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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◆◆ 茉莉ちゃんが来た! ◆◆


「結局、数馬が泣いてるから、俺と兄貴が悪いってことになって怒られてさあ。」


なんでだ?

どうしてさっきから、みんなで俺の失敗談ばっかりするんだ?


「そうだよな。俺と亮輔は年が一つしか違わないから一緒に育ったようなものだけど、数馬は年が離れてるから、特別に可愛がられてたもんなあ。」


しかも、まるで俺が甘えん坊みたいになってるし。


「一緒に同じことなんてできないのに俺たちについて来て、泣いた数馬をよくおぶって帰ったよな、兄貴?」


「そうだった、そうだった! ホントによく泣いてたよ、数馬は。」


今度は泣き虫か。

あーあ。


「仲が良かったんですね。」


こんな言われ方してても?


「大野さんはご兄弟は?」


お。

普通の話題に戻った!


「あ・・・、ええと、兄がいたんですけど・・・。」


あれ?

聞いたことなかったけど・・・。


「小さいころに交通事故で亡くなったんです。」


・・・え?


「あ、あら、ごめんなさい、悲しいことを・・・。」


「いえ、いいんです。すみません、暗い話で。あの、もう今は大丈夫ですから。わたし、そのころ3才くらいであんまり覚えていないんです。でも、ものすごく泣いたそうで、あまりにも悲しんだので、1つ上のいとこが、それからずっと兄の代わりをしてくれて。」


「・・・星野先輩?」


「うん、そう。」


そうか。

それで先輩は、あんなに茉莉ちゃんのことを大切にして・・・。


「いとこはちょっと過保護すぎるくらいなんです。だから、全然さびしくないんですよ。逆に困ってしまうくらいで。ふふ。」


「数馬の友達なら、俺たちのこともお兄さんと思って頼ってくれていいよ〜♪」


「は、はい。・・・ありがとうございます。」


うちの兄貴たちじゃ、引くよな・・・。


「茉莉花ちゃん、美味しいかい?」


父さん・・・、名字で呼んでくれって言ったのに・・・。


「はい。すごく美味しいです。」


「そうかい。いいねえ、女の子はケーキが似合って。」


ああ、そんなに嬉しそうな顔して。

悪かったね、3番目も男で。


「数馬は生徒会長だって聞いてるけど、しっかりやれてるのかしら?」


うわ。

また俺の話題?


「あ、はい! 数馬くんは何でもテキパキ進めてくれますし、」


え?


家族の前で「数馬くん」って?

どうしよう? すっげー恥ずかしい・・・。


「生徒会のまとめ役として、とても頼りになります。」


みんな、そこはスルーなのか?

よかった・・・。


茉莉ちゃん、褒めてくれてありがとう!

そんなふうに俺をフォローしてくれるのは茉莉ちゃんだけだよ。

お世辞だって分かってても嬉しいよ。


「そう? それならいいけど・・・。上の二人と違って、何を考えてるのかわからない子だから心配で。」


「そうですか?」


「ええ。学校の話も聞かせてくれないし、夕食が終わるとすぐに部屋にこもっちゃうのよ。いったい何をやってるんだか・・・。」


勉強だよ!

どんだけ怪しまれてるんだ、俺は?!


「あ。そろそろレッスンを始めましょうか?」


お!

やっとこの状況から解放される。

茉莉ちゃんだけなら、何時間でも一緒にいたいけど・・・。


「はい。よろしくお願いします。」


「奥に防音の部屋があるのよ。安心して歌えるからリラックスしてね。」


「はい。」


「4人でここの片付けお願いね。」


「「「はーい。」」」






疲れた・・・。


自分の家族と一緒にいて、こんなに疲れるなんて・・・。


「数馬。」


「なんだよ?」


このままソファに沈んでいたい・・・。


「お前、あの子から普段、名前で呼ばれてるんだろう?」


!!


「な・・・、え? いや・・・、その、なんで?」


さっきは何も言わなかったじゃないか!

なんで今ごろ・・・。


「だって・・・なあ、亮輔?」


か・・・顔が熱い。

やめてくれよ、そのニヤニヤ笑いは。


「そうそう。家族の前で名前で呼ばれるのってありがちなのに、あんなに慌ててるんだもんなあ。なんか、特別って感じ〜。」


「え、ええと、べ、べつに特別じゃないよ。今年の生徒会で、や、役員同士は下の名前で呼び合おうってことになったから、みんな・・・。」


そうだよ。

俺だけ特別ってわけじゃないんだ!


