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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◆◆ 知らなかったし、知られてた? ◆◆


「日曜日の午後ならいいわよ。・・・2時? ええ、大丈夫。」


・・・ああ、母さんが電話してるのか。


ええと、牛乳、牛乳。

風呂上がりにはこれがないと。


「ねえ、その子、彼女なの? ・・・え? あら、そうなの? まあ、楽しみ!」


ママ友の息子の話?

話される方はたまったもんじゃないな。

自分が母親たちの話題になってるなんて、絶対に知らない方が幸せだ。


「ああ、お礼なんかいらないわよ、仕事でやってるわけじゃないから。・・・はい、今度の日曜日ね。・・・はーい。じゃあね。」


上機嫌だな。

あんなにくすくす笑ったりして。


「あら、数馬。いたの?」


「うん。」


「今、翔くんから電話があったのよ。」


翔?


「え? 翔って、栗原のこと?」


「そうよ。久しぶりに話したわねえ。中学の頃は、よく数馬に電話かけて来たのにね。ずいぶんしっかりしちゃって。」


「呼んでくれれば出たのに・・・。」


どうして携帯にかけてこなかったんだ?


「あら、違うわよ。わたしに用があったんだもの。」


「母さんに?! 栗原が?!」


よその親に用事って、なんなんだ?


「ええ。お友達に歌のレッスンをしてもらえないかって。文化祭でソロで歌う子がいるからって。」


「歌? 母さんが?」


できるのか、そんなこと?


「あら、疑ってるの? これでも音大の声楽科出てるって言わなかったっけ? ほら、栗原さん・・・ってお母さんの方よ、ママさんコーラスでずっと一緒でしょう? わたし、先生の助手で指導もしてるから、実力は証明済みよ。」


ホントかよ?


「で? 引き受けたの?」


「そうよ。今度の日曜日に来るの。翔くんの彼女かと思ったら違うんですって。残念ね。あなたも知ってる子だって言ってたわよ。ええと・・・、大野茉莉花ちゃん。」


「ブ・・・・くっ・・・ごほっ!」


苦しい!

牛乳が・・・。


「あら、大丈夫? こぼしたら拭いておいてね。」


茉莉ちゃんが?

うちに来る?

歌を習いに?

今度の日曜日に?


「ねえねえ、どんなお嬢さんなの?」


「・・・え?」


「その、大野さんって。数馬は生徒会で一緒に仕事してるんでしょう?」


栗原のヤツ、そんなことまで!

ってことは、さっきの話題は俺かよ?!


「ええと、仕事はよくできるよ。・・・頑張り屋だし。」


「かわいい?」


「え?」


息子に訊くなよ、そんなこと!


「かわいいかって訊いてるの。」


だから、訊くな!


「う・・・うん、まあ、普通?」


ダメだ。

早く部屋に戻ろう!


「そう。楽しみねえ、女の子がうちに来るなんて。あ、日曜日は家にいる?」


「いるけど。」


予定があってもキャンセルだ!


「じゃあ、駅までお迎えに行ってくれない? 翔くんは部活があるらしいの。地図を渡してくれるそうだけど・・・。」


「あ、わかった。行くよ。じゃ。」


なんか・・・嬉しいっていうか、恥ずかしいっていうか、・・・ああ、もう、どうしよう?!


茉莉ちゃんが来る?

駅まで迎えに行く?

何を着て行こう?


そうだ。

部屋を掃除しなくちゃ。


うわ、そうだ、母さんだ。

ちゃんとした服装でいてくれればいいんだけど・・・。


服装といえば、父さんだ!

暑いとヨレヨレのTシャツと短パンでウロウロしてるからな。

ゴルフにでも行っちゃっててくれないかな。


ああ、そうだ。兄貴たちにもちゃんと・・・。

いや、どうせ出かけてるか。

いるとしても、部屋から出て来ないように言っておこう。



ん? 電話だ。・・・栗原?

さっきの話か。


「もしもし。」


『よう、日向。さっき、おばさんに電話したんだけど・・・。』


「聞いたよ。歌の練習に来るって。」


『そうなんだよ。今日、急に劇で歌を歌うことになって、大野があんまり心配してるから、日向のおばさんのこと思い出したんだ。うちの母親がいつも褒めてるからさあ。』


へえ。

母親とそういう話をするのか。


「それにしても、よくよその家の母親と平気でしゃべれるなあ。」


『え、そうか? 俺、中学の時にお前に電話してたときも、よくおばさんとしゃべってたけど。』


全然知らなかった!


