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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
33/103

◇◇ 夏休みの生徒会室 ◇◇


まだ頭がぼうっとしてる。

一晩明けたのに。


交流会では話せなかった数馬くんが、急に「送るから」ってあの場から連れ出してくれて。

普段でもあんなことになるのは恥ずかしいのに、わたしの気持ちを知っている芳くんの前だったから、ますますどうしたらいいのかわからなくて。

数馬くんが押してくれた背中に、今でもほんのりと気配が残っているような気がする。


それに・・・メガネのこと。


お揃いに見えたって。

数馬くんも嫌じゃないって。


よかった!

嬉しい!

なんだかもう・・・願いが全部叶ったような感じ!


ああ・・・しあわせ。



うちに来て、お父さんとお母さんにあいさつした数馬くんは、いつもどおり爽やかで落ち着いていた。

だけど、まさか、お父さんまで出てくるなんて。

啓ちゃんがわざわざ知らせたりするから・・・。


帰ったあと、根掘り葉掘り訊かれたのは困っちゃったな。

だって・・・、数馬くんは、彼氏でもなんでもないのに。



やーん!!

“彼氏” なんて、言葉だけでも・・・目まいがする。



無理だよ。

わかってる。

そんなことにならないから落ち着いて。


そうそう。深呼吸して。


虎次郎くんと芳くんが助けてくれたように、数馬くんもわたしを助けてくれただけなんだから。

啓ちゃんが「玄関まで」って言ったから、そうしてくれたんだから。


でも・・・メガネのことは?


お揃いでも嫌じゃないって。

嬉しいよ・・・。

だめ。

なんだか、歌い出したい気分♪


きのうの帰りの思い出だけで、何年も幸せでいられそう〜。


「茉莉花先輩、おはようございます。」


きゃ!


「あ、り、涼子ちゃん、おはよう。」


ああ、びっくりした・・・。


「駅の階段でぼんやりしてると危ないですよ。きのうの交流会、どうでした?」


「こっ、交流会? あの、そうね、賑やかだったよ。」


「一葉の人たちってどうですか? カッコいいですか?」


「カッコいいかどうかはよく分からないけれど、親切でいい人たちだよ。」


一番はもちろん・・・だけど。


「ふうん・・・。茉莉花先輩、なんだか楽しそうですね。もしかして、素敵な出会いがあったりして・・・?」


「やだ、涼子ちゃん! 新しい出会いなんてなかったの、ほんとうに。」


数馬くんに出会ったのは、入試のときなんだから!





夏休み中の活動は、基本的には土日以外は毎日。

やることがたくさんあるわけではないけれど、九重祭の関係で実行委員が出入りすることもあるし、夏休みに集中してやりたいこともあるから、と聞いている。

でも、夏期講習や旅行で休むのも自由。


「最後の方になると、土日でも宿題を持って来てやってるよ。涼しいし、教え合えるからって。」


と、数馬くんが笑っていた。


夏休み前に全員の予定表を作ってみたら、お盆の時期以外は誰かが来そうだとわかり、それを見た田嶋先生が、一人しか来られない日はお休みにしようと決定した。

生徒会室の戸には、用がある生徒のために『夏休み中の生徒会活動日程表』が貼ってある。





「虎次郎先輩。後夜祭の準備って、いつごろから始めるんですか?」


書庫で去年の夏休み中の活動記録を調べていたら、打ち合わせ室から涼子ちゃんの声が聞こえた。


「ああ、今年は劇じゃないから練習はいらないけど、調べ物があるんだったよな? 着るものの調達も考えなくちゃならないから、早い方がいいか。」


「そうだな。うちの学校の昔の制服なら、この部屋の隣にある資料室で分かると思うけど、最近の流行を調べるって言ったら・・・図書館か?」


「じゃあ、わたしたち一年で行って来ます。一週間のあいだには3人ともそろう日もありそうですから。」


「闇雲にあたるのは難しいかもしれないよ。・・・そうだ。田嶋先生に何か覚えがないか訊いてごらんよ。」


「ああ、それがいいな。あの先生、だいぶ張り切ってたから、いろいろ思い出すかも知れないぞ。」


「分かりました。そうします。面白いのが出てくるといいですねえ。」


涼子ちゃんも楽しそう。

この分だと、あのセーラー服はわたしが着なくても大丈夫だよね?

