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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
32/103

◆◆ 締めくくりは ◆◆


これで良かったのか?


茉莉ちゃんの背中を押して信号を渡り終えたところで、急に不安になる。


茉莉ちゃんがああいう集団でゲーセンに行ったりするのは苦手だって決めつけて、思い切って連れて来たけど、ほんとうは行きたかったかも知れない。

それに、俺と帰るのは嫌かも・・・。


そう思ったら、手に込めていた力が抜けた。

それを感じたらしい茉莉ちゃんが、横断歩道を渡りきったところで俺に体ごと向けて立ち止まる。

何かを決意したような彼女の表情に、一瞬、「余計なことを」と言われる覚悟をした。


「あの・・・、あの、どうもありがとうございました。」


・・・よかった。

とりあえず、俺の行動は正解だったらしい。


「あの・・・いいよ、俺も帰りたかったから。無理に連れて来ちゃったみたいで悪かったけど・・・。」


「ううん。わたしも『帰る。』って言うタイミングが見つからなくて困ってたから・・・助かりました。」


また丁寧な言葉遣いになってる。

まあ、びっくりさせちゃったから仕方ないか。


ほっとして並んで歩き出すと、今度は自分たちの姿が気になりだす。


夏休みの夜、私服で二人で歩いてる。しかも、おそろいのメガネ〜♪

これって、他人にはデートに見えるよな?


っていうか、デートの練習・・・なんてね!

緊張してる茉莉ちゃんも初々しいし・・・、だめだ、顔がつい・・・。

そうだ。

何か話をしなくちゃ。


「あ、ええと・・・、さっき、」


話し出すと、茉莉ちゃんが首をかしげるように俺の顔を見た。

そのとたん、視線が。


うわ、今日は俺も恥ずかしい!

思わず反対側を向いちゃったよ・・・。

なんだか、今度は心臓が・・・。


「あの、や、八重女の柳原さんに、俺たちの」


あ・・・あれ?

俺と茉莉ちゃんのこと「俺たち」なんて言ってよかったのか?


でも、もう言っちゃったし!


「・・・メガネはおそろいなのかって」


よく考えたらこの話題、今の気分で出すにはけっこうギリギリな・・・。


「訊かれた・・・よ。」


照れくさい。

もう、ただひたすら照れくさい。

俺がそれを嬉しがっていることが茉莉ちゃんに知られたら・・・、いや、でも、知ってほしい気もするし・・・、だけど・・・。


どうしよう?!


なんだか、とてつもなく恥ずかしくなってきた!

こんな話、するんじゃなかった!

それに、茉莉ちゃんを困らせ・・・てない?

いつもどおり、恥ずかしそうに赤くなってはいるけど・・・。


「あの、」


「う、うん。」


何を言われる?

メガネを変えるとか・・・。


「かず、ま、くんは、嫌・・・ですか?」


ん?


カ、ズ、マ、ク、ン、ハ、イ、ヤ、デ、ス、カ? ・・・あ!


俺に、迷惑かって訊いてるのか!

緊張し過ぎて、耳がちゃんと働かないみたいだ・・・。


「いっ、嫌じゃないよ、全然っ! あっ、あの、光栄です。」


なんだよ、この言葉遣いは!

こんな言葉、友達同士で使うかよ?!


「・・・よかった。・・・ありがとう。」


・・・え?


“ありがとう” って言われた?



え?

それって、俺がメガネがおそろいであることを嫌じゃないことに対して・・・だよな?

ってことは?


もしかしてもしかしてもしかして。


もしかして、ここで「好きだ」って言ったら、OKしてもらえるんじゃないか?



え? そんな!

急にそんなこと。

まだ心の準備が・・・。



だけど・・・。


ここで告白すれば、あと1か月ある夏休み中にたくさんデートできる!

俺のために可愛い服を着てきてくれるなんて、考えただけでも胸がむずむずする。もしかしたら水着姿だって・・・は無理かな。

でも、こうやって歩くときだって、手をつないだり・・・夏は暑いか。でも、映画館とか水族館とかでなら・・・。もしかしたらキスだって・・・わあああ!



想像力にキリがない。

いや、想像力じゃなくて、こういうのは妄想って言うのか?



考えてるだけじゃ意味がないな。

実行に移さないと。



(『恋愛禁止』!)



うわ!

こんなときに思い出すなんて!


もう、無視無視!

だって、上手く行きそうなんだぞ! どうせ、誰も知らないし!


だいたい、俺だけじゃなくて、虎次郎と芳輝だって同じ立場だ。


ぐずぐずしてたら茉莉ちゃんがあいつらの誰かと・・・。


「あの、茉莉ちゃん。」


「は、はい。」


「・・・・・今日は楽しめた?」


ダメだ。

簡単には言えない。

こんな場所じゃ、人がたくさんいるし・・・。


「ええと・・・、ちょっと不安だったけど・・・、虎次郎くんと芳くんが助けてくれたから・・・。」


そうだった。

今日は、俺にはいいところがなかった。

それを確認するような話題を、わざわざ自分で・・・馬鹿だな。

俺には茉莉ちゃんに告白する資格なんて・・・。


「それに、数馬くんも・・・気付いてくれたから。」


え?

