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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
31/103

◆◆ 焦る! ◆◆


さっきのあれは、何なんだ?!


茉莉ちゃんが部屋から出たとき、ドアの小窓を通して、芳輝と話しているのが見えた。

と思ったら、茉莉ちゃんはすごく驚いた顔をしていて、戻って来た芳輝が、俺と目が合った途端に意味ありげに笑いやがった。

あれから茉莉ちゃんは、明らかに赤い顔をしてそわそわしている。


何なんだ、あの態度は!

二人のあいだでどんなやりとりがあったんだ?!

やっぱり芳輝は要注意人物だ。


それに・・・。


今日は全然、茉莉ちゃんの近くに行けてない!

こんなに長時間一緒に行動しているのに、どうしてなんだよ?!



今日の集まりに関しては、出だしから上手く行かなかった。


きのうの夜、茉莉ちゃんに一緒に行こうと言おうとして、自信がないばかりに中途半端な表現のメールを送ったのが悪かった。

集合場所はわかるから大丈夫だと返事が来た。


彼女が乗ってくる駅はうちから行く途中にあるから、少し強引だけど、早めに出てその駅で降りて待とうかと思ったら、降りるつもりだったドアから山口さんが乗って来た。

茉莉ちゃんと小学校が一緒なんだから、使ってる駅も同じなのは仕方ないけど、なんでそんなに早く!

彼女の勢いに押されて結局降りることができなくて、そのまま終点まで行く羽目に。

集合までの長い時間を山口さんと過ごすのかと恐ろしくなって、口実作りのためにCDショップに行ってお金を使ってしまった。


集合場所に行ったら、茉莉ちゃんが手塚と一緒に現れた。

手塚も茉莉ちゃんと同じ駅だったと思い出して、落ち込んだ。


しかも、茉莉ちゃんの私服姿は可愛いし・・・。


すとんとした水色のワンピースで、うしろに細い紐のリボンが結んである。

その上に網みたいな生成り色の短いベスト、手にはキャンバス地のバッグ。

見慣れた黒縁のメガネは全体の統一感を崩す感じで、思わず微笑みたくなる楽しさ。

茉莉ちゃんらしいナチュラルな可愛らしさは、八重女の子たちの華やかさとは一線を画している。


一葉の男たちの視線も気になる。

それに、虎次郎と芳輝の服装もそれぞれに決まっていて、自分の野暮ったさにまた落ち込む・・・。



だけど!


茉莉ちゃんと話せないままなのはなんでだ?

今日、彼女は何度も不安そうにしていたのに。

ボウリング場でも、この部屋でも、こんなに近くにいるのに。

移動する途中さえも、何故か身動きが取れないような気がする・・・。


茉莉ちゃんの周りには、一葉の男どもが順番にやって来て話している。

今は虎次郎が守るように隣にいるけど・・・茉莉ちゃんが虎次郎のことを好きになったらどうしよう?!

いや、それよりもやっぱり芳輝が・・・。



「まさか、茉莉花が生徒会役員をやってるなんて、思わなかったな。」


「え、あ、そう?」


思考の中に沈んでいた俺の耳に、茉莉ちゃんの名前が聞こえて我に返った。

隣の席では山口さんが、身を乗り出すようにして俺を見ている。

襟ぐりが大きく開いた服の肩がずれて、中に着ているものの肩紐が見えている。たぶん見せてもいいものなんだろうけど、なんとなく見ちゃいけないような気がするし、こういう服を選ぶこと自体があんまり好きじゃない。

八重女はお嬢様学校だって聞いてたけど、今日来ている4人とも、けっこう遊び慣れてる感じがする。


「うん。はっきり言って茉莉花のことって、 “おとなしい子” っていうイメージしかなかったの。友達のグループが違ったせいでもあるけど、目立たない子だったっていう記憶しか残ってなくて。」


「ああ、あんまり接点がなかったんだ。」


つまり、仲が良かったわけじゃないと。


「まあね。今もあんまり変わってないみたいね?」


「そうかな? うちの生徒会では元気だよ。優秀だし。」


「そうね、九重に入ったんだから優秀なのよね。」


なんとなく嫌な感じ。

でも、茉莉ちゃんとそれぼど仲良しじゃないなら、ちょっとくらい俺が失礼な態度をとっても構わないよな?


にこやかに話しかけてくる山口さんに、ちょっと息苦しいからと断って廊下へ出た。

中から見えない場所に移動して伸びをする。

ボウリング場も今も、賑やかな中にずっといたからさすがに疲れたな。


あーあ。

早く解散にならないかな。

帰りくらいは茉莉ちゃんと一緒に帰りたいけど・・・手塚と山口さんがいるから二人でっていうのは無理か?


