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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
30/103

◇◇ 緊張と不安の交流会 ◇◇


「やったー!!」


ピンクの花柄のチュニックにベージュのショートパンツ姿のあやめちゃんが、スペアを取って、可愛らしく飛び跳ねて喜んでいる。

それをハイタッチで迎える一葉高校の男の子2人とわたし。

広いボウリング場に響き渡るいろいろな声と、ガシャーン、ガコーン、という独特の音。

あやめちゃんと入れ替わりに出て行く一葉高校の平林くんを見送りながら、隣のテーブルに置いてあるジュースのカップに手を伸ばす。



久しぶりだ、この感じ。



馴染めない、どういう態度をとったらいいのか分からないという焦燥感。

周りの人がどんな行動をするのか油断なく観察して、それに遅れないように行動する緊張感。

話しかけられたときに素早く気の利いた言葉をひねり出さなくちゃならないという圧迫感。



端っこの席を確保できてよかった。



みんなレーンの方を見ているから、わたしは見られる心配がない。

あんまりよく知らない人に話しかけられる回数も少なくて済む。

テーブルが隣にあるから、することがわからないときにはジュースを飲んでごまかせる。



平林くんがストライクを取ってガッツポーズをしている。

目の前で喜んでいるあやめちゃんと伊藤くんに合わせて立ち上がり、手を叩いてハイタッチでお迎え・・・できた。


こんなことくらいでほっとしている人なんて、わたし以外にはいないよね?


ああ、次はわたし。

ほら、遅れないで。



ボウリングなんて、小学生の時に一度やったきり。

うっかりして丈の長いワンピースを着てきてしまった。それに、前開きの手編みのベスト。

もともと下手なうえに、スカートもベストもバタバタして、球を投げにくい。

今もほら・・・やっぱり球は、2回とも横の溝の中。


肩をすくめて戻るわたしを、「ドンマイ。」と迎える3人。

今日は何回、この言葉を聞いたかな?

みんなも飽きてきたみたい。声に最初ほどの勢いがないもの。


それでも、楽しそうにしていなくちゃ。

だって・・・数馬くんも、虎次郎くんも、芳くんも、それぞれ楽しそう。

わたしが暗くなっていたら、みんなが心配するだろうから。




今日の参加者は12人。3校とも4人ずつ。

男の子は7人、女の子が5人。

ボウリングのグループは、それぞれの生徒会での役職がかぶらないようにシャッフルして3つに分けた。

グループ分けがわたしにとって恐ろしい時間なのは昔からのこと。とりあえず、あやめちゃんと一緒でほっとした。



集合の時間と場所の連絡は、計画を練ったあやめちゃんからではなく数馬くんから来た。

会長同士で連絡をとったからだとは思うけれど、あやめちゃんと数馬くんは会ったばかりなのに・・・と思ったら、落ち込んでしまった。


でも、すごくいいこともあったな。

数馬くんが、集合場所が分からなければ一緒に行こうか、とメールをくれたこと。

残念なことに、集合場所はいつも使っている路線の終点の改札口の目の前だったから、さすがに「分からない」とは言えなかった・・・。

そのことで、初めて私服で数馬くんと会うんだって気付いて、服を選ぶのが楽しかった。ボウリングには向いてなかったけれど。


今日の数馬くんはジーンズに紺のタータンチェックのシャツ、中に白いTシャツ。

体を動かしているせいか、髪が少し乱れて、ところどころ跳ねている。

制服のときには優等生らしい黒縁のメガネが、今日はお洒落に見える。

わたしのメガネは・・・やっぱり似合わないかな。


虎次郎くんは淡いグリーンのポロシャツ。きれいな色が意外に似合う。

芳くんは細身の体に白いボタンダウンのシャツの中に黒を合わせて、いつもよりさらに大人っぽい。

うちの学校の3人とも、女の子にモテそうって思うのは、身内の欲目?




2ゲーム目はグループを変えて。


1ゲーム目の成績を見ながら割り振られたグループは女子はわたしだけ。

でも、芳くんと手塚くんが一緒だから、さっきよりは気楽だ・・・と思って、ふと気付く。



女同士のあやめちゃんよりも?



どうしてだろう?

芳くんは同じ生徒会の仲間だけれど、手塚くんは中学のときだって、それほど話したわけじゃない。

なのに、あやめちゃんよりも気楽?


あやめちゃんは・・・?

あ。


数馬くんと隣り合わせに座って仲良く話しているあやめちゃんを見て、わかった。


劣等感。


きれいで、明るくて、お嬢様学校に通っているあやめちゃん。

男の子なら誰でも彼女にしたいと思うだろう。

八重女のほかの女の子たちも、みんな華やか。

わたしが同じ場所にいるのは、あの子たちが普通以上だって証明するため・・・。



ぽん! と頭を叩かれた。



誰?

うしろ?