俺も、ちゃんと茉莉ちゃんの役に立った?


茉莉ちゃん!

俺、やっぱり茉莉ちゃんのことが・・・!


「あの、茉」

「あれ? ジャス?」


え?

この声。


「啓ちゃん!」

「星野先輩?!」


「こんな時間に・・・二人で出かけてたの?」


先輩、ちょっと目つきが怖いような気が・・・。


「あの」

「ち、違うの! 生徒会の交流会で!」


「交流会?」


「そうなの。一葉と八重女とうちの3校の生徒会で・・・。」


はい、そうです。

二人でデートしていたわけではありません。


「でも、ほかの人たちは?」


先輩、チェックが細かい・・・。


「みんなゲームセンターに行ったの。わたしは先にか、日向くんが送ってくれることになって・・・。」


「そうなんだ? 悪いね。」


ようやく笑ってくれたよ。

ほんとうに茉莉ちゃんのことが大切なんだな・・・。


「いいえ。先輩は・・・?」


「俺? 予備校の夏期講習。普段より早い時間帯だから・・・。ジャス、門限に間に合わないんじゃないのか?」


あれ?

ほんとうに門限があるのか?


「お母さんに、今日は遅れるかもって言ってきたよ。」


「ならいいけど。日向、悪いけど、ジャスのこと頼むよ。」


「はい。」


よかった〜。

自分で送って行くって言われるかと思ったよ。


「ちゃんと玄関まで連れて行ってくれよな。その方が、伯母さんも安心すると思うから。」


「は、はい。」


茉莉ちゃんのお母さんに会う?

ちょっと緊張するけど、それもいいかも。

ほかのヤツより先に・・・。


「啓ちゃん! 大丈夫だよ。そんな必要ないよ、日向くん。うちは駅のすぐそばだから。」


「いいよ。ちゃんと玄関まで送るから。」


少しでも茉莉ちゃんと二人きりの時間がほしい。


だって!

家に帰る星野先輩がいたら、電車の中は三人だよ。

先輩のことを邪魔にするわけじゃないけど・・・、茉莉ちゃんがその方が気楽なのも分かるけど、やっぱり・・・。


「そういえば、日向、あのノート、読んでみた?」


ノート?


「あ、会長ノートですか? はい。」


もしかして、あのことを・・・?


「そう、よかった。ああいうことって、つい忘れがちになるから、いつでも見られるようにしておくといいよ。」


『ああいうこと』って、『恋愛禁止』のことを言ってるのか?!

俺が茉莉ちゃんに手を出さないように牽制しているのか?!


そうじゃないとしても、『恋愛禁止』は先輩も知ってるんだ。

もし、俺がそれを無視して告白して、茉莉ちゃんに災難が起こったりしたら・・・。『恋愛禁止』どころか『接近禁止』とか・・・。


「はい・・・。」


やっぱり、あの紙には呪いがかかっているに違いない・・・。





電車を降りて、ようやく二人きり。

『恋愛禁止』だって、一緒に歩くのまで禁止しているわけじゃない。

静かな道を二人で歩くなんて、それだけでも・・・。


「あそこのマンションなの。」


あそこって・・・改札口からデッキで直結の・・・?


「ごめんね、こんなにちょっとの距離なのに降りてもらっちゃって・・・。」


「い、いや、いいよ。玄関に着くまで何があるかわからないし。」


そうか、こんなに近いのか。

明るいし、人がたくさん行き交っている・・・。


オートロックのエントランスを一緒に抜けてエレベーターへ。



――― 手をつなぎたい。



また、いきなりだ。

二人きりの狭い空間の効果?


・・・無理だよな。

茉莉ちゃんは驚くだろうし、拒否されるのが怖い。

それに、拒否されたのが防犯カメラに映っていたりしたら、俺はまるで痴漢だ・・・。



せめて、隣に並ぼう。



立つ位置を少しずらすと、横からおずおずと見上げてくる茉莉ちゃんの視線。



・・・大丈夫だよ。心配しないで。



そう思いながら微笑んでみたら、茉莉ちゃんが・・・笑った。

いつかの、あの笑顔で。


「ありがとう、数馬くん。」


二人の立つ位置は変わらないのに・・・、どこかが触れ合っているような気がする。



・・・まあ、いいか。



八重女の生徒会には、茉莉ちゃんが俺の彼女だって伝わっただろうか?

そうなれば、山口さんは諦めてくれるだろうし、もしかしたら、一葉の連中にも伝わって、茉莉ちゃんの身も安泰かもしれない。



そうだ!

前に茉莉ちゃんが、メガネに願い事をしてるって言ってた。


このメガネって、俺にとってはラッキーアイテムなのかも。

俺も願ってみようかな・・・。


茉莉ちゃんと仲良くなれますように!



そういえば、二人ともメガネをかけたままでキスってできるんだろうか?

試してみたいな・・・。今じゃなくても。







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