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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◇◇ 衣装! ◇◇


文化祭まであと一週間。

今日の土曜日は授業がない日だけれど、ほとんどの生徒が朝からやって来て、文化祭や体育祭の準備。

うちのクラスは劇の練習の前に、衣装を着てみることになっている。


生徒会の方はすでに衣装の試着は済んで、小道具もそろった。今は、ポーズや歩き方の練習中。

登場するときのナレーションを考えるのも楽しくて、涼子ちゃんを中心に、いつも笑い声が上がっている。



劇で歌う歌は、数馬くんのお母さんの2回目のレッスンを終えて、今はみっちゃんの伴奏に合わせて練習している。

基本的なコツをピンポイントで教えてもらったので、分かりやすかったし、自分で練習するときにも助かっている。


数馬くんの家でのお夕食は、とにかく楽しかった。

でも・・・、一番の思い出はレッスンの休憩時間。数馬くんも一緒で。


数馬くんは、実はピアノが弾ける。しかも、かなり上手。

でも、今は隠しているそうだ。

なぜなら、中学のときに音楽の先生にしょっちゅう伴奏を頼まれて、そのうち、数馬くんが伴奏をやるのが当たり前だとみんなに思われるようになってしまったから。

ピアノを弾くのは嫌いではないけれど、周りから勝手に期待されるのは嫌だって。その気持ち、わたしもわかる。

それに、数馬くんがそんなことを話してくれたことが嬉しくて、ちょっと近付けた気がした。


お母さんが電話をかけに行っているあいだに、数馬くんが中学の時に覚えた伴奏を思い出しながら弾いてくれて・・・それに合わせて歌って。緊張して声が震えてしまったけれど。

二人で話したり、笑ったりできた時間がまるで夢のようだった。

ほんの20分くらいの間に、なんだか、一生分の幸せが一気に押し寄せたみたい。

もう、あんなことは二度とないだろうな。


おまけは・・・数馬くんの誕生日がわかったこと!

お母さんからプレゼントの相談をされたので。

わたしも何かあげたいけれど、図々しいかな・・・?




「わあ! それ、香織用? けっこうセクシーじゃない?」


女子用衣装係のレイちゃんと雅代ちゃんが、用意した服を大きなバッグから取り出すと、周りの女子から声が上がった。

男の子たちは遠慮気味に、教室の反対側で自分たちの衣装の確認中。


たしかに大人っぽい。

ホルターネックのワンピース。ラメ入り紫の生地に銀色のスパンコールと銀色のベルト。


「やっぱりそう思う? 胸と背中が開き過ぎかなって思ってたんだよね・・・。」


「たしかに着せ替え人形って、そういう服あるよね。でも・・・。」


「舞台では映えないかな? じゃあ、次の候補は・・・これだね。どう? カウガール風。」


出て来たのは肩のヨーク部分が茶色に切り替えてあるブルーのデニムのシャツと茶色のショートパンツ。


「かわいい!」


香織ちゃんがまっさきに声を上げた。


「帽子もあるんだよ、カウボーイハット。あと、ブーツは誰か・・・。」


「あ、あたし、自分のがあるよ。茶色でいいんでしょ?」


「うん、そう。」


「ねえ、ソノちゃん。あたし、これがいい。」


そう言いながら、衣装を当ててみている香織ちゃん。

ショートパンツはほんとうに短い。

でも、スタイルがいい香織ちゃんなら、脚線美が目立ってとても似合いそう。


「いいよ。じゃあ、香織はそれで決まりね。モデル歩きをしっかりマスターしてね。」


「了解。」


「カナちゃんは白い小犬のイメージで、これ。」


次に出てきたのは、白いふわふわしたワンピース。


「スカートがバルーンになってるの。ウエストは首輪っぽく赤の帯で・・・。」


なるほど。

プードルだ。


あのバッグから次々と洋服が出てくるのが魔法みたい。

さっきは帽子まで。


「かわいいね。いいよ、それで。」


カナちゃんはすぐにOK?

でも、カナちゃんの雰囲気にも合ってるし、似合いそう。

レイちゃんたちのセンスに感心しちゃう。


「いよいよ茉莉さんのだよ! ほんとうに可愛いんだから!」


ううう・・、ピンクのワンピースだよね?

仕方ない仕方ない仕方ない。

主役だし、お姫様だし。


「まずはペチコート。」


うわ。


覚悟はしていたけど・・・ペチコートでそんな?

ものすごいヒラヒラ。何枚重ね?

それに・・・なんだか短いような・・・?


「で、これがワンピースだよ!」


うわ、スイートピンク!


