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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◇◇ パニック! ◇◇


「き・・・、近所のおばさんって、ひ、ひな、日向くんのお母さんなのっ?!!」


『そう。うちの母親とママさんコーラスで一緒でさ。音大の声楽科出てるんだって。教えるのも上手いらしいぜ。日向が7組だから、教室では言わなかったんだけど。』


「日向くんの・・・おかあさん・・・?」


頭がぐるぐるする・・・。


栗原くんは、わたしに、数馬くんの家に歌のレッスンに行けって言ってるんだよね・・・? 今度の日曜日に・・・?


『俺は部活で試合があるから案内できないけど、地図描くから。大きな家だからすぐにわかるよ。』


大きな家・・・。


緑ヶ原の駅なら啓ちゃんの家があるから何度も行ったことがあるけれど・・・。

ダメだ。何も考えられない。


「・・・ありがとう、頼んでくれて。」


そう。


自信のないわたしのために、わざわざお願いしてくれたんだもんね。

あのときに、わたしがすぐに「やる」って言ってれば、栗原くんがこんな面倒なことをしなくても済んだんだもの。ちゃんとお礼を言わないと・・・。


『おう、気にすんな。日向のおばさんは話しやすくていい人だぜ、日向と違って。』


「日向くんと違って・・・?」


『そ。昔っから、電話すると楽しそうな声で「あら翔くん、こんにちは。」って言ってくれるんだ。無愛想な日向とは全然違うよ。だから大野も安心して行って来いよ。』


「うん・・・。ありがとう。」


そうか。

わたしを励ましてくれてるんだね・・・。


『ああ、そうだ。とりあえず、教えてくれるのが日向のおばさんだってことは、クラスでは黙っていようと思ってるんだ。』


「その方がいい?」


『よくわからないけど、うちのクラスって、7組に対抗意識を持ってるみたいだから。』


「ああ・・・、そうだよね。」


わたしもその一人かも。

まあ、特定の相手に対してだけど。


数馬くんの家に行くことも知られると恥ずかしいから、わたしもその方がいいかな。


「わかった。じゃあ、 “栗原くんの近所のおばさん” ってことでね。」


『うん。じゃあな。園田には明日報告するから。』


「はい。ありがとう。」



数馬くんのお母さん・・・。


ああ・・・緊張してきた。

もともと人見知りだけど、今回はなんていうか・・・失敗できない感じがする。


何を着て行こう?

厳しいお母さんだったらどうしよう?

緊張のあまりちゃんと声が出なくて、やる気がないと思われたりしたら・・・ああ、心配!


数馬くんに相応しくないって思われちゃったらどうしよう?!



わ! また電話だ!

このタイミングって・・・やっぱり数馬くん!! どうしよう?!


「はい、あの、もしもしもし・・・。」


ああ!

わたしって・・・!


『ああ・・・茉莉ちゃん? ええと、栗原から聞いた・・・かな?』


「あのあのあの、か、数馬、くんの、お母さんに、ううううたをっ、その、」


『ぷっ・・・。』


笑われた!

もうダメだ! 絶対に変な子だと思われた!


『その様子だと、聞いたんだよね? 今度の日曜日なんだけど・・・大丈夫? もう緊張してるのかな?』


「は、はいっ!」


そのことだけじゃなくて、数馬くんと電話で話すこともだよ〜〜〜〜!

初めてなんだよ〜〜〜〜!!


『ええと、そんなに緊張しなくても平気だよ。うちの母親ってなんていうか・・・ちょっとトボケてるから。』


「は、はい・・・。」


とぼけてる・・・?


どんなひとなのか、全然分からない!

どうしよう?

会話が成り立たなかったりして・・・。


『当日は俺が駅まで迎えに行くから、心配しなくていいよ。』


数馬くんがお迎えに?!

なんか、かえって緊張・・・。

でも、玄関のチャイムを鳴らせって言われたら、その前で10分くらいもたもたしそうだし・・・。


あ・・・、また頭がぐるぐるしてきた。


「あの、よろしくお願いします。」


とにかく、電話を終わらせよう!


