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メガネに願いを  作者: 虹色
第五章 近づく文化祭
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◆◆ 焦ることしか ◆◆


あっという間にお盆が終わって、夏休みも終盤か・・・。


この夏休み中、茉莉ちゃんと一緒にいる時間がたくさんとれて、ずいぶん話せるようになったよな。

二人きりのときは少し気後れした様子なのは相変わらずだけど、それも以前ほど気にならない。


たぶん俺が茉莉ちゃんに、 “こうしたい” と思うよりも一歩か二歩・・・じゃなくて、だいぶ手前で踏みとどまるように気をつけているからだろうな・・・。

パソコンのときのように彼女に警戒されて、振り出しに戻ってしまうのが怖いから。

茉莉ちゃんがああやって普通に話してくれるようになったのは、きっとその成果に違いない。


今の状態を何としてでも守らなくちゃ!

そうじゃないと、俺はあっという間に茉莉ちゃんの近くにいる権利をなくしてしまう。

そんなことになったら、茉莉ちゃんが誰かと仲良くなっていくのを黙って見ていることしかできなくなってしまう!

生徒会には、すでに芳輝という要注意人物がいるのに・・・。


「お、日向。今日も生徒会か?」


なんだ、栗原か。


「おはよう。そうだよ。駅で会うなんて珍しいな。部活?」


「いや。今日は昼まで文化祭の練習。」


そういえば1組は、きのうから始まってるんだっけ。


ああ・・・嫌なことを思い出しちゃったよ。

こいつ、茉莉ちゃんを抱き寄せる役だったよな?


俺なんか近付くことさえ気を付けているのに、こいつは・・・。


「練習はどんな調子?」


気になる。

ものすごく気になる!

もう茉莉ちゃんに触ったのか?


「きのうはセリフの読み合わせで終わったよ。けっこうタイミングとか難しいんだよな。日向は出ないのか?」


まだなんだな?

よし!


って言っても、すぐに・・・。


「ああ、俺は出ないよ。小道具係。」


「楽でいいなぁ。俺も裏方がよかったな。」


なんだと?!


茉莉ちゃんと抱き合うっていう最高に名誉な役なのに、そのやる気のなさは何なんだ!

失礼だろ、茉莉ちゃんに!


「まあ、仕方がないか、ご指名なんだから。立派に務めてやるぜ! 見てろよ、日向!」


なんだよ?!

やっぱりやる気満々じゃないか!


茉莉ちゃんの相手役だからって、そんなに張り切ってんじゃねえよ!



・・・・・。



ああ、もう!

栗原にやる気があっても、やる気がなくても腹が立つ!


朝からこいつに会うなんてツイてないな。

こんな調子じゃ、午前中ずっとイライラしそうだ。


「だけどさあ、日向。やっぱり困るよなぁ。」


「何が?」


「俺、せっかく大野と友達なのに、恋人役なんてやったら、気になって話しづらくなっちゃうよ。そう思わないか?」


“気になって” って・・・。

俺だってそれを心配してるのに!


「大野ってけっこう綺麗系だろ? 見つめ合うだけでもドキドキしちゃうよな?」


「綺麗系?」


なんで、お前がそんなこと言うんだよ?


「そうなんだよ。お前、知ってた? 大野ってメガネはずすとけっこう美人なんだぜ。」


メガネははずさないって、前にあんなにむきになっていたのに?!

どうして栗原には素顔を見せてるんだ?!

メガネをはずして、何を・・・?


「・・・見なきゃいいんじゃないか?」


「そういうわけにはいかないだろうな・・・。ああ、困った。はー・・・。」


ため息なんかついてんじゃねーよ!!

栗原の贅沢者!!

目にガムテープでも貼ってろ!





「こんにちはー。」


茉莉ちゃん、やっと来たよ〜!

お昼には来ると思ってたのに、なかなか現れないから、心配してたところだった。


「あ、先輩。練習、お疲れさまです。お昼は食べたんですか?」


「うん。午後に部活がある友達がいたから、一緒に食べて来たの。」


そうかー。

栗原と抱き合うのがつらくて、どこかで泣いてるんじゃないかと思ったけど・・・。


「1組は練習始めるの早いね。」


「ふふ、監督が気合いが入ってるから。芳くんのクラスはまだ?」


「うん。夏休みが明けてからでいいって。」


「そうなの? じゃあ、宿題がはかどっていいね。ええと・・・数馬くん。」


お。

ようやく俺の番?


