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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
39/103

◇◇ 一難去って、また一難 ◇◇


『ジャスミン姫・・・。』


「きゃっ!」


「あー、ストップ、ストップ。」


わーん。

何回目だろう? もう3日目なのに・・・。


「ごめんなさい・・・。」


「茉莉さん。相手が栗原くんじゃ、甘い雰囲気にならないのは仕方ないけど、その『きゃっ』とか『ひっ』とか、まるで痴漢に襲われてるみたいな反応はどうにかならない?」


「痴漢かよ・・・。」


ああ・・・。

栗原くんにも嫌な思いさせちゃって・・・。

わたしって、ほんとうにダメだ・・・。


「ごめんなさい・・・。」


「ねえ、茉莉さん。相手が栗原くんだと思うからダメなんじゃない?」


香織ちゃん・・・?


「相手が栗原くんじゃなくて、茉莉さんの好きなひとだと思えばいいんだよ。」


すっ、好きなひと?!

数馬くんのこと?!


「ああ、そうだよね。誰かいるでしょう、好きなひと?」


「え? あの、そんな、誰かって。」


「ほら、アイドルだって、俳優だって、いっくらでもいるじゃない? そういう人だと思えばいいんだよ。ね?」


「あ、ああ、そうだよね。」


そんなこと言われても、全然浮かんでこない〜!

一回『好きなひと』なんて言われちゃったから、数馬くんが頭から抜けないよ!


「じゃあ、そのひとを思い浮かべて、もう一回ね。」




『せめてこの世界にいるあいだは、あなたと幸せな時間を・・・。』


『ジャスミン姫・・・。』


「茉莉さん、好きなひとだよ!」


好きなひとって・・・やっぱり数馬くんしか浮かんでこないーーー!


どっ、どうしよう?!

数馬くんとこんな・・・こんなこと!

無理ーーー!



あれ・・・? 苦しい・・・・・。

だめ・・・、緊張して・・・、胸が・・・・・。



「あれ? 大野?! おい! 大野!」


「え? 茉莉さん? やだ! 大丈夫?!」


「たいへん! 茉莉さん、息吸って! ほら、今度はゆっくり吐いて。」


息・・・?


「・・ふ・・・はーーーーーっ。」


苦しかった・・・。


あ。

みんなもため息ついてる・・・?


「・・・ごめんなさい。」


ああ・・・。

ほんとうにダメだ。

こんなことじゃ、桃ちゃんに勝つことなんてできそうにない。

それに、みんなにも迷惑かけて・・・。

やっぱり、この役はほかの誰かに・・・。


「あの、わたし、やっぱり無理みたいだから、誰かほかの人に・・・。」


「何言ってるの、茉莉さん。せっかくセリフを覚えてもらったんだから、そんなことできないよ。」


いえ、わたしに “悪い” とか思わなくていいんですよ。


「でも、今ならほかの人に代わっても十分に間に合う・・・。」


「どうしよう、菊池くん? やっぱり、抱き合うのはやめようか?」


え?


「そうだね。思い切ってそうしようか。」


「あの、いいの?」


わたしは有難いけれど・・・。


「実はさあ、7組が『白雪姫』でキスシーンを入れることになってるって聞いたの。」


ああ、桃ちゃんか。

演技とはいえ、よくできるね。


「そんなのがあると、抱き合うくらい、当たり前みたいに見えるじゃない? しかも7組って、順番がうちの前なんだよね。」


なるほど・・・。


「だから、それに対抗するには、逆に高校生らしいピュアな感じを出した方がいいんじゃないかって、ちらっと話してたんだけど・・・。」


7組のキスシーンって、そんなに濃厚なのかしら・・・。


「茉莉さんの反応を見て、心が決まった。ここは見つめ合うだけにしよう。」


「ホントに?!」


よかった!

そのくらいなら大丈夫!