「みんなか! じゃあ、数馬は大野さんのことをなんて呼んでるんだ?」



こんなときだけ、これ見よがしに「大野さん」なんて言いやがって・・・。


「いや、その、普通に・・・。」


「普通って?」


「だから・・・普通に。」


なんで父さんまでニヤニヤ笑ってるんだよ!


「普通に『茉莉ちゃん』だよなー?」


「亮輔兄ちゃん! なんで?!」


「なんでって・・・、間違ってるか?」


「ま、ちがっては・・・いない、けど・・・。」


なんでだよ?

普通は父さんみたいに「茉莉花ちゃん」だろ?

兄弟だから、考えることが似てるのか・・・?


「実はさあ・・・、聞こえちゃったんだよねー、電話してるのが。くくく・・・。」


!!


「2、3日前に数馬の部屋の前を通ったらさあ、嬉しそうな声で『茉莉ちゃん』って。」


「兄ちゃん!」


馬鹿ーーーーーっ!


「亮輔、そのくらいでやめておけ。数馬が困ってるじゃないか。もうすぐ社会人なのに、高校生をいじめて楽しいのか?」


「へーい。」


航平兄ちゃん、急に親切になって・・・。

やっぱり社会人になると少しは違うのか・・・?


「数馬。お前、茉莉ちゃんは彼女じゃないって言ってたけど。」


「・・・そうだよ。」


近付き過ぎると逃げられちゃうんだから。

っていうか、航平兄ちゃんも「茉莉ちゃん」って呼ぶんだ?


「あの子、お前のこと、好きなんじゃないか?」


え?


「そ、そうかな? 兄ちゃんにはそう見えた?」


じゃあ、あれは・・・今までのあの反応は・・・。

もしかしたら、俺のことが好きだから・・・なのか?



えーーーーっ?!

そんな!



そうなのかな?

じゃあ、俺、もうちょっと積極的になってもOK?

もしかしたら、待ってるとか?


なんだー。

あんなに恥ずかしがったりして、茉莉ちゃんてほんとうに可愛いなあ!

そんなことなら、明日の朝から駅で待ち合わせして一緒に・・・、ああ、そうだ、まずは今日の帰りに・・・。


「なーんてな! お前がそんなに素直に嬉しそうな顔するところって、見たの久しぶりだなあ! わはははは!」


・・・え?


「恋する高校生ってカワイイなあ! なあ、亮輔?」


「ホントだよ! 数馬は最近、俺たちに偉そうな口ばっかり利くから、よっぽど大人なのかと思ったけど、実はこんなに純情なんだ! あーはははは!」


え・・・?

その様子は・・・騙された?


「二人とも、数馬をからかうのはやめなさい。」


父さん・・・。


「いくら照れてる数馬がカワイイからって・・・・ブフッ。」


父さんまで?!


「もういいよ! 片付けは3人でやってくれよ!」


部屋に閉じこもってやる!

どうせ母さんも言ってたし!



・・・・・。



ピアノ部屋だよな。

ピアノの音なら、いつも廊下まで聞こえてくるけど・・・。



父さんたちは・・・ちゃんと片付けやってるな。

廊下が軋まないといいんだけど。



・・・あ。聞こえ・・・る。

はっきりとじゃないけど、茉莉ちゃんの声だ。


茉莉ちゃんがいる。

この家に。このドアの中に。



廊下は冷房が効いてないからちょっと暑いけど、少しだけ。


近くにいるって思うだけで、なんだかドキドキする。

そういえば小さいころ、母さんがピアノを弾いてるのをここで聞いてたっけ。

それがきっかけで、ピアノを教わったんだった・・・。



――― カチャ。



うわ?! 母さん!


「あ、やっぱりいたわね。」


「え、いや、ちょっとトイレに・・・。」


心臓が・・・。

それに、「やっぱり」って・・・。


「そうなの? 途中で休憩するときに呼ぶから、麦茶を用意しておいてね。」


え? 休憩する?

呼ぶ?


「それまではリビングでも自分の部屋でも、好きなところにいなさい。でも、ここはやめなさいよ。」


「うん・・・。」


「あと30分か40分くらいしたらね。」


「わかった・・・。」


・・・・。




みんなが俺のことをお見通しみたいに感じるのは、被害妄想なのか・・・?







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