「俺とは宿題とかテスト範囲の話くらいしかしなかったような気がするけど・・・。」


『だって、お前とは学校で話すじゃないか。』


「そりゃあ、そうだけど。」


そんなものなのか?


「あ。だけど、どうして急に歌なんかやることになったんだよ?」


『そうそう、それがさ、7組が原因なんだよ。』


「うちのクラス?」


『そう。7組って、舞台でキスシーンやるんだってな。』


「え? そうなのか?」


『知らないのか? 『白雪姫』なんだろ? 最後に目覚めのキスがあるだろうが。』


ああ!


「うん、そうだな。」


『で、そんなのがあると、うちのクラスの抱き合うくらいの演出じゃ、目立たないってことになったんだよ。』


さすがに、キス以上のことはできないだろうな・・・。


『それに、大野が恥ずかしがってできないし。今日なんか、緊張して倒れそうになってさ。』


茉莉ちゃん・・・、かわいそうに。


『だから監督の園田が、こうなったら抱き合うのはやめて、高校生らしく控え目に見つめ合うだけにしようって言ったんだ。』



!!



見つめ合うだけ?!

抱き合うのは無し?!


「へ・・・へえ。」


『その代わりに歌を入れて、少し格調高くしたいらしくて、大野が歌うことになったんだよ。大野って、中学で合唱部だったんだって?』


「あ、ああ、そういえば、チラッと聞いたかな。」


そうだ。

一年のとき、音楽の歌のテストで上手かった気がする。


でも・・・そうか〜。

抱き合うのは無しか〜。


『なあ、日向。』


「え、あ、なに?」


『大野が日向のおばさんに習いに行くこと、学校では黙ってた方がいいと思うか?』



「なんで?」


『うちのクラスって、7組をライバル視してるみたいなんだよ。だから今日も、うちのクラスでは日向の名前を出しにくくて、 “近所のおばさん” ってことにしたんだ。もちろん、大野には言うけど。そっちはどう?』


「うちは練習が明日からだから・・・。」


『そうか。まあ、特に言う必要もないから、しばらく黙ってるかな。』


「わかった。」


俺にそんなことを訊いて来る生徒はいないだろうから、特に問題はないな。


『ところでさあ、日向。』


「なんだよ?」


『俺、お前に感謝されてもいいような気がするんだけど?』


・・・え?


「か、感謝って・・・なにが・・・?」


まさか。


なんだか、嫌な汗が。

まさかまさかまさか・・・。


「げ、劇でうちのクラスを有利にしたつもりなら・・・。」


『何言ってんだよ。とぼけるのか? ふーん・・・。まあ、いいや。月曜日に大野に直接・・』


「茉っ、茉莉・・・ちゃん、に・・・って、何、を・・・。」


焦るな!

栗原は適当にあてずっぽうで言ってるだけだ。


『くく・・・。日向って、中学のころからずっとポーカーフェイスだったけど、最近、会うたびに睨むんだもん。あれだけ睨まれたら、気付かないわけないだろ? お前、けっこう嫉妬深いな。」


嫉妬深い?!


「栗原、お前、」


『もしかして、初恋?』


「ばっ、馬鹿! そんなはず・・・・・!!」


ああ、もう!

落ち着け!


「・・・用事はそれだけか?」


『あははは! そう、それだけ。じゃあな。今回のことは、お前に貸しだぞ。そのうち何かで返してもらうからな。はははは!』


栗原め!



・・・でも。



睨んでた?

嫉妬深い?

俺が?



なんか・・・恥ずかしい!

っていうより、恐ろしい!


もしかしたら、ほかにも誰か気付いているかも。



・・・いや。

気付かれてるはずはないな。


生徒会室では茉莉ちゃんとの関係は普通だし、・・・芳輝のことは気になるけど、特別にほかのメンバーと違うなんてことはないはず。



うん。

大丈夫だ。


俺はいつもいろんな気持ちを隠してきたんだから、今回だって隠せてるはずだ。

そうじゃないと、茉莉ちゃんが驚いて逃げて行ってしまうんだから・・・。







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