言い訳して、さっさと茉莉ちゃんのところへ・・・。


「じゃあ、数馬。俺、用が済んだから帰るから。」


「う、あ、・・・うん。」


「おふくろの様子がわかったらメールするよ。じゃあな。」


先に逃げられた!

いや、俺も!


「ええと、俺ちょっと」


「日向。俺、さっきから気になってたんだけど。」


「あー・・・、なに?」


逃げられない・・・?


「お前の兄さん、大野さんのこと『茉莉ちゃん』って呼んでたけど、大野さんが歌を習ってたのは、日向のお母さんなんだよな?」


やっぱり気付かれてた・・・?


「・・・そうだけど。」


「でも、日向の兄さんとも仲良くなる時間があったわけ?」


うう・・・。

もう、どうにでもなれ!


「うちの家族が女の子を珍しがって、一緒にケーキ食べて、お茶飲んだんだよ。悪いか?」


とは言っても、さすがに夕飯も食べたとは言えないな・・・。


「ケーキ食べてお茶〜〜〜〜?! 日向、ずるいぞ!」


「ずるいって、家族全員でだぞ? 俺と1対1じゃないし。」


俺は自分の部屋に、茉莉ちゃんに入ってもらうこともできなかったんだぞ!

その残念な気持ち、わかるのか?


「当たり前だ、そんなこと!」


「だいたいお前たち、いつから茉莉ちゃんに注目してたんだよ? ついさっきじゃないのか? 俺はもっと前から・・・友達なんだ。」


“友達” としか言えないのが辛い!


「だからって、『茉莉ちゃん』は特別すぎるんじゃないのか? 兄弟そろって『茉莉ちゃん』『茉莉ちゃん』って、自慢げに!」


「自慢げって、なんだよ? じゃあ、もっと自慢してやるよ。俺は茉莉ちゃんから『数馬くん』って呼ばれてるんだぜ。」



あ。



・・・あれ?



みんな、黙っちゃった・・・?




どうしよう?! 言いすぎたか?!


「あ、あの、それは、俺だけじゃなくて」


「そう。俺は茉莉花から『虎次郎くん』って呼ばれてるぜ。」


聞き慣れた低い声とともに、肩に手が。


「俺なんか『芳くん』だぜ。」


笑いを含んだ軽やかな声が反対側に。

こんなにいいタイミングで登場してくれるなんて!


「何か文句あるか?」


「な、なんでお前たちだけ・・・?」


「星野先輩から、茉莉花のことを頼まれてるから、とーくーべーつ。」


「星野先輩・・・? 前の生徒会長・・・?」


「そう。で、ジャスミンのいとこ。」


あ、先輩も。


俺の両側に立った三人は堂々として、まるで窮地に現れた三銃士。

俺は・・・銃士隊に憧れつつも、単なる見習いにすぎないダルタニヤンか。


「キミたちも、生徒会役員を引き受けてくれればよかったのに。」


さすが星野先輩。

穏やかな笑顔なのに、もう誰も言い返して来ない。


やっぱり俺とは格が違うな・・・。







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