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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◆◆ 茉莉ちゃんが来る! ◆◆


「片付けはこれでよし! ・・・と。」


部屋の隅にあったいつ使ったか分からないカバンはクローゼットに入れたし、机の下の雑誌も、とりあえずベッドの下に入れた。

これなら、茉莉ちゃんが来ても・・・・・茉莉ちゃんが、俺の部屋に? うわ!


いいのかな?

大丈夫かな?


そうだ。

除菌スプレーもまいておこう。


「よし。あとは掃除機だ。」


下の居間で使ってる?

母さん、今日はさすがに念入りにやってるな。


「母さん。そっちが終わったら掃除機・・・と、父さん?!」


「なんだ、数馬。お前も使うのか?」


「父さん・・・掃除? 今日は家にいるの・・・?」


しかも、タオルまでかぶったりして、ずいぶん気合いが入った掃除人姿・・・。


「数馬、邪魔。」


え?


「亮輔兄ちゃん?! バイトは?!」


「夜と替わってもらった。」


「なんでっ?!」


「だって・・・なあ、親父?」


なんだよ、そのニヤニヤ笑いは。

しかも、よく見たら手に雑巾持ってるし・・・。


「そうだよなあ、亮輔。」


父さんまで・・・。


「「女子高生が来るんだぞ! 我が家に!」」


やっぱり、こうなるのか・・・。


「母さんに歌を習いに来るだけなんだぞ。二人と話してる時間なんかないよ。」


「何言ってんだ? じゃあ、お前が部屋を掃除してるのはどうしてだ?」


「え? 数馬、部屋に連れ込んで何するつもりなんだよ?」


つ・・・ “連れ込んで” って!


「や、やめろよ、そういういい方! 俺は亮輔兄ちゃんとは違うんだから!」


「まったく、お前たち若いもんの考えることと言ったら、ほんとうにしょうがないな・・・。」


俺は考えてねえよ!


「父さんは、娘が来るような気持ちで迎えたいんだ。なにしろ娘が欲しかったのに、3番目も男だったから・・・。」


はいはい。

3番目も息子ですみませんね。

今まで何百回言われたことか・・・。


「生まれたのが女の子だったら、もしかしたら、茉莉花ちゃんがうちの娘だったかも知れないんだぞ。」


名前もチェック済みかよ?!


「父さん、名字で呼んでくれよ。」


「いいじゃないか、ケチ。」


親にケチ呼ばわりされるなんて!


「数馬の彼女じゃないって、母さんが言ってたぞ。彼氏募集中なら俺だっていいわけだ。」


「兄ちゃん、本気で言ってるのか?」


「5才の差なんて、たいしたことないだろ? お前よりよっぽど頼り甲斐があるよ。来年は社会人だし。」


そんなに軽い性格じゃなければな。


「すごく人見知りな性格なんだよ。亮輔兄ちゃんみたいなタイプは無理だな。」


「人見知りかー。和むなあ・・・。」


聞いてないな・・・。


「・・・航平兄ちゃんは?」


「ああ、野球の試合だって。残念そうに出て行ったよ。」


野球か。

ってことは、夜まで仲間と酒飲んでるから心配ないな。


「どう? はかどってる?」


「あ、母さん・・・うわ! なに、その顔?」


「え? 少しでもきれいに見せようと思ってパックをね。」


こんな当日で間に合うのか?


「母さん、数馬が茉莉花ちゃんを俺たちと会わせないつもりなんだよ。」


大学4年にもなって、母親に言い付けるのかよ・・・。


「あら、きのうお父さんにケーキを買って来てもらったから、レッスンの前にみんなでお茶にする予定なのよ。」


え?


「そうだぞ、数馬! 一切れ千円もするフルーツタルトなんだからな!」


「一切れ千円? 親父、奮発したなあ。」


みんなでお茶?

じゃあ、俺の部屋でおしゃべりする時間は・・・?


「ほら、早く掃除を終わらせてちょうだい。」


「よっしゃ!」

「へーい。」


「ほら、数馬も部屋の片づけするんでしょう?」


「あ、うん。あの、歌の練習はどこで・・・?」


「奥のピアノ室に決まってるじゃない。お父さんたちがうろついてる所じゃ、落ち着かないでしょう?」


せっかく茉莉ちゃんが来ても、二人で話せるのは、うちから駅までの道だけか・・・。






あ、来た。


ホームから上ってくる階段に茉莉ちゃんの姿。

今日は白いオーバーブラウスに七分丈のデニムのパンツ、赤いスニーカー。

髪はポニーテールだ。あのメガネにポニーテールって、すごく可愛い。大きめの布のバッグは楽譜・・・?