「なに?」


「演劇部のソノちゃんに、後夜祭で使いたいもののリストを渡しておきました。かなりいろんなものが揃いそうだったよ。お化粧のことも教えてくれるって。」


「よかった。ありがとう。」


「ええと、潤くんは明日まで夏期講習でお休みだったよね。じゃあ、きのうの続きを・・・。」


茉莉ちゃん、いつもと変わりないみたいだ。

劇のこと、あんなに嫌がっていたけど、やっぱり茉莉ちゃんらしく前向きに取り組んでるんだな。


悔しいけど、応援してあげなくちゃ・・・。






あれ? 茉莉ちゃん?


宿題の調べ物だって図書室に行ったはずだったのに、こんなところでため息をついているなんて。


「茉莉ちゃん。」


「あ。数馬くんも飲み物を買いに来たの?」


いつもの恥ずかしげな笑顔だ。

でも、今は少し元気がない?


「どうしたの、ため息なんかついて? もしかして、あと一週間じゃ、宿題が終わりそうにないとか?」


「ふふ、違います。・・・ちょっと悲しいなあ、と思って。」


「悲しい?」


「ここに飾ってあるお習字を見ていたら、ちょっとね。」


お習字?


芸術選択で書道をとっている生徒の作品か。

昇降口を入ってすぐのこの場所に、美術の作品と一緒に、いつも何人かの作品が飾ってある。


「普段はあんまりじっくり見る時間がないでしょう? 自動販売機でお茶を買おうと思って来たついでにながめていたの。そうしたら、ここにね、ほら。」


夏の課題らしいうちわに文字を書いた作品。

俳句やことわざが書かれた作品の中で、茉莉ちゃんの視線の先には太く一文字『鯨』と書いてあるうちわ。隅に小さく『翔』・・・?


「・・・栗原?」


「そう。栗原くんの。大らかでいいよねぇ。」


たしかにあいつの性格がそのまま出ているような字だ。


「去年も一度、栗原くんのが飾ってあって、そのときも、いいなあ、って思ったの。」


茉莉ちゃん・・・?


「栗原くんの作品って、ほんとうに自由で大らかで、そういうところが気持ちが良くて好きなの。」


好きって・・・それは作品だけのこと?

もしかして、栗原本人に惹かれてる・・・とか?


「ど・・・、どうして、ため息なんか・・・。」


「・・・劇のこと。」


「・・・クラスの?」


「うん。栗原くんは普通のクラスメイトとして話せるひとだったのに、お芝居だって言っても、恋人役とかになっちゃうと・・・なんだか話しづらくなっちゃって。はぁ・・・。」


茉莉ちゃんも?


どうしよう?!

お互いにそんなふうに考えてたら、ほんとうに好きになっちゃうかも・・・。


「それにね、そもそもそういうお芝居が、その・・・。」


・・・恥ずかしいんだよね。茉莉ちゃんは人一倍。


そんな言葉も口にできなくて恥ずかしがってる今の茉莉ちゃんは・・・なんだか悩ましくてクラクラしちゃうよ。

これじゃあ、相手役の栗原じゃなくてもイチコロなんじゃないか?

ああ・・・、練習を見張っていたい!

どうして俺は1組じゃないんだ?!


「あ・・・、ごめんなさい、数馬くんにこんな愚痴を言ったりして。数馬くんは栗原くんのことを知っていると思ったら、つい・・・。」


「いいよ。・・・ええと、そのくらいしか役に立つことはないから。」


ほかの男に茉莉ちゃんが悩みを打ち明けるなんて、そんな危険なことさせらるわけないだろ!


「いつでも聞くから遠慮しなくていいよ。・・・もう生徒会室に戻る?」


ああ・・・。

こんなときに「俺が練習相手に」って言えたら・・・。


「あ、うん。」


茉莉ちゃんは栗原に惹かれているんだろうか?

話しにくくなることが残念なのは、そのせいなのか?



俺はいつまで隣を歩くことしかできないままなんだろう・・・?







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