膨らんだ袖。胸元とスカートの前側には白い切り替え、いたるところにピンクと白のリボンとレースがひらひらひら。

それに・・・やっぱり短いよ?!


「「「きゃーーー! かわいーーーー!!」」」


女子の悲鳴・・・。


たしかに可愛い・・・と思うけれど。

でも、これって・・・、これって・・・、もしかしたら・・・。


「あの・・・、レイちゃん、これって・・・?」


「茉莉さん、知らない? ロリータの衣装なんだけど?」


やっぱり?!!


「靴もあるんだよ、ほら。」


ストラップ付きの踵の高いピンクのエナメル靴。・・・さすが。


「あとね、帽子。」


ピンクにお花、お花、お花・・・・、そしてあごの下で結ぶひらひらのリボン!


「それからパラソル。」


またもやピンク! ・・・に、白いレースとフリル!


「バッグもあるけど。」


今度は白? ・・・に、赤いお花が。


レイちゃんが一つ取り出すたびに、周囲の女の子たちが歓声をあげている。

わたしも叫び出したい気分・・・。


「レイちゃん、わたしはこれで決まり・・・?」


「え? だって、茉莉さん、ピンクのワンピースでいいって言ったから、ほかの候補は考えてなかったけど・・・?」


ああ・・・、そうだった。

あのとき「覚悟してた」って答えたんだっけ。


「かわいいけど・・・、思っていたよりも、ちょっとスカートが短いみたいな気がして・・・。」


「ああ、大丈夫だよ。茉莉さんは小さいから少し長めになるし、ペチコートがボリュームがあるから、舞台の下から見上げられても見えないと思うよ。」


「そう・・・、よかった。」


「お姉ちゃんがもう着ないからってくれたんだけど、あたしは着る機会がなくて。まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったよ。」


役立たせないでほしかったかも・・・。


「じゃあ、みんな着てみようか。更衣室で着替えてくる?」


更衣室?!


「こ、これを着て、廊下を歩いて戻ってくるの・・・?」


「え? ああ、そうか。当日まで秘密にしておいた方がいいよね。」


いえ、ちょっと意味が違います・・・けど。


「男子はどう? 確認終わった? ・・・そう。じゃあ、男子には外に行っててもらって、女子の試着はここでしようか。はーい、出てって、出てって。着替えるんだから、絶対にのぞかないでよ!」


教室の戸のガラスはすりガラスだから、廊下からは絶対に見えないよね。


「なあ、園田。俺たちはどこで着替えるんだよ?」


「まあ、その辺で適当にやってよ。着替えたらチェックするから、勝手に脱がないでね。」


はぁ・・・。

着なくちゃいけないんだよね・・・。





「茉莉さん、かわいい!」


「あ、ありがとう・・・。」


まるで着せ替え人形になった気分・・・。


「みんな着た?」


村人2人(シンプルで羨ましい!!)に良い魔女(なぜかチャイナドレス。)、お妃さま(誰かのお母さんが結婚式で着たお色直しの青いドレス。)、メイド(もちろんメイド服だ。)、そして着せ替え人形の香織ちゃんに子犬が変身したカナちゃん、それから・・・お姫様のわたし。

みんなそれぞれ衣装をつけた景色は色とりどりで、まさにお祭りのようににぎやか。


「男子はどう?」


「おう。着たぞ。」


ソノちゃんの声に菊地くんのお返事が聞こえた。


「じゃあ、入っていいよ。」


ソノちゃんとレイちゃんが教室の前後の戸を開けた・・・ら?



「「「うおーーーー!!」」」



「わっ!」


ライオンの雄叫びではなく、男の子の叫び声!

うちのクラスって、こんなに男子がいたっけ?!


「え?! あれ誰?! ねえねえ、誰?!」

「うわ、1組の女子ってレベル高くね?」

「写真撮るから動かないで〜!」

「小池〜! ポーズとって〜! ワーオ、サイコ〜!」


信じられない!

いつの間にこんなに集まって?!

恥ずかしいよ〜! 誰かのうしろに!

さすが、香織ちゃんは余裕だね・・・。


「ジャスミンせんぱーい!」


ええ?!


あれは・・・潤くんと慎也くん?!

学年が違うのに、なんという情報の早さ!


「あ〜! ほかのクラスは見ちゃダメ! 早く入って閉めて閉めて!」


これ、当日になったら、いったいどんなことになるんだろう?

もしかしたら、先にお披露目しておいた方がいいのかな・・・?


「小道具とか、並んだ雰囲気とかチェックするから、もうしばらく着ててね。」


・・・しばらく?



どうか、トイレに行きたくなりませんように!!







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