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メガネに願いを  作者: 虹色
第三章 ちょっとずつ
23/103

◇◇ 箱の中には ◇◇


パニック寸前だった・・・。


涼子ちゃんに「追いつくから先に行ってて。」とは言っておいたけれど、まさか数馬くんが残っているなんて!

あー・・・、もう、恥ずかしかった〜〜〜!!

緊張しっぱなしで、全然上手く話せなかった。

一年生のころに、何度も頭の中で想像したことはある。でも、ほんとうになってみると、なんて恐ろしいんだろう。

変なことばかり言ってしまって、すごく馬鹿だと思われたんじゃないだろうか・・・。


電車の方向が同じじゃなくて、ほんとうによかった。



・・・でも。



わたしって欲張りで図々しい。


初めに生徒会に行ったときには、数馬くんと近過ぎて困ってしまった。

目を合わせることも無理だと思った。


今でも恥ずかしいし、やっぱり緊張してきちんと話もできない。


なのに、 “もっと” って思ってる。


もっと近くにいたい。

たくさんお話ししたい。

一緒に笑ったり、仕事をしたりしたい。


ちゃんとできないのに。

考えただけでも、恥ずかしくて無理だって思ってしまうのに。


こんなわたしでも、数馬くんは優しい。

ほかのみんなと同じように接してくれる。

ほんのちょっとのことでも、「ありがとう。」って言ってくれる。


・・・頑張ろう。

少しでもみんなの役に立てるように。


そして・・・、ああ、メガネ様!

数馬くんと、たくさん・・・緊張しないでちゃんとおはなしができますように!






「あれ? このファイル綴じたの、誰だ?」


7月に入ってすぐ。

虎次郎くんの手元には、見覚えのあるファイル。

近くに寄ってのぞき込んでみると、いつか塩田先輩に頼まれて綴ったものだった。


「あの・・・わたしです。何か違ってた?」


あのころは仕事がよくわかっていなかったから、間違えちゃったのかな?


「ああ、そうじゃなくて。途中からいきなりきれいにそろってたから訊いてみただけ。茉莉花?」


「うん・・・。そんなに違うかな?」


「うん。ほら、ここまでは紙がバラバラだろ? 穴をいい加減にあけてあるんだよ。塩田先輩は片付けが苦手だったからなあ。」


「塩田先輩が? 苦手なことなんかあるようには見えなかった・・・。」


「他人から見えるところはビシッとしてるからな、塩田先輩は。でも、片付けとか整理整頓とか、裏側のことはできなかったよ。なあ、数馬?」


「そうだよ。しょっちゅう “あれはどこ?!” って言ってさ。俺なんか、どれだけ一緒に探したか分かんないよ。」


そうなんだ・・・。


「茉莉花は片付けが得意そうだな。最近、キャビネットのファイルをブックエンドで整理したりしてるの、茉莉花だろう?」


あ。


「わかった?」


「わかるよ。見た目もすっきりしたし、探しやすくなったから。」


「余計なことかと思ったけど・・・。」


「全然! 助かるよ。やろうと思っていても、なかなか手が出なかったから。」


よかった!

それに、「得意そう」なんて、まるでわたしに才能があるみたい。


「じゃあ、少しずつ裏の荷物も整理していいかな? 積んである段ボールとか紙袋とか。」


「おう、頼む。重い物は俺たちもやるから、遠慮なく言えよ。」


「ありがとう。」


嬉しい!

わたしでも役に立てる!

時間が空いたときに少しずつやれば、みんなの手を煩わせなくてもきっと大丈夫。



まずはどのあたりから手をつけよう?


一番窓際の箱?

クローゼットとかにある収納用の箱みたいだけど・・・、今日はちょっと中を見るだけ。


防虫剤の臭いがする。

あれ?

制服だ。


「なんだろう、これ?」


思わずつぶやいてしまうくらい、雰囲気が違う学生服。


「あれ? どうしたんですか?」


「あ、涼子ちゃん。これ、制服みたいなんだけど・・・。」


肩の部分を持って持ち上げてみると・・・長い。立たないと床に着いてしまう。


「重い・・・。」


裏地が派手な赤に虎の刺繍・・・?


