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メガネに願いを  作者: 虹色
第四章 夏休み
28/103

◇◇ 地区生徒会会議 ◇◇


7月20日、海の日。夏休みの初日。

浜崎中央地区生徒会会議が開かれる日。

毎年海の日に、近隣10校の生徒会が集まって、テーマに沿った討論会をしていると啓ちゃんが言っていた。


今年のテーマは『話してみよう。委員会活動の悩み。』。

会場は隣の市の市民ホール。

オープニングには大会で上位常連の三咲学園吹奏楽部の演奏、会の冒頭には活躍している卒業生の講演もある。


最寄駅に1時に集合する前に、涼子ちゃんと一緒にファーストフードのお店でお昼を食べた。

制服で誰かと一緒にお店に入るのは、入学したてのころに一度やって以来のこと。

仲間に入れてもらっていた女の子たちはみんな部活に入っていたし、部活が休みになる試験前は、みんな勉強のためにさっさと帰ってしまうから。

周囲で交わされる楽しげな会話に少し気後れしながら、目の前の元気な涼子ちゃんに勇気を分けてもらった。




会場に着いてみると、かなりたくさんの人。

驚いているわたしに、数馬くんが説明してくれる。


「1校だいたい6人から10人くらいずつ来てるし、吹奏楽部は大所帯だからね。引率の先生もいるし。」


そうすると、生徒だけでも100人くらいはいるのか・・・。


「はい、今日のパンフレット。」


慎也くんを連れて受付に行ってくれた虎次郎くんが、一人ずつにパンフレットを渡してくれた。

パラパラとめくってみると、後半は参加校の生徒会役員の名簿だった。


「あ、楓だ。来てるのかな?」


名簿でお友達を見つけたらしい涼子ちゃんがロビーを見回す。

それを見て、田嶋先生が「まずは席に行ってから。」と促した。


「この年齢になると、立ったままでいるのは疲れるのよ。」


とため息をつく。

今日はベージュのサマースーツに黒のインナーとベージュのハイヒールで決めている田嶋先生は、全然そんなふうには見えないのにね。





「茉莉花、ちょっと助けて。」


休憩時間にトイレから戻る途中、芳くんが困った顔で小走りにやってきた。


「どうしたの?」


いつも余裕ありげな様子の芳くんが、こんなに情けない顔をしているのは初めて見たかも。


「よその学校の女の子たちが・・・。」


そう言って、ちらりとロビーの奥を振り返る。

横からわたしものぞいてみると、いろいろな制服の女の子たちが何組も、ヒソヒソ話しながらこちらを見ている。


「何かやったの?」


まさか、とは思うけれど、セクハラ的な・・・?


「やったんじゃなくて、されそうなんだよ。」


「え? 女の子に襲われそうなの?」


そうか、そういう可能性も・・・。


「何考えてんだよ、茉莉花!」


「あれ、こんなところに・・・どうした?」


あ、数馬くん。


「芳くんが困ってるみたいで・・・。」


「数馬〜。しつこいんだよ、あの子たち。トイレはあの向こうなのに・・・。」


「・・・ああ、あれか。去年もだったよ。よかったな、芳輝。男冥利に尽きるだろ?」


「なんなの?」


「くくく・・。ナンパ、みたいな。」


ナンパ?


「毎年、男子トイレの前で女の子たちが張ってるんだ。あれを突破しないとトイレに入れないんだよ。残念ながら、俺はスルーされたけどね。」


数馬くんを見逃すなんて、なんて見る目のない女子だ!!


でも、・・・よかった。

みんな可愛い子ばっかりだもん。

さすがに、自分から声をかけるだけのことはあるよね・・・。


「だから、茉莉花にちょっとだけ彼女のふりを・・・」


え?

あ、誰か捕まった。


「ほら、今なら通り抜けられるぞ! 早く行って来い!」


「うわ!」


あ、数馬くん、そんなに勢いよく押したら危ないのに・・・。


でも、ほんとうにすごいや。

お正月の渋谷のお店みたいだね・・・。


「日向。」


「え? ああ、久しぶり。」


日向くんの知り合い?


