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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
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◆◆ 警戒警報? ◆◆


「茉莉花! 一緒に帰れる?」


地区生徒会会議が終わった夕方、駅でそれぞれの帰り道の話をしていると、休憩時間に会った八重女の生徒が茉莉ちゃんに飛びついてきた。

たしか、茉莉ちゃんの小学校時代の友達って言ってた。つまり、茉莉ちゃんと家が近いってことだ。


「あ、うん。大丈夫。」


・・・だよな。

もうちょっと一緒にいたかったのに。

こんなことなら、さっさとみんなでどこかに寄る話でもしておけばよかった。

・・・ “みんなで” 、っていうのが情けないけど。


うちの学校は最寄り駅の沿線に住んでいる生徒がほとんどだから、結局、帰り道は全員一緒だ。

涼子ちゃんは他校の友達と何かを食べて帰ると言い、潤と慎也は買い物があると言って消えて行った。

茉莉ちゃんが虎次郎と芳輝にも、その子を「八重女の山口あやめちゃんです。」と紹介し、まったく名前を覚えていなかった俺はほっとした。


「うちの学校、遠くから通ってるひとが多くて、一緒に帰れる友達がなかなかいなくて。」


茉莉ちゃんと並んで俺たちの前を歩きながら、山口さんが振り向いてにこにこと説明する。


制服も髪型も、その話し方も、いかにもお嬢様っぽい。

女の子らしい柔らかさを持ちつつ、適度に賢そう。

大きくはないのによく通る声でテンポよく話す。

自分が注目されることに慣れている感じ?



・・・こういうタイプ、苦手だ。



ホームで電車を待ちながら、楽しげに話している山口さんを見ていたら、そんな思いがパッと浮かんできた。

隣の虎次郎と芳輝は普段と変わらない様子で、リラックスして会話に参加している。


茉莉ちゃんは?


・・・違う気がする。

にこにこしているけど、ほとんどしゃべってない。

みんなが笑うところでは一緒に笑ってる。だけど・・・違う。


なんだろう?

緊張感?

女の子同士で、小学校の同級生でも?

それと、あきらめ・・・?



――― 連れ出してあげたい。



まただ。いきなりの衝動。


山口さんが茉莉ちゃんの友達でも何でもかまわない。

すぐにでも茉莉ちゃんの手を取って、この場から連れ出してあげたい。


・・・そんなこと無理だ。

茉莉ちゃんは驚いて、行かないって言うだろう。

久しぶりに会った友達をほったらかしにすることなんて、彼女には考えられないことだろうから。

たぶん、山口さんは平気だろうけど。


そうだ!

山口さんは虎次郎と芳輝にまかせて、俺は茉莉ちゃんと話そう!

ちょうど電車も来たし、乗りながら茉莉ちゃんの隣を確保すればOKだ!


「あ、日向。」


「え?」


迷惑顔になりそうになったのを慌てて修正して振り向くと、一葉の手塚だった。そのうしろにも何人か同じ制服の男たち。


「お疲れ。」


軽いあいさつを交わしつつ、茉莉ちゃんの動きをチェック。

虎次郎を先頭に、芳輝、山口さん、茉莉ちゃんと続いたあとから電車に乗り込んで、茉莉ちゃんの隣の吊り革を確保。


よし!


でも、俺の隣に手塚・・・?

手塚の連れたちは背中合わせの吊り革に。


「あ、手塚くん。お疲れさまでした。」


茉莉ちゃん!

俺を飛び越えて手塚と話すの?

しかも、そんなに優しい顔。

もしかして、嬉しいのか・・・?


「ああ、大野。どうだった、初めての地区生徒会会議は?」


なんだよ、手塚?!

妙に優しくないか?


「熱心な人がたくさんいてびっくりしちゃった。わたしにはとても無理そうで。」


あ・・・れ・・・?

そんなふうに笑うの?

山口さんと話すときよりもリラックスしてるよ。


「ああ・・・。まあ、あんなに熱心なのは一部の生徒だけだよ。うちの学校だって、会長の俺からしていい加減だし。」


「そうなの? 手塚くんは中学のころから、何でも頑張っていたと思うけど。勉強もスポーツも、一番だったもんね。」


茉莉ちゃーん。

俺、ここにいるんだけど?


「あれ? 手塚の中学の同級生なの?」


うわ。

うしろから話しかけてくるなよ!


「え・・・はい。」


見ろ!

内気な茉莉ちゃんが怖がって身を引いてるじゃないか。

だいたい、俺と茉莉ちゃんの間に割り込むのはやめろ!


