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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
52/103

◆◆ キスと素顔 ◆◆


茉莉ちゃんが隣を歩いている。

最近、ようやく俺に慣れてくれたみたいでうれしい。


生徒会の中では、今のところは茉莉ちゃんと芳輝とのあいだには何もないようだし、虎次郎には彼女がいるから心配する必要がなくなった。

いつも、調子に乗りすぎないように気をつけてはいるけれど、どうしても次の段階へと期待してしまう気持ちがおさまらない。


「数馬くんのお誕生日って、いつ?」


「誕生日?」


そんなこと気にしてくれるなんて! ・・・あれ?


「あ、今日・・・だった。」


「え? 今日? ほんとうに?」


「・・・・うん。」


もっと早く思い出して、さり気なく知らせておけば、もしかしたら何か・・・。


「困ったな。何も用意してなかった・・・。」


「あ、あの、べつにいいよ。もう誕生日を祝ってもらうほど子どもじゃないし。」


訊いてくれただけでも俺は十分に・・・。


「じゃあ、これでいい? ちょっと止まって。」


え?

そんなふうににこにこして・・・?


「前向いてて。」


ふいに、右頬に柔らかい感触が・・・。

もしかして、これは・・・?


ほっぺに・・・ってやつか?!

急に・・・え? 茉莉ちゃんが?

信じられない!!


「あ、あの・・・。」


「ごめんなさい、これだけしかなくて。」


いやいやいや、これ以上のものは・・・。


「あ、あ、あ、ありがとう。あの、ええと、その・・・、ま、茉莉ちゃんの誕生日は、その、・・・いつ?」


「わたし? わたしは夏休み中。」


「え? じゃあ、過ぎちゃった? ああ、気付かなくてごめん。」


「いいの。そうやって訊いてくれただけで嬉しいから。」


うわ・・・、そんなこと言ってくれるなんて。

今日の茉莉ちゃん、どうしちゃったんだろう?


「あの、遅れてもよければ俺からも・・・。」


「お返し?」


あ〜。

そんなポーズで見つめられたら、俺、どうにかなっちゃいそうだよ!


「う、うん。さ・・・、さっきと同じ・・・でよければ。」


笑った〜!

それでOKってこと?!

それに、嬉しいってこと?!


「じゃあね、お願いがあるの。」


「なに?」


「あのね、 “おとなの” にしてほしいんだけど・・・。」


オトナノ・・・? って、大人の?!

それは・・・、つまり・・・。


う・・・苦しい・・・。


息してなかった!

あんまりびっくりして・・・。


「あの、大人の・・・キス・・・ってこと?」


恥ずかしそうにうなずいてる・・・。

けど、言ってることは大胆・・・。


どうしちゃったんだろう?

茉莉ちゃんがこんなに積極的に・・・?


「だめ?」


「いっ、いや、その」


「不公平かなあ?」


あ〜、いや、そうじゃなくて・・・。


ああ・・・。

そんなことを真面目に悩んでる姿もかわいい・・・。


あ、笑った。


「あのね、こういうことにしない? 遅れた分のペナルティって。」


だから、茉莉ちゃんの要求の方が大きいと?

そんなことなら、もっと遅くなったらどんな・・・いや、その。


「い、いいよ、もちろん。」


「よかった。」


うわ。

その笑顔、全部俺のもの?


「じゃあ・・・いくよ。」


「うん。」



・・・・・。



「ええと、ちょっと遠い、かな。」


「え、そう? じゃあ、一歩・・・。どう?」


「うん。」


こんなもの・・・かな?

今度こそ。



・・・・・。



「あ、あの、不安定だから・・・その、手を・・・かけても・・・いい?」


「・・・はい。」


ええと、肩・・・? いや、この際、思い切って背中・・・いや、やっぱり肩か?


・・・勇気が出ない。肩だ。

いや、男らしく一気に・・・背中だ!



うわ、なんか・・・思ったより密着度が・・・って、茉莉ちゃん!

そんなふうに腕を俺の首にまわしたりしたら!!


ああ、とにかく今はやらなくちゃいけないことが。




・・・・・あ。


メガネが。




「あの・・・、メガネを外しても・・・?」


「だめ。」


「え?」


「だめなの。メガネははずさないの。」


そんな。

けっこう邪魔なんだけど・・・。


「あの、」


「はずさないの。」


どうしてなんだ? こんなに頑なに・・・。


でも・・・仕方ない。

この態勢まで来てストップするわけには・・・・。


「大野。」


え?! 誰?! ・・・栗原!!


「あ、翔くん。」


え?! 「翔くん」?!

茉莉ちゃん、いつから・・・?

あれ、行っちゃうの?


「どうした、大野?」


「あのね、数馬くんが無理矢理・・・」


え?

あの?

無理矢理?


「メガネをはずさせようとするの。」


そっち?!


「ええと、その・・・。」


どうなってるのか、全然・・・。


「なんだって? 日向、大野は俺の前以外では、メガネをはずさないって決めてるんだ。」


「は、はあ・・・。」


キスは誰としても・・・?


「素顔は俺以外には見せないって決めてるんだよ。なあ、大野?」


「うん!」


茉莉ちゃん・・・。

そんなに嬉しそうに・・・?