肩をぐるぐるまわしながら考えていたら、トイレから八重女の柳原さんが出て来た。

今日来ている八重女の4人の中では、比較的話しやすいひとだ。

俺に気付いてにっこりすると、すれ違いながら話しかけて来た。


「九重ではそういうメガネが流行ってるの?」


「え? メガネ?」


「うん。ほら、大野さんも同じようなのをかけてるから。」


「べつに流行ってるわけじゃないけど・・・。」


「じゃあ・・・、もしかして、わざわざおそろいにしたとか・・・?」


え? おそろい・・・?


たしかに似てるとは思ってたけど、おそろいなんて考えてみたことなかった。

でも、他人にはそんなふうにも見えるのか。

そう考えると、今まで邪魔だと思ってた茉莉ちゃんのメガネが、ものすごく愛しいものに思えてくる。


俺と茉莉ちゃんがおそろい・・・。


「ええと・・・、実はそうなんだ。分かっちゃった?」


言っちゃったよ〜!!

“おそろい” の魅力には抵抗できない・・・。


「みんなにはまだ秘密なんだけどね。」


だから、誰にも言わないでくれよ。

すぐにウソだとばれてしまう。


「そっか。じゃあ、しょうがないね。」


「何が?」


「実はね・・・、わたしたち、あやめに命令されていたの。」


命令?


「あやめが日向くんを気に入っててね、お近付きになりたいって。今日の交流会も、ほんとうはそれが目的だったのよ。」


「俺?」


「だって地区生徒会の日、日向くん、わたしたちのこと、完璧に無視だったでしょう?」


「・・・もしかして、トイレの前のこと?」


「そう。あの日もあやめの命令で日向くんのこと待ち構えてたのに、聞こえないふりして通り過ぎちゃったから。まあ、日向くんは誰にも話しかけさせなかったけど。」


当たり前だ。

あんなところで立ち止まるわけないだろ?

強行突破に決まってる。


「で、今日は、あやめがいつでも話しかけられるように、わたしたちが日向くんに付きまとってたわけ。気付かなかった?」


それで身動きがとれなかったのか!

迷惑な話だ!


「そんなに山口さんって強いのか?」


「強いっていうか・・・、まあ、女子同士はなかなか大変なのよ。あやめは中心にいることに慣れているから、彼女とうまくやっていかないと面倒なの。あやめに『お願い!』って言われたら、わたしたちには命令と同じなの。」


断れないお願いなんて・・・。女の子って大変だなあ・・・。


「日向くんには鬱陶しかったよね? ほんとうにごめんなさい。」


柳原さんは丁寧に謝ってくれて、もう一度にっこりすると、廊下を歩いて行った。



なんか不愉快だ。

だけど。



おそろい?


俺と茉莉ちゃんのメガネが?



楽しい。

なんだか顔が・・・。






「ねえ、ちょっとだけゲームセンターに行かない? わたし、欲しいぬいぐるみがあるの。」


食事会のあと外に出たところで、先頭を歩いていた山口さんが楽しげに振り返る。

賛成する声を聞きながら、緩やかにくずれた集団の中を、一番うしろにいる茉莉ちゃんの隣へ移動。

茉莉ちゃんは足元を見ていて顔を上げない。


隙間を縫って視線が合った山口さんに、笑顔でひとこと。


「俺は茉莉ちゃんを送って行くから、これで。」


茉莉ちゃんも含めてみんなのハッとした表情の中で、ニヤッと笑う虎次郎と片方の眉を上げる芳輝、それに、意味ありげな目配せをする柳原さん。



「え? あ、あの、」


「そうだな。茉莉花には門限があるからな。」


「うん。頼んだよ、数馬。」


慌てる茉莉ちゃんが何か言い出す前に、虎次郎と芳輝が話を合わせてくれた。

芳輝が悔しそうな顔をしないことに違和感を覚えつつ、成り行きにほっとする。


「じゃあ、お先に。山口さん、今日はありがとう。さあ、行こう、茉莉ちゃん。」


うしろから肩に手をかけて押すと、まだ驚いたままの茉莉ちゃんがぎこちなく歩き出した。


「あ、あの、あやめちゃん、ありがとう。またね。みなさん、お先に失礼します。」


そんなに丁寧に・・・。

そういうところがまた可愛いんだけど。



やったぜ!

これで茉莉ちゃんを一人占めだ!









もう一話、数馬が続きます。

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