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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◇◇ いったい何が? ◇◇


「今日はありがとうございました。」


「いいえ。うちは男の子ばっかりだから、若いお嬢さんとお話しするのは楽しいわ。」


よかった。


数馬くんのお母さんて、お話が上手で、笑顔が素敵なひとだ。

顔のりんかくと笑ったときの雰囲気が数馬くんと似てる。

レッスンも緊張しないでできたし、ほっとした・・・。


「次はさ来週の同じ時間ね。」


「はい。よろしくお願いします。」


それまでに一通り歌えるようにして来なくちゃ。


「数馬! 茉莉花ちゃんが帰るわよ!」


「あ、あの、駅まで近いですから、一人でも・・・」


「あら、遠慮しないで。どうせヒマなんだから。」


いえ、そうじゃなくて、数馬くんと二人で歩くのが恥ずかしいんですけど・・・。

あ。

数馬くんのお父さんだ。


「あの、お休みの日にお邪魔しました。」


「いいよ、いいよ。またおいでね。美味しいケーキを見つけてくるからね。」


「はい、ありがとうございます。」


優しいお父さんだなあ・・・。

服装も若々しいし、うちのお父さんとは大違いだね。


「ああ、茉莉ちゃん、帰るんだ?」


あ、二番目のお兄さん・・・だったよね?


「はい。お邪魔しました。」


「数馬にいじめられたら、いつでも言いにおいでよ。叱ってあげるから。」


「は? あ、はい。よろしくお願いします。」


面白いお兄さんだなあ。


「茉莉ちゃん。進学でも勉強でも、友達のことでも、困ったことがあったら、いつでも相談に乗るからね。」


「は、はい。」


たしか、こちらが上のお兄さん。

社会人だけあって、話し方も落ち着いてる。

声が数馬くんと似てるような気がするな。


「ああ、よかったら車で送ろうか? いて! 数馬?」


数馬くんが、お兄さんを叩いた?!

いつも温厚な、あの数馬くんが?!


「茉莉ちゃん、待たせてごめん。行こうか。」


「は、はい。今日は、ありがとうございました。」


「はーい。じゃあ、2週間後にね。あ。」


「はい?」


「ねえ、次回はうちでお夕飯も一緒にどう?」


え? お夕飯?


「あ、いいねえ、それ。」


「お、じゃあ、俺がお好み焼きでも焼こうか?」


「あら、お客様なのにお好み焼きじゃあ・・・。」


「なんで? 茉莉ちゃん、お好み焼き、嫌い?」


「え? いいえ、そんなことは・・・。」


「ほら、大丈夫だって言ってるよ。茉莉ちゃん、俺、お好み焼き屋でバイトしてたことがあるんだよ。」


「そうなんですか・・・。」


「美味しく焼くにはちょっとコツがあるんだよ。茉莉ちゃんは具は何が好き?」


ああ、話がどんどん決まって行く・・・。

いやなわけじゃないんだけれど、迷う時間もないのはどうして・・・?


「ええと、あの、」


「航平、ちょっと待ちなさい。茉莉花ちゃん、お家のひとに相談してからでいいのよ。2週間も先の話なんだから、今決めなくても、ねえ?」


さすがお母さん!

ちゃんと気付いてくれるなんて、ほんとうに優しい。


「はい、ありがとうございます。家族と相談します。」


「お返事は数馬を通してでいいですからね。」


「はい。ありがとうございます。じゃあ、今日はこれで失礼します。」


「はい、気を付けてね。」


「じゃあ、駅まで送ってくるから。」



・・・・・。



どうしよう?

数馬くんと二人だよ。


来たときもだったけど・・・、どうしていつまでも慣れないの〜?!


「あの、」


「は、はひっ!」


どうしよう?!

声が裏がえっちゃった!


「・・・変な家族でびっくりしただろう?」


え・・・?


「ええと・・・どうして? とっても楽しかったけど・・・。」


ああ・・・、落ち着いてきた。

話題がちゃんと決まれば大丈夫・・・かな?


「・・・そう?」


「うん。うちはわたし以外は大人だけの家族だから、あんなふうに賑やかなのは羨ましいな。」


「そうかな・・・。」


「啓ちゃんはしょっちゅう遊びに来てくれてはいるけれど、毎日ではないもんね。もし、兄が生きていたらこんなふうなのかな、って思っていたの。」


それに、数馬くんの学校とは違う姿も見られたよ。

子どものころの話も聞けたし。


「ええと、その、俺・・・、あの、茉莉ちゃんのお兄さんの代わりにはなれないけど、何かのときには俺のことも頼りにして・・・ほしいな。」





「数馬くん・・・。」


あ。

見・・・、見ちゃった。

こんなに間近で。


「いいの・・・?」


メガネ・・・の、奥。きれいな瞳。

目が・・・離せない。

数馬くんの瞳の中に、何か・・・。


どうしよう?

