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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
35/103

◇◇ 複雑です・・・。 ◇◇


「潤くん、これってどうすればいいんだっけ?」


今日の生徒会室は3人。

数馬くんと潤くんとわたし。


「はい? ああ、ええと、ここからメニューを開いて・・・、」


ああ!


「思い出した。ありがとう。」


「いいえ。いつでも呼んでください。」


きのうから、パソコンで生徒総会の議事目録を作り始めた。

あると便利だろうと思ったのがきっかけだけれど、自分のパソコンの練習にもなりそうだと思って。


きのうから・・・。




きのうは大変だった・・・。

数馬くんが、午後につきっきりで教えてくれて。

今になっても恥ずかしくて、顔が熱くなってしまう。


舞い上がっちゃって、手は震えるし、言われてることが理解できない。

ときどき落ち着いて(落ち着くのがときどきしかないなんて!)質問しようとすると、声が裏返ったりして、また焦ってしまって。

それに・・・近いんだもの。

一度なんか、お礼を言おうとして横を向いたら、画面をのぞき込んでいた数馬くんのほっぺにキスしそうになったほど!


刺激が強過ぎる・・・。


それに・・・。

ほかのメンバーの目にどう映っているのかと思うと、恐ろしい。


特に芳くん。

目が合うたびに、可笑しそうな顔をするんだから。


ほかの人たちにもバレてしまうかも。

そんなの恥ずかしすぎるよ!



・・・で、今日は「必要なときには呼びます。」と宣言してしまった。

せっかく教えてくれるって言ってくれた数馬くんには申し訳ない気がしたけれど、数馬くんだって仕事があるだろうし・・・。



なんだけど。

今度はため息が・・・。


なぜなら・・・声がかけられないから。

恥ずかしくて。



ほんとうは隣に来て教えてもらいたい。

距離が近いことも、わたしのために時間を割いてくれることも、偶然に腕がぶつかったりすることも、ドキドキしてしまうけれどほんとうは・・・。


だけど・・・なにしろ恥ずかしい!

数馬くんを好きだって見抜かれそうで、恐ろしくてできない。



何度か声をかけようとして口を開くところまではいくのだけれど、出てくる名前は「数馬くん」ではなくて「潤くん」。

同じ書記だし。

パソコンは得意そうだし。



でも!

ほんとうは数馬くんに教えてほしい!

それに、潤くんを呼ぶたびに、数馬くんを傷つけているような気がしてしまう。

だけど・・・。



ああ・・・。

意気地なしなわたし・・・。


こうやって、斜め向かいに座っている数馬くんをそうっと見ながら、隠れてため息をついているなんて・・・。




「日向くーん、いるかな?」


え? 誰?

かわいい声。

数馬くんをご指名で?


「はい。・・・あれ、浜野さん? どうしたの?」


浜野・・・ああ、桃ちゃんだ。

たしか、日向くんと同じクラスだったっけ。


相変わらずかわいいな。

ふっくらしたほっぺに大きな目。

ふたつに結んだ髪の先がくるくるとカールして。

短く上げたスカートからはほっそりした脚。

同じ制服を着ているのに、どうしてこんなに違って見えるんだろう?


「夏休み中にクラスの劇の練習をするって聞いた?」


あーあ。

仕草もかわいいよね。

あんなふうに笑顔で男の子の顔を見るなんて・・・わたしにはとてもできない。


「聞いてるよ。佐藤からメールが来てたから。」


「日向くん、小道具担当でしょう? 夏休み中に買い物に行く?」


「その予定はないけど。なんで?」


「買い物に行くときに、わたしも一緒に行きたいの。」


・・・・あれ?

間違えちゃった。

入力するのはここじゃなくて・・・。


「一緒に? そんな必要、ないんじゃないかな?」


「えー? でもぉ、わたしが使うものもあるから、自分のイメージに合うものを選びたいなあ。」


あ。

今度は飛ばしちゃってる?

ええと、こっちは移動させて・・・。


「浜野さんが使う小道具なんてあった?」


「あるよぉ。カゴとか、お花とか・・・。」


「希望を言っといてくれれば適当に選んでくるけど。」


「ダメなの、それじゃ。大きさも色も、いろいろあるんだから。」


ダメだ。

なんだか上手く行かない。

ちょっと、トイレにでも行って来よう。





・・・やだな、わたしって。

自分が勇気がないからダメなのに、落ち込んで、逃げ出して。


桃ちゃんが羨ましい。

自分の要求をきちんと伝えることができる。

それに・・・あんなにかわいいんだもの、男の子たちは彼女の要求をかなえてあげようって思うよね?


あ、桃ちゃん・・・。

数馬くんとの話は終わったのか。


「茉莉花、元気?」


「うん。」


さっきはちらりとも、わたしのことなんか見なかったくせに。

でも・・・やっぱりかわいいな。


「桃ちゃんのクラスの劇はなに?」


「『白雪姫』。」


『白雪姫』?! 高校生で?


「も、もちろん主役は桃ちゃんなんでしょう?」


「えへへ・・・。そうなんだ。みんなが推薦してくれて。」


“みんな” って、男の子たちのことだよね・・・。


「きっと、桃ちゃんのお姫様姿が見たいんだね、みんな。」


数馬くんも?


「そうみたい。ふふ。演劇部では、今回は地味な役だから。」


ああ、演劇部だっけ?


「茉莉花もクラスの劇では主役なんでしょう? ソノちゃんが言ってたよ。」


「うん、まあ・・・。自信はないけど・・・。」


今でも乗り気じゃないし・・・。


「いいよね、茉莉花は。」


「え? なにが?」


「茉莉花は有名人だもん。それだけでお客さんが集まるもんね。」


あの日、ソノちゃんも、そういうことを言っていた。

だけど、今の桃ちゃんの言い方は・・・。


「べつに有名なんかじゃないけど・・・。」


「そんなことないでしょう? 元生徒会長のいとこで、 “ジャスミン” なんて綺麗な名前がついてるんだから。」


そんな・・・。


「でも、お客さんがたくさん集まっても、舞台がつまらないかもしれないのにね? 茉莉花もソノちゃんも、勇気あるよね。ああ、勇気じゃなくて、自信か。楽しみにしてるね。あ、休憩時間が終わっちゃう。じゃあね。」


なに・・・あれ?

なんで、桃ちゃんにあんな言い方をされなくちゃいけないの?


中学のころからそうだったよね?

何かっていうと、わたしに突っかかって来て。

かわいくて、人気があって、勉強もできるのに、どうしてわたしに意地の悪いことを言うの?



なんだか、腹が立つ。



・・・腹が立つ?


こんなふうに思うの、初めて。

いつも、悲しくて、傷ついてるだけだったのに。


でも、ほんとうに、くやしい。

負けたくない。



・・・負けたくない?



うん、そうだ。

負けたくない。



見た目のかわいらしさでは勝てないし、桃ちゃんみたいに男の子にアピールすることもできない。

だけど・・・、だから、せめてクラスの劇では勝ちたい。


こんな個人的な理由ではみんなには申し訳ないけれど、わたしもようやくやる気が出て来た。

栗原くんと抱き合うシーンだって、なんとかやってみせる!



うーーーー・・・。

やってみせ・・・たいな。



ひとつだけ、さっきの桃ちゃんを見てて、わかったことがある。


自分の要求をちゃんと言わなくちゃダメだってこと。

桃ちゃんだって言わなくちゃ分かってもらえないんだもの、わたしなんか、もっと言わなくちゃダメだ。


だけど・・・それが難しいんだよね。


もしかしたら、口に出すよりも、実行する方が簡単かな?

だとしたら、どうやって?







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