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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◆◆ 本当のこととウソ(1) ◆◆


「涼子、ちょっと。」


芳輝が生徒会室にやってきたばかりの涼子ちゃんに声をかけている。

きのうのウワサを確認するために違いない。

茉莉ちゃんは今日も遅くなる。

俺にとっては、それが有難い。茉莉ちゃんと一緒に過ごす時間が短くて済むから。


「はい?」


顔を上げた涼子ちゃんをうしろ側の書庫に手招きして・・・俺にも一緒に来るように合図した。


「もしかして、あの話ですか?」


芳輝と俺に向かい合って、涼子ちゃんが声をひそめて尋ねる。

それに答えるのは芳輝。俺はあくまでも付き添いだ。


「うん。涼子が聞いた話・・・っていうか、一葉の生徒が言った言葉を、そのまま思い出してほしいんだ。覚えてる?」


「言葉をそのまま、ですか・・・? ええと、おとといの予備校で、なんですよね。・・・あ、そうでした。最初は先輩たちの交流会の話題で。」


「うん。」


「『九重の生徒会って、美人の先輩がいるんだろう?』って言われたんです。」


・・・嬉しいけど・・・悔しい。

それに、悲しい。


「それで、わたしが『そうなの。うちの生徒会の一年男子もファンなんだよ。』って答えて・・・。」


「うん。それから?」


「そうしたら、向こうが『でも、会長と付き合ってるんだってね。』って。」


ほら、やっぱり・・・。


「その言葉、間違いない?」


「え?」


「『会長と付き合ってる』って、それだけ?」


「・・ええ、はい、そうです。間違いなく。」


「っくくく・・・。なんだ・・・、そうか・・・。やっぱり、そうだよな・・・。くくく。」


芳輝・・・笑ってる?


「その子、『うちの会長』とは言わなかったんだよね?」


「え? ・・・ああ、そういえば、はい、言いませんでした。」


「それ、数馬のことだと思うよ。」


「え?」

「ええっ?!」


俺?!


「え? あれ? 数馬先輩って、茉莉花先輩と・・・?」


「い、いや、俺、べつに・・・?」


全然覚えがないけど?!


「全部、誤解なんだよ。まあ、誤解っていうか、わざとそう思わせたっていうか・・・。」


「よくわからないんですけど・・・。」


俺も・・・。


「ほら、数馬。交流会の帰りに、数馬が茉莉花を送って行っただろう?」


「ああ、うん。」


「そうなんですか?! それじゃあ・・・?」


涼子ちゃん、そんなに驚かないでくれ! 恥ずかしいよ!


「いや、べつに、その、特別にっていうわけじゃなくて。」


まあ、ちょっとは・・・いや、たくさんそういう気持ちがあったことは事実だけど、でも・・・。


「はは。あの日ね、茉莉花はけっこう無理をしてたんだよ。」


「無理、ですか?」


「うん。茉莉花って、人見知りだろう? 初対面の相手ばっかりの中で賑やかに過ごさなくちゃいけなくて、すごく気を遣ってたんだ。」


そうだった。

俺は助けることができなくて・・・。


「食事が終わってお開きになると思ったら、誰かがゲームセンターに行こうって言い出したんだ。みんなが同意してそっちに流れて行くところで、数馬が茉莉花を送るからって言って連れ出したんだよ。」


「う、うん。そうでもしないと、茉莉ちゃんは帰るって言えそうになかったから・・・。」


涼子ちゃん、そんなふうに意味ありげな顔をされると恥ずかしいんだけど・・・。


「そのあとね、一葉の生徒と話していたら、茉莉花の評価が高くてさ。」


「八重女のお嬢様たちよりも、ですか? さすがですね!」


「ははは・・・。そうなんだけど、ほら、茉莉花の性格を考えたら、ちょっと負担かな、と思って、虎次郎と二人でほのめかしておいたんだよ。」


「ほのめかして・・・?」


「数馬が茉莉花を送って行った理由をちょっと。」


送って行った理由を・・・つまり、そういうふうに?


うわ・・・、なんか、当たらずしも遠からず、みたいな・・・。

いや、その・・・、実は下心が・・・なんて言えないけど。

ドキドキしてきたよ・・・。

あ、困った・・。絶対、俺、赤面してる・・・。


「そうなんですか? じゃあ・・・なんだ! ただの誤解なんですね!」


う。


「わたし、『会長と付き合ってる』って聞いて、数馬先輩とはそんな事実がないって分かっていたので、てっきり一葉の会長さんだと思いこんじゃって。」



ぐさ。



胸に刃物が刺さった音だ。


はい。

そのとおり、あっちの会長も、こっちの会長も、誤解です。


「すみませんでした。潤くんと慎也くんにも、間違ったことを話してしまって。」


「うん。不確かなウワサは、誰かを傷つけてしまうことがあるから気を付けないとね。」


「はい。よく分かりました。」


「じゃあいいよ。潤と慎也にも、説明しておいてくれるかな?」


「はい。すぐに説明しておきます。じゃあ。」



・・・誤解だった。



「数馬。」


「え? あ、うん。」


「お前、きのう、茉莉花になんて訊いたんだよ?」


そうだった!

茉莉ちゃんは・・・。


「ええと、手塚と会ってるのかって。」


「で? 茉莉花は?」


「おととい会ったって・・・。」


そうだ。

やっぱり会ってるんだ・・・。


芳輝、ため息・・・?


「単数と複数の違い。」


「え?」


「茉莉花も数馬も、言葉が足りな過ぎるんだよ。」


言葉が足りな過ぎる・・・。


「ちゃんと確認しろよ。」


「うん・・・。芳輝。」


「ん?」


「芳輝は・・・全然、疑わなかったのか? その・・・茉莉ちゃんが手塚と・・・。」


「疑わない。」


「・・・どうして? そんなに確信が・・・?」


「くくっ・・・。」


また笑った?!


「うーん・・・。茉莉花って、うちの母親と同じ名前なんだよね。あ、字は違うんだけど。」


「う・・・、うん・・・。」


「それに、『芳くん』って、俺が小さいころに呼ばれてた名前でさあ。茉莉花に言われたときはドキッとしたよ。」


「そう・・・なんだ・・・。」


だから?

それが、茉莉ちゃんとの絆?


「ちゃんと確認しろよ。」


・・・え?

それで説明は終わり?

行っちゃったし・・・。



だけど・・・。


とりあえず、茉莉ちゃんはフリーってこと?

手塚のことは間違いだし、芳輝はちゃんと話せって言った。


話さなくちゃ。

いや、そうじゃない。謝らなくちゃ!

きのう、あんなに酷い態度をとったりして、俺、ほんとうにどうしようもないヤツだ。


すぐに行こう。









もう一話、数馬が続きます。

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