もう駅なのに。

人がたくさん通ってるのに。

確かめたい気持ちが。


「うん。」


やさしい微笑み。

わたしに・・・?


「数馬くん・・・。」


どうしよう?

目が逸らせない。

何が起こってるの?

こんなとき、どうしたらいいの?


「茉莉ちゃん・・・。」


手を・・・伸ばしたら・・・触れることができる。

数馬くんに。

だけど・・・。


「ジャス、日向、歌のレッスン終わったの?」



え?!!



そ、その声は!!


「けっ、啓ちゃん?!」

「星野先輩?!」


びっくりした! 心臓が!!

啓ちゃん・・・、なんだか・・、ものすごいタイミングで・・・。

今日、数馬くんの家に行くって話はしたけど・・・、まさか、ここで待ち伏せしていたわけでは・・・?


「け、啓ちゃん、お出かけ?」


「模試が終わって帰って来たところ。」


偶然、なの? ほんとうに?

ああ・・・、まだ心臓が・・・。


「日向。ジャスミンがお世話になったね。」


「い、いいえ。俺は何も・・・。」


数馬くん、困っちゃってるよ〜。

そうだよね、わたしが誤解されるような態度をとったりしたから。

何か話題を探さなくちゃ・・・。


「あ、あのね、啓ちゃん。ひ、日向くんには2人もお兄さんがいるんだよ。とっても仲がいいの。」


「お兄さん? どんなひと? 日向のお兄さんだったら、きっと優秀な・・」


「啓ちゃん!」


どうしてそんな尋問口調なの?!


「だって気になるよ、ジャスが会う男は全部。」


「啓ちゃん・・・。」


“男は全部” って、そんな言い方したら疑われるよ・・・。


「日向。俺、この子に言ってるんだよ、彼氏候補者ができたら連れてくるようにって。うちのジャスを任せられる相手かどうか、ちゃんと見極めないとね。」


「は、はい・・。」


「啓ちゃん、日向くんのお兄さんたちはそういうのじゃなくて、」


「とりあえずの条件として、容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能、誠実で温和な性格ってところかな、ははは。」


もしかしてそれは・・・、それは数馬くんのこと?!

そんな条件に当てはまる人なんて、数馬君以外、あり得ないじゃないの!


やーん!


いくら数馬くんが啓ちゃんのお墨付きだって言ったって、本人の前で言うなんて!

それじゃあ、数馬くんが彼氏候補者だってわかっちゃう!


「啓ちゃん! そんな条件、勝手に決めないでよ!」


「そう? でも、九重にはけっこういそうだよ?」


「あ〜、もう、啓ちゃん! やめて!」


恥ずかしい〜〜〜!

数馬くんが気付いたらどうするの?!


「か・・・、日向くん、啓ちゃんが変なこと言ってごめんなさい! あの、これで、失礼します! 送ってくれてありがとう。明日また学校でね。」


「うん・・・。また明日・・・。」


ああ・・・。

数馬くん、ぼんやりしちゃって・・・。


ほんとうに、ごめんなさい!


「ジャス、またね。気を付けて帰れよ。」


啓ちゃん!

これ以上、数馬くんに変なこと言わないでよ!




もう!

あんなところに啓ちゃんが現れるなんて!


・・・あれ? 携帯が光ってる。

メール?

啓ちゃん?



『日向を相手に選ぶのはかまわないけど、あんな人混みで見つめ合うのはやめた方がいいと思うよ。』



わーーーーーん!!


やめて!

こんな・・・、こんなこと、メールで言われるなんて・・・恥ずかしい!!

携帯を誰かにのぞかれたりしたらどうするの?!



でも。



見つめ合ってた?


ってことは、わたしだけじゃなくて、数馬くんも・・・?



・・・そんなはず、ないか。

数馬くん、余裕で微笑んでたもんね。

いつもの、誰にでもやさしい数馬くんだよね。



だけど・・・。

あのとき、手を伸ばしていたら・・・。



わたしったら、何を考えているんだろう?

そんなことをしたら数馬くんがびっくりして、明日から警戒されちゃうよね。







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