「お前たち、いきなり脅かすなよ。大野はデリケートなんだから。なあ、大野?」


なんか、その “俺はちゃんと分かってる” みたいな言い方・・・気になる。


「いえ、そんな。わたしは全然、普通の生徒ですから。」


緊張すると敬語になるクセが出てる。

俺にも未だに出るんだよな・・・。


そのあいだもずっと茉莉ちゃんの顔を見つめてるこいつ・・・殴ってやりたい。


「あれ? 落合?」


「え? あれ? 富樫。」


知り合いか?


「お前、相変わらず軽そうだな。うちの書記に軽々しく手を出すなよ。」


「なーんだ。ボディガード付きか。」


隣にいる俺は?!


「あれ? きみ、九重の生徒じゃないよね? 八重女?」


お!

ターゲット移動とともに、本人も移動!


「あいつ、ほんとうに物怖じしないんだよなあ。」


手塚が苦笑しながら、ようやく俺に話しかけてくる。

それに適当に答えながら、山口さんの隣に移動する落合が入れるようにと茉莉ちゃんが俺の方に半歩ほど寄って来たことに気付いた。



・・・・・・。



ちょっとだけ。

隣に立っていたら、当たり前に起こることだし。


手塚と話しながら、視界の隅で距離を測って。

電車の揺れにタイミングを合わせて。



トン。



俺の腕が茉莉ちゃんの肩にぶつかる。


「あ、ごめん。」


ハッとした表情で顔を上げた茉莉ちゃんと目が合って。



――― 大丈夫?



茉莉ちゃんは慌てて窓の外に目を向けながら、


「うん。」


と、うなずいた。

その頬が赤いのは夕焼けのせい?

それとも、まだ俺に慣れてくれないから・・・?


「ねえ、茉莉花、どう?」


落合の向こうから山口さんが茉莉ちゃんに話しかける。


「3校で交流会をしようかって。」


「交流会?」


「そう。茉莉花のおかげでせっかく知り合いになれたんだし、これをきっかけにして、これからも情報交換とかできたらいいなあと思って。」


茉莉ちゃんが俺と手塚を交互に見た。

少し困った様子なのは、どうしたらいいのか分からないからじゃなくて、知らない人ばかりの集団に入ることが不安だからだろう。


「具体的には何を?」


俺が尋ねると、山口さんが微笑んで答えた。


「ボウリングでもどうかな?」


「3校の生徒会全員で?」


「んー。まあ、初めだし、2年生だけ?」


「俺はうちと八重女だけでもいいけどねー♪」


落合がまん中で口をはさむ。


要するに、体のいい合コンだな。

一葉と八重女なら男子校と女子校なんだから、落合が言うように2校でやってくれれば・・・。


「ダメよ。茉莉花のおかげで知り合えたんだから、茉莉花が来てくれなくちゃ。久しぶりにたくさん話したいし。」


「え? ええと、その・・・。」


茉莉ちゃんが助けを求めて俺を見る。


山口さんの様子だと、俺が断っても「茉莉花だけでも来て」なんて言いそうな気がする。

その場合、彼女は断れないだろうから、手塚と山口さん以外は知らない人間ばかりの中に(この二人だって、ずっと会ってなかった相手だ)入らなくちゃならない。

それは茉莉ちゃんにはけっこう辛そうだし、落合みたいなやつがいるところに一人で行かせるのも不安だ。


・・・そうだ。虎次郎と芳輝は?


山口さんの向こうに目を向けると、二人が俺を見て小さくうなずいた。つまり、OKしてもいいってことだ。

二人とも合コンなんて積極的に参加するタイプじゃないけど、俺が断りきれないのをわかって、いいって言ってくれたに違いない。


ほっと肩の荷が下りた気分で、「いいよ。」と返事ができた。

そのままあっという間に日程(あさって!)が決まり、山口さんが場所を予約してくれることになった。


「日向くん。連絡先教えて。」


「え? ああ、連絡なら茉莉ちゃんを通してくれれば・・・。」


「でも、これから生徒会のことで相談に乗ってもらうこともあるかも知れないから。」


そう言われると断れない。

でも、赤外線でやりとりをしながら、なんとなく落ち着かない。

何か、水の中で足をつかまれたみたいな・・・。


「ありがとう。」


と微笑む山口さんはたしかに美人だと思うけど、あんまり親しくなりたくないな。

でも、茉莉ちゃんの友達なんだから仕方ない・・・。







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