「あー。なんだか久しぶりに見たいなあ。ちょっとメガネはずしてみて。あ、いや、俺が・・・。」


そんな!

俺の目の前でそんなこと・・・。


「あ、日向に見えないようにこっち向いて。」


「そうだね。」


やめろ。

俺の前でそんな。


「やめてくれっ!!」



ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ・・・・・・・・。



?!



・・・・誰もいない。



ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ・・・・・・・・。



天井?


頭の上・・・目覚まし時計?



ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ・・・・・・・・。



「数馬! うるさいぞ! 早く止めろ!」


兄ちゃんの声だ・・・。


あ・・・早く止めなくちゃ!



ピ。



・・・夢・・・だった?

それにしては、ものすごいリアルな・・・。


茉莉ちゃんを抱き締めた感触が体に・・・、まだドキドキしてるし。



あんなこと、あるわけないのに。

相手は茉莉ちゃんなんだぞ。

しかも、どこだよ、あれは?


なんで、あんな夢・・・。


どうせ夢ならハッピーエンドがよかったのに・・・邪魔ばっかり入って。

目覚まし時計・・・ちょうどよかった?



「はーーー・・・。」



落ち着け。



今日って、ほんとうに俺の誕生日だ。



願望だよな、やっぱり。

だけど、自信がないからあんな・・・。

栗原が茉莉ちゃんの素顔の話をしたのって、いつだっけ?

あんなふうに夢に出てくるなんて、実はかなりショックだったんだなあ・・・。


栗原は俺が茉莉ちゃんを好きだって気付いてるみたいだけど・・・。

だからって、栗原が茉莉ちゃんを好きじゃない証拠にはならないよな?

あのときの “貸し” を、どんな内容で返せって言われるかわからないし・・・。



あーあ。

誕生日なのに、変な夢見ちゃったな・・・。






「それがね。一度、衣装をつけたところを見たら、全然平気になっちゃって。」


茉莉ちゃんが後夜祭の準備をしながら、涼子ちゃんと話している。


「ロボットの衣装って、着るものっていうよりも、大道具みたいなんだよ。もう、笑わないでいるのが大変なの。」


「そうなんですか。」


「制服のままで練習しているときは恋人役なんて恥ずかしかったけどね、今はあの衣装を着たところを思い出すたびに可笑しくて、それどころじゃないの。ふふふ。」


栗原め、ざまあみろ!


「でも、茉莉花先輩の衣装はかわいいって聞きましたよ。」


俺もウワサは聞いたよ。

新たなファンを大量に獲得しそうな勢いだよ・・・。


「潤くんたちから? あのとき見に来ていて、びっくりしちゃった。でも、うちのクラスの衣装は、女子のは全部かわいいよ。男子もタキシードの人もいるんだよ。」


「見るだけでも楽しそうですね! あ、もちろん劇そのものも楽しみですけど。」


「まあ、演技はみんな素人だから・・・。一応、みんな頑張ってるのはたしかだから、見に・・・わたし以外を見に来てね。」


「先輩は主役なんですから、どうしても見えちゃいますよ?」


「うーん、じゃあ、見えない気分で見てね。」


茉莉ちゃん、言うことがかわいい・・・。


「ふふ、分かりました。そうします。」


俺は一番前の席で見たい!!


だけど、茉莉ちゃんと栗原のことって、少しだけ不安が減った気がする。

茉莉ちゃんが話している様子だと、栗原のことを特別に考えているようには見えないもんな。

向こうがどう思ってるかはわからないけど。





「数馬くん。」


帰り道で隣を歩いている茉莉ちゃん。

今朝の夢を思い出してしまう。

途中まで、幸せすぎるほどだった夢を・・・。


「なに?」


ちらりと前を歩くみんなを見た?


「ちょっと止まって。」


あれ?

そのセリフ・・・。

それに、その恥ずかしげな様子・・・。


「あのね、その・・・数馬くん、お誕生日・・・」


誕生日?!

え? あれ?

もしかして、正夢?!


「今日だよね?」


あ、夢と違ってる。


「う、ん・・・。そう。」


知ってた?


「あのね、これ、プレゼント・・・です。」


え?


「ええと、べつにストーカーしたわけじゃなくて、この前、お母さんが教えてくれて、だから・・・。」


母さんが?!


「あの、レッスンのときのお迎えとか、パソコンとか・・・いろいろお世話になってるから。」


茉莉ちゃんからプレゼント・・・。

恥ずかしがり屋の茉莉ちゃんが、俺に渡すために・・・。


「あり、が、とう。あの・・・、」


感動してうまく言葉が出てこない。

キスなんかじゃなくても、こんなに嬉しい。


「ええと、文庫本のカバーなの。あの、よかったら使って。・・・あ、遅れちゃったね。行かないと・・・ね?」


「え? あ、ああ、うん。あの、ありがとう。大事に使うよ。」


飾っておこう! いや、やっぱり使おう!

その横顔は今日の記憶に焼き付けて。



茉莉ちゃん。

お礼はほっぺにキス・・・したいけど、まだ当分はさせてもらえないよね・・・。









第五章はここまでです。

次から第六章に入ります。

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