何しろわたしにはすでに、クラスの劇の主役という大役が・・・ああ、ゆううつ・・・。


もう!

こんなこと考えるのはやめよう!


こういうときには体を動かす作業を・・・。

この壁際にある荷物って、なんだっけ?



・・・・・?



なんだろう、これ?

ネジがいっぱい。

捨てちゃっていいのかな?



よくわからないや。あと回し。

じゃあ、こっちの段ボール・・・?



パンフレット?

パソコン・・・、プリンタ・・・、他校の文化祭のも・・・『’98』?

いつからここにあるの?

これも捨てちゃっていいの?



「あ、茉莉ちゃん。」


「わ! あ、数馬くん。」


「ああ・・・、びっくりさせてごめん。何か探し物?」


「違うの。このあたりの荷物を整理しようと思ったんだけど、捨ててもいいものかどうかよくわからなくて。」


「どれ? ・・・ああ、なんだかすごいね。俺が入ったころから、触ってもいないからなあ・・・。虎次郎! ちょっと。」


虎次郎くんに訊いても、やっぱりよく分からないのは同じ。


「使い道が分からないものは、とっておいても使わないよ。この際だから、まとめて捨てよう。」


「うん。向こうの打ち合わせ室にも、わけのわからないものがあるよな? ああいうのも、一気に処分するか!」


「ついでに大掃除でもする? そもそも掃除することが何年ぶりなのか・・・。」


「いつがいい? 茉莉花、次に全員が集まる日は?」


「あ、ちょっと待って・・・。ええと、来週の月曜日。」


「じゃあ、大掃除はその日だな。その前に、俺と数馬で段ボール箱の中を見ておく。それでいいよな、数馬?」


「OK、そうしよう。」


さすが数馬くんと虎次郎くんだ。

こんなことも、さっきの後夜祭の話も、あっという間に話が進む。

ほんとうに頼りになる。


わたしもしっかりしないと。

ずっと考えていたことを相談してみよう。




「あの、数馬くん。」


「なに?」


やっと声をかけることができた。


新しいことをやりたいなんて言い出すことが図々しいような気がして。

それに・・・やっぱり、恥ずかしいよ!

呼んだだけで、わたしが数馬くんのことを好きだって、ほかのひとが気付いてしまいそうな気がするんだもん。


「あの・・・、ちょっと、やってみようかと思っていることがあって・・・。」


「どんなこと?」


微笑んでくれてる・・・。

いつも優しいよ、数馬くんは・・・。


「ええと、生徒総会の議事の目録を作ろうかと・・・。」


「目録?」


「うん、あの、裏のキャビネットに古い議事録があるんだけど、そこから議題を拾ってパソコンに入力したらどうかと思って・・・。審議の日と了承されたかどうかも入れて一覧にすれば、あとで探すときに・・・」


「ああ、なるほど! いいね、それ。」


「そ、そう?」


「うん。去年、校則の変更のことを調べたことがあって、それがけっこう大変だったんだよ。パソコンに入力してあれば分類も簡単にできるし、新しい分を追加して行くこともできるから便利だよね。」


よかった!

ちゃんと役に立つんだ!


「夏休み中にやろうと思ってるんだけど・・・、」


「うん。よろしく頼むよ。」


「ええと、ただ、わたし、あんまりパソコンが得意じゃなくて、時間がかかっちゃうかも・・・。」


「じゃあ、俺が教えるよ。」


「えぇ?!」


教えるって、ちょっと待って!

と・・・隣に座って、とか?!

そんな!

何も頭に入らなくなっちゃうよ!


「ええと、その・・・。」


「いつから始める? 明日?」


明日?!

話がどんどん進むのはさすがだけれど、そんな・・・急に言われても・・・。


「え、ええと、あの、来週・・・?」


「ああ、そうだよね。荷物の整理もあるし、じゃあ、大掃除の次の日から。」


「はい・・・。よろしくお願いします・・・。」


予想外の展開。


どうしよう?

わたし、大丈夫なんだろうか・・・?







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