「茉莉花先輩! これ、長ランじゃないですか?!」


「長ラン? なんだか応援団っぽいけど・・・。」


「昔の不良が来てた服ですよ! あ、こっちは短ランだ。」


涼子ちゃんが持ち上げた学生服。

短い?


「先輩たち、何やって・・・あ! どうしたんですか、それ? カッコいい!」


カッコいい?

これ?


「この箱の中に入ってたの。何かに使ったのかな? ねえ、虎次郎くん、これなんだけど・・・。」


「みんな、ちゃんと仕事してるー?」


あ。

田嶋先生。


生徒会担当の田嶋尚美先生は英語の先生で、年齢はたぶん40代半ばくらい。お母さんと同じくらいだと思う。

スタイルが良くて、いつもかっこよくパンツスーツを着こなしている。

長い髪を額からあげてうしろにまとめていて、今日は黒のパンツに赤いVネックのサマーセーターが凛々しい。

言葉遣いもパキパキして、生徒はみんな呼び捨て、授業はとてもおもしろいと評判だ。

放課後は質問に来る生徒がたくさんいるから、生徒会室に来るのは珍しいと聞いている。


「あれ? 大野、その制服は校則違反だよ。」


え?

わたしのじゃないよ!

しかも、男子用なのに!


「いえ、違います! あの、ここにあった箱の中に入ってて・・・。」


「箱? どれ?」


「ほかにも・・・。」


サッと大股でやってくると、先生が箱をのぞき込んで笑い出した。


「思い出した! 5、6年前にもらったやつだ! まだあったんだ! あはははは!」


「何かに使ったんですか?」


数馬くんの質問に、先生が答えてくれた。


「うん。後夜祭で不良が出てくる劇をやることになったとき、当時の副校長先生が、どこからかもらってきてくれたんだよ。女子用もあるでしょ?」


やたらと大きそうなズボンをどけてみると、その下から赤いスカーフのセーラー服が。

副校長先生がこれを・・・?


「スカートが今とは違うんだよ。」


スカート?

・・・長い! 引きずりそう。


「ちょっと誰か着てごらんよ。・・・ああ、和田。この短い方が似合いそうだよ。ほら。」


先生、楽しそう。

芳くんがくすくす笑いながら丈の短い学生服に袖を通すと、先生は一歩下がって腕組みをして首をかしげて、芳くんの銀縁メガネに手をかける。


「このメガネをちょっと下に・・・。」


「先生。これじゃ、見にくいですよ。」


「いいから。で、このずらしたメガネの上からこっちを見てみてよ。ポケットに手を入れて。」


「目つき悪いな。」


うん。

虎次郎くんが言うとおり、眉間にしわを寄せてるせいで目つきが悪い。


「似合う〜〜〜! あはははは! これでリーゼントとかすればバッチリ!」


先生、手を叩くほど面白い・・・?


「あ! 今年の後夜祭はこれを使いませんか?」


「この服?」


涼子ちゃんも楽しそう。


「はい! 時代ごとの制服の着こなしを紹介するみたいな感じで。」


「でも、まるっきり違反の制服をそんなふうに紹介してもいいのかなあ・・・。」


さすが数馬くん。

そういうところに冷静に気が付くなあ。


「いいよいいよ! 面白いもん! 紹介するときに、ちゃんと『やってはいけません。』って言えばいいよ。」


先生・・・。


「あたしから生徒指導の先生にも言っておくから! あんたたちがやったら、後夜祭では大ウケ間違いなしだよ! あはははは!」


一番楽しみにしてるのは、田嶋先生では・・・?


「メイクが難しかったら、あたしが手伝うからね。」


やっぱり・・・。


でも、誰がやるんだろう?

またわたし?


いえ、ここには涼子ちゃんもいる。

それに、いざとなったら男の子だってできるもんね!


「よし! じゃあ、夏休み中にほかの時代のことも調べてみるか。」


「「「はーい!」」」


あ。


このメンバーで一緒に何かをするって・・・楽しいかも。

だって、わたしも認められているんだもんね!


こんなふうに感じるのって、もしかしたら中学の合唱部以来、初めてかも知れない・・・。







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