・・・数馬くんだと思わなければ。


「その代わりって言ったら何だけど・・・。」


「え?」


なんだか怖い・・・。


「歌を歌ってほしいの。」


「歌?」


「うん。ほら、古い映画で歌われてて有名な『虹の彼方に』。」


「えええええぇ?! それ、ちゃんとした歌でしょう?! それを生で歌えって言うの?!」


無謀過ぎる!


「うん。生のピアノ伴奏付きで。そのくらいやらないとキスには勝てないでしょう? 実は楽譜も選んであるんだ。伴奏はみっちゃんがやってくれるよね?」


「え? ああ、うん、わかった。いいよ。」


そんな、二つ返事で?!


「そ、そんな。だって、下手だったら勝つとかそういう問題以前に・・・」


「大丈夫、茉莉さんなら。」


どんな根拠で?!


「桃子から聞いたよ、中学で合唱部だったって。部長だったんでしょう? 舞台慣れしてるだろうって言ってたよ。」


桃ちゃんが?!

どんな顔をして言ったのか目に浮かぶような気がする・・・。


「でも、わたしのは合唱で、一人で歌うのとは違うよ! 誰か、軽音のボーカルのひととかいないの?!」


「大丈夫だって。並木先生も茉莉さんならできるって言ってたし、主役なんだから。」


「並木先生って・・・音楽の?」


「そう。うちの顧問なの。音程もしっかりしてるし、発声の基礎ができてるって言ってたよ。」


そんな〜〜〜〜!


「ええと、歌なんか入れたら、時間が・・・。」


「うん。まあ、ちょっとシナリオを削らなくちゃいけないけど、なんとかなると思う。」


なんとかしないで〜!


「でも、一人じゃ練習しても、人前で歌えるくらいにはならないような・・・。」


「ああ、そうか・・・。誰かにレッスンしてもらった方がいいかな?」


「いえ、そうじゃなくて、無理だと」


「あ。俺、教えてくれそうな人、知ってる。訊いてみようか?」


栗原くん?!

わたし、困ってるんだよ?!

察してよ〜!


「あの、そんなに本格的にやる必要は・・・」


「あ、大丈夫。近所のおばさんだから。そんなに何度もじゃなくていいんだろ?」


「2回くらい見てもらえば大丈夫だよね、茉莉さん? 栗原くんの家って、どこ?」


「緑ヶ原。ここから4駅。大野とは逆方向だけど、その家、駅から近いから心配いらないよ。土日でよければ、今日の夜にでも電話してみるけど?」


なんでそんなにとんとん拍子に話が進んでいくの?

わたし、ひとことも「うん。」なんて言ってないのに・・・。


「よかったね、茉莉さん。あ、レッスン代って必要かな?」


そ、そうだよ!

まさか無料なんてあり得ないでしょう?


「ああ、それも訊いてみる。」


「費用がかかるならやらなくてもいいから、その企画は・・・」


「よろしくね。」


あーん。

わたしの話は誰も聞いてくれないの?


「ねえ、茉莉さん。衣装のことなんだけど。」


「え? ああ、レイちゃん、なあに?」


「茉莉さんの衣装、ピンクのワンピースになるけど、いい?」


レイちゃん!

そうやって「いい?」って訊いてくれるなんて、なんて親切なの!


「うん。それは覚悟してたから。仕方ないよね、お姫様じゃ。」


「そう、よかった。前にうちのお姉ちゃんにもらったのがあって、着る機会がなくて困ってたんだ。」


普段には着られないワンピースって、パーティー用のとか?

まあ、多少派手でも仕方ないよね。


「あ、でも、胸元が大きく開いてたりするのはちょっと・・・。」


「それは大丈夫! けっこうピッタリ覆う感じだから。靴もあるんだけど、茉莉さん23cmで平気?」


「うん。」


「じゃあ、バッチリだね。楽しみにしててね。」


よかった。

とりあえず、服はサプライズはなさそう。



それよりも、歌だよ!

レッスンなんて大袈裟なことになっちゃったし、もう、どうしよう?!







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