『うん。あの・・・茉莉ちゃん?』


「・・・はい?」


『ええと、今日、劇の練習で倒れかけたって聞いたけど、もう大丈夫?』


「え?! 聞いたの?!」


『うん、栗原から。』


やーん、恥ずかしい!

まさか、数馬くんを思い浮かべて緊張したなんて言えないよ!


「あの、大丈夫です。もう、全然。」


あ〜〜〜〜ん!

また思い出しちゃった!


しかも、今は数馬くんの声まで聞こえてるし・・・!


『そう? それならいいけど・・・。でも、その・・・取りやめになったんだって?』


「そ、そうなの。わたしが上手にできないから。」


『あれ? 栗原はそうは言ってなかったよ。』


「え、そうですか? わたし、何度やっても上手にできなくて、監督のソノちゃんに『痴漢に襲われてるみたい』って呆れられて・・・。」


ああ・・・、わたしったら、何を話してるの?!

こんなバカみたいなことペラペラと・・・。


『痴漢? 茉莉ちゃん、よっぽど嫌だったんだね。』


「そう・・・かな? なにしろ、もう緊張のしどおしで・・・。」


今もです〜〜〜!

もう終わりにしたい〜〜〜!


『たいへんだったね。あの、ええと、・・・さっき、びっくりしちゃったよ。』


「びっくり・・・?」


『栗原って、うちの母親とけっこう仲が良かったらしくて。』


「あ? ああ・・・、そうなの・・・?」


そういえば、「話しやすくていい人」だって言ってた・・・。


『うん。さっき風呂から出たら、母親が楽しそうに電話しててさ、』


ふ・・・風呂?!


や、やだ!

そんな言葉に反応しちゃうなんて!

わーん!

浮かんでこないで〜!! 消えて〜!!


『てっきり自分の友達と話してるのかと思ったら、栗原が相手だったんだよ。』


「そ、そうなの・・・。」


『あとで訊いたら、中学のころから、電話では母親とよくしゃべってたみたいなんだけど、俺、全然知らなくてさあ。』


「あ、ああ、栗原くんて、人なつっこいところがあるものね。」


ああ、ドキドキが止まらない。

手に汗かいちゃってるよ・・・。


『あの、・・・もう宿題は終わった?』


え? 宿題?

話題がなんだか・・・終わりかと思うと、新しい話題に・・・。

数馬くん、電話が好きなのかな?


「ええと・・・、あと英語が少し・・・。これからお風呂に入って、」


う、わ!

自分からお風呂の話題を・・・!


「それから・・・って思って・・・。」


ああ、ダメだ・・・。


『ああ、ごめん。女の子はお風呂が長いらしいのに、入る邪魔しちゃってるね。俺なんか、夏はシャワーだけで済ませちゃうけど。』


やーん、ダメ〜〜〜!

そんな具体的に言わないで!!


「そ、そう? わたしは夏でも湯船につかるのが好きだけど・・・。」


って、何言ってるの?!

説明してる場合じゃないよ!


「あ、あの、じゃあ、」


早くおしまいにしないと。


『ああ、うん。・・・明日もクラスの練習?』


「は、はい、午前中に。午後から生徒会に行きます。」


深呼吸、深呼吸。


『じゃあ、すれ違いになるね。うちのクラスは明日の午後が初練習になるから。』


・・・そうか。会えないね。

残念。

あさっては土曜日だし・・・。


ふぅ・・・。

数馬くんは、そんなふうには思ってくれないよね?


『あの・・・じゃあ、日曜日に。』


「うん。ええと・・・、」


『茉莉ちゃん、その・・・おやすみ。』


うわ・・・。やさしい声。

毎晩、思い出しちゃうかも・・・。


「おやすみなさい・・・。」


数馬くん・・・、大好きです。




さあ、わたしもお風呂に・・・やだ、消えて!

こんなの、恥ずかしすぎる〜〜〜〜!!







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