「茉莉ちゃん。」


手を振ると、いつもよりもっとはにかんだ微笑みを浮かべて駆け寄ってくる茉莉ちゃん。

兄貴たちには見せたくない・・・。


「あの、夏休み最後の日なのに、暑い中、ごめんなさい。」


「全然。俺はどうせヒマだから。」


茉莉ちゃんに会えるなら、どんな用事も後回しだよ!

しかも私服の茉莉ちゃんだもんね!


なるべく長い時間二人で歩きたいけど・・・・うちまで5分。あっという間。


「大きな家・・・。」


「え? そうかな? でも、うちは3人兄弟だから、これくらい広くないとキツイよ。」


「3人?」


「うん。俺が一番下。ただいま! お客さん、連れて来たよ! 茉莉ちゃん、どうぞ・・・・?」


なんだ?

足音が・・・。


「いらっしゃーい。よく来たね。数馬の父の守です。」


「あ、はい、初めまして。大野茉莉花です。」


母さんより先に出て来たよ・・・。

しかも、こんなに小ざっぱりした格好しちゃって。まあ、ほっとしたけど。


「こんにちは。母親の裕子です。暑かったでしょう? 遠慮しないでどうぞ。」


お。

ばっちり化粧してるな。さっきとは別人だ。


「ありがとうございます。突然、厚かましいお願いをしてしまってすみません。これ、クラスのみんなからです。少しですけど・・・。」


「あら。お礼なんていらないって言ったのに。どうもありがとう。さあ、どうぞ。」


亮輔兄ちゃんは部屋か?

のぞかれたりするのは気味が悪いけど・・・って、いたよ!


「あれ? ああ、数馬の友達? 悪いね、ちょっと新聞に夢中で・・・。」


賢い大学生を演出?!

しかも、なんだよ、その銀縁メガネは! 両目とも1.5だって、いつも自慢してるくせに。

ああ・・・、そうやってメガネをはずす仕草がカッコいいつもりなんだな?


「数馬の2番目の兄の亮輔です。大学4年。よろしく。」


握手まで?!


「は、初めまして。大野茉莉花です。」


あーあ、両手で握ったりして。まったく抜け目ないな。

茉莉ちゃん、ごめん・・・。


「暑い中いらしたんだから、レッスンの前に一息入れてね。亮輔、新聞どけて。大野さん、そのソファにどうぞ。数馬、手伝って。」


うう・・・。

俺は茉莉ちゃんを守らなくちゃいけないのに・・・。

仕方ない。急いで・・・・・ん?


「母さん。なんか、どっかで水が出しっぱなしみたいだけど?」


「ああ、さっき航平が帰って来て、シャワー浴びてるから。」


「え?! 帰って来たの?!」


「ええ。今日は早く解散になったみたいよ。そのグラスに氷入れてちょうだい。」


グラス。

1、2、3、4、5、6、・・・6個。

つまり、航平兄ちゃんの分もあるってことだ・・・。


ああ、もう、女の子が来るからって浮かれちゃって、うちの男たちってどうなんだよ?!


・・・俺も?

いや!

俺は断じて違う!


「母さん、数馬の彼女、もう来た?」


「にっ、兄ちゃん! か、彼女じゃないよ・・・。」


よく見たら、いかにも風呂上がりのその姿はなんだ?

男の色気でも出してるつもりかよ?!


「あら、航平。だめよ、タンクトップ一枚じゃ。失礼じゃないの。それに濡れた頭のままで。」


「いいじゃん。あ、いらっしゃい。上の兄の航平です。」


いくら体を鍛えてるのが自慢だって言ったって、相手は茉莉ちゃんだぞ。

ほら見ろ。

恥ずかしがって、ちゃんと見てもらえないじゃないか。


「早く服着て来いよ。」


「へいへい。怖いな、真面目くんの弟は。」


腹立つ〜〜〜!


「数馬。こっちのお盆、持って行って。」


やっと向こうに行ける!

茉莉ちゃん、一人にしてごめんよ〜!









もう一話、数馬が続きます。

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