椅子に座ったまま振り返ったら、背中合わせの椅子で虎次郎くんが笑っていた。


「茉莉花。さっき38点しか取れなかったんだって?」


「だって、小学校のときに一度やっただけなんだもの。」


「芳輝にしっかり教えてもらえ。60点に行かなかったら、指導不足で芳輝にジュースでもおごってもらおうぜ。」


「え? 茉莉花におごるのはわかるけど、なんで虎次郎にまで? 茉莉花。こうなったら厳しく教えるから覚悟しろよ。」


「そんな。なんだかすごいプレッシャーなんだけど・・・。」


「ははは! 仲がいいんだな、九重の生徒会は。」


笑われちゃった・・・。


でも、そうだ。

わたしには生徒会のみんながいる。

わたしが華やかじゃなくても、わたしを生徒会の一員として認めてくれるみんなが。

だから、少しくらい居心地が悪くても大丈夫。それは今だけのことだから。





カラオケ屋さんの大きな部屋へ場所を移して夕食会。


さっきのボウリングもこの部屋も、あやめちゃんが予約してくれたらしい。

こういうことに慣れているのかな?

わたしはカラオケ屋さんに来るのも初めてなのに。


入った途端、四角い部屋にぐるりと置かれたソファを見て、また立ちすくんでしまう。



どこに座ればいいんだろう?



女の子同士だとしたらあやめちゃんの隣だけれど・・・もう埋まってる。

しかも、苦手な一葉の落合くん。あのひとの近くには行きたくない。


ほんとうは数馬くんの隣に座るチャンス・・・って、普通の人なら考えるんだろうけど。

でも、無理だ。

ソファって、隣との境目がない。近過ぎて恥ずかしい。

緊張して失敗ばかりしそうだし、手とか足とかがぶつかったりしたら・・・。考えただけでもパニックになりそう。

おととい、電車で隣に立つだけでも恥ずかしくて、話すこともできなかったのに。絶対に無理だ。

それに・・・すでに両側に女の子が・・・。


かと言って、一葉の男の子の隣に座るのは図々しいだろうし、口下手なわたしが隣じゃ申し訳ない。


「茉莉花。こっちだ。」


あとから入って来た虎次郎くんに背中を押されて、ようやく足が動いた。

空いている場所はあとわずか。


前を歩く虎次郎くんが落合くんの隣に座ってくれて、わたしはその隣へ。

間に虎次郎くんが入ってくれれば、落合くんも怖くない。

カラオケ用のテレビに近い端だから、慣れない人と無理に話さなくてもいい。


「ありがとう。」


小声で虎次郎くんに言うと、虎次郎くんはうなずいて、やっぱり小声で


「頑張れ。」


と言ってくれた。

そのひとことで勇気が出た。




カラオケを強制されたらどうしようかと不安だったけれど、そんなこともなく、賑やかなおしゃべりで食事会は進む。

虎次郎くんが席を立つと、一葉の平林くんが入れ替わりに隣に来て少し話して行った。

手塚くんはそのあたりにあったスツールを隣に持って来て、しばらく話した。

落ち着いて話してみると、みんないいひとだ。さすが文武両道で有名な学校だけのことはある。

ただ・・・数馬くんは・・・。



トイレに行こうと廊下に出たところで、戻って来た芳くんに会った。


「疲れた?」


笑顔の芳くんが尋ねてくれる。


「ううん、大丈夫。みんな親切だから。」


そう言ってドアを振り返ると、小さい窓から女の子にはさまれて座る数馬くんが。


・・・楽しそう。


一瞬、笑顔でいるのが辛くなる。

今日はほとんど話していない。


急いで笑顔を作って芳くんを見ると、芳くんはにっこり笑った。


「大丈夫だよ。茉莉花はあの子たちに負けてないから。」


・・・え?


お盆を持った店員さんをよけて、二人でドアと反対側に。


でも・・・芳くんはどうしてこんなことを言うんだろう?


「茉莉花は数馬のことが好きなんだよね?」


「!!!!!」


叫びそうになって、慌てて口を押さえた。

自分の顔も耳も、たちまち熱い。

“顔から火が出る” って、きっとこういうことに違いない!


「な・・・。」


ダメだ。

恥ずかしくて何も言えない。


そんなわたしを芳くんが笑う。


「心配しなくていいよ、誰にも言わないから。ただ、今日は落ち込んでるみたいだから、元気づけてあげようと思って。」


元気づけてって・・・こんな方法で?

ものすごく恥ずかしいんだけど・・・。


「俺たち3人とも、茉莉花が一番だと思ってるよ。頑張り屋だし、自慢の書記だし、女の子としても断然上だよ。だから、あの子たちのことは気にすることないよ。」


そう言うと、固まったままのわたしの肩をたたいて、芳くんは部屋に入って行った。



知られてたなんて・・・。

芳くんだけなのかな・・・?。



でも・・・。


みんながわたしを大事に思ってくれている。

わたしって、ほんとうに幸せ者だ。


けど、恥ずかしい!!







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