あれ?

見覚えがある・・・けど、名前が・・・。


「あれ? もしかして大野?」


「は、はい。ごめんなさい、あの、お名前が。」


「手塚大輔。久しぶりだな。」


「ああ、そうでした、手塚くん。お久しぶりです。」


ずいぶん大人っぽくなった。

中学の頃は、もっと丸顔でかわいらしい感じだったのに。


「日向と同じ高校だったのか? 去年は来てなかったよな?」


「うん、今年からなの。手塚くんは、か、日向くんと知り合いなの?」


「中学のころ、塾が一緒だったんだよ。去年、ここでも会ったし。」


「そうなんだ。」


あのころ、手塚くんは電車で塾に通ってるって聞いた。

陸上部でもいい成績を残していたし・・・。


「どこの高校なの?」


「私立の一葉いちは高校。男子校だからむさくるしいぞ〜。」


「ふふ、手塚くんを見ると、そんなふうには見えないけど。」


くせっ毛を短めにカットした髪型は爽やかだし、袖をめくったワイシャツにグレーのネクタイ、グレーのズボンには折り目がピシッとついて。


「部活の方はどう?」


よかった!

数馬くんが話し始めてくれた。


久しぶりだけど、何を話していいのかわからない。

この隙に、わたしは席にもどろう。


「あの、先に」


「茉莉花!」


え?

今度は女の子の声・・・?


「茉莉花、久しぶり!」


腕に飛びついてきたのは。


「あやめちゃん?」


うんうんと笑顔でうなずく相手は、間違いなく山口あやめちゃん。

小学校でクラスの中心的な存在だったあやめちゃんは、中学受験で、お嬢様学校と言われる私立八重桜女学院 ―― 通称 八重女やえじょ ―― に合格した。

彼女が着ている紺のジャンパースカートの制服(冬はボレロ風ジャケットを羽織る)は、このあたりの男子高校生のあこがれの的・・・ええと、制服が、じゃなくて、それを着ている八重女の生徒が。


「きゃーーー! 久しぶり!」


思わず悲鳴みたいに騒いで、飛び跳ねてしまう。


「パンフに茉莉花の名前が載ってたから、探しに来たの! 会えてよかった! 元気だった?」


「うん。あやめちゃんも相変わらず元気そう。それに、綺麗になったね。」


ほんとうに。

ぱっちりした二重の目に微かに赤味がさした頬、小さな鼻に形のいい唇。黒いカチューシャで留めた髪はたっぷりして、肩のあたりで緩やかにカール。


「やだ、茉莉花ったら! ありがとう、うふふ。あ。ごめんなさい、お話し中だったよね?」


「あ、いえ、べつに・・・」


離れようと思っていたところで・・・。

こういうときって、とりあえず紹介したほうがいいのかな?


「え、ええと、こちらは小学校で一緒だった山口あやめちゃんです。八重女の・・・。」


「初めまして。一葉高校の手塚大輔。よろしく。」


あ、握手ってするんだ・・・。


「九重高校の日向数馬です。よろしく。」


数馬くんは・・・笑顔だけ?

・・・よかった。


「あ、先輩たち、そろそろ休憩時間終わりますよ。」


あ、潤くん。


「ああ、今行く。じゃあ、また。行こう、茉莉ちゃん。」


わ!

よその学校の知り合いの前で「茉莉ちゃん」って呼ばれちゃった!


「あの、またね。」


わーん、恥ずかしい!

でも、嬉しい・・・。


「どうぞ。」


わたしに?

ドアを押さえててもらえるだけで、こんなに幸せだ〜。


「あ、ありがとう・・・。」


この気持ちを伝える言葉はたった5文字。

情けないな・・・。



近くにいられるだけで嬉しいの。

ひとこと声をかけてくれるだけで幸せになるの。

笑いかけてくれるだけで胸がいっぱいになるの。


・・・こんなこと、言えないね。



でも、この幸せが、一日でも長く続きますように・・・。







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