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メガネに願いを  作者: 虹色
第三章 ちょっとずつ
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◇◇ 初めてのことばかり ◇◇


男の子から名前で呼ばれるなんて・・・。しかも、わたしも呼ぶことになるなんて。

今になっても信じられない・・・。


たしかにあんなふうに呼び合うと、親近感がわいて仲良くなれるような気がするけれど・・・やっぱり恥ずかしいよ〜。

特に日向くん・・・。


だって・・・、だって、「茉莉ちゃん」だよ!


初めて言われたときには、どうにかなっちゃうと思った!

あの場で息が止まらなかったのが不思議なくらい・・・。


一年生の男の子たちが「ジャスミン先輩」って呼ぶのが普通に思える。

富樫くん・・・は虎次郎くんだね、あと、芳くん・・・<よしき>の “き” が “くん” とつながると呼びにくいから縮めたけど、変だったかな?

この二人に「茉莉花」って呼ばれるのは思ったよりも平気だった。

二人とも、少しお兄さんっぽいところがあるから、かな? 啓ちゃんに呼ばれるのと同じような感じ。


もしかしたら、日向くんにも「茉莉花」って呼ばれたら・・・だめだ!

日向くんだと、彼女を呼んでるようにしか想像できない。

優しい笑顔で「茉莉花」なんて言われたら、それこそ心臓が止まっちゃうかも!!


・・・ってことは、「茉莉ちゃん」で正解だよね?

お友達っぽいものね。


そう考えたら、なんとなく落ち着いてきた。


日向くんは「数馬くん」。

やっぱり恥ずかしいけど・・・ちょっと嬉しい。

生徒会に入った特典だ。

でも、生徒会室以外では無理だな・・・。



あれ? メールだ。

こんな時間に?


「うそっ?!」


ひ・・・、日向くん?!

男の子からの初メールだ。

しかも、日向くんだよ?!


どうしよう?!

なんて言えばいいの?!


・・・待って。落ち着いて。


メールなんだから、ゆっくりで大丈夫。

向こうからは見えないし、声も聞こえない。


・・・手が震えてる。


『今日もお疲れさま。』


大丈夫。普通の内容だから。深呼吸して。


『予定表のこと、思い付いてくれてありがとう。』


お礼言われちゃったよ?! どうしよう?!


『あんなふうに貼ってあると目標が共有できるし、今日の作業でチームワークが生まれたと思う。これからも、いいアイデアがあったら、遠慮しないで言ってください。 数馬』


褒められちゃった〜!

それに・・・『数馬』だって! 『日向』じゃなく!


ああ・・・もう、死んでも・・・いえ、死んだらだめ。

せっかく一緒に活動できることになったところなんだから。

もしかしたら、もうちょっと仲良くなれるかも知れないのに・・・。






「文化祭の劇が決定しました。『オズの魔法使い』をもとにしたオリジナル作品で『ネズの魔法使い』で〜す!」


具体的な内容を聞く前に、クラスのみんなが拍手で盛り上がってる。

うちのクラスって、ノリがいい生徒が集まってる。

球技大会でも、みんなで団結して応援していたし。



文化祭での2年生の劇は、うちの学校の伝統ともいえる。

必ずやらなくちゃいけないわけじゃないけれど、これをやりたくてうちの学校に入ってくる生徒もいるくらい、当たり前になっているのだ。

うちのお母さんたちなんて、啓ちゃんの受験の下見に来て以来、毎年これを見るために文化祭に2日間とも来てる。ずっと講堂に詰めて、全クラス分見て。

去年は啓ちゃんも主役の恋人の役で出ていた。


中間テスト前のLHRで劇をやることに決まり、内容については演劇部の園田さんにまかされていた。

劇だったら衣装係とか、小道具とか、照明とか、いろいろな仕事があるから、わたしもどこかで必要なメンバーになれそうでほっとしている。



それにしても、『ネズの魔法使い』ね・・・。

担任の根津先生も出演するのかな? それとも、単に名前だけ?


「わたくし園田と、文芸部の菊池くんで監督・脚本を担当しま〜す。」


拍手〜。


カナちゃんがにこにこしながら振り向く。


「なんだか力が入ってるよね。こんなにどんどん決まっちゃうなんて。」


「うん。すごいよね。」


いつの間にか、園田さんの隣に菊池くんも立っている。

みんなが騒いでいる様子からすると、この二人って彼氏と彼女なんだ。

あんなふうに、みんなに冷やかされても笑っていられるなんて、余裕だなあ。


「キャストもメインだけ決めてみたんだけど。」


「「聞きたーい!」」


へえ。

ほんとうに力が入ってる。手際がいいもんね。


「まず、おもな登場人物は5人。主人公のお姫様、その愛犬、」


原作はお姫様じゃなかったと思うけど・・・、まあ、いいのか。


「ロボット、人形、兵隊の隊長。この5人が、願いをかなえてもらうために、魔法使いのもとへ旅をします。」


なるほど。

ストーリーは原作に沿ってるのね。


「そのほかは、魔法使い、村人2人、兵士3人、召使い2人、王とお妃。」


「キャストを決めてあるなら、発表してよ!」


「わかったよ。とりあえず、メインの5人だけなんだけど。」


口笛と拍手。


盛り上がってるなあ。

ここにいるだけで、わたしも楽しい気分になってくる。


「まず、ロボットに栗原。」


「え? 俺?」


栗原くんがロボット。

ふふ。

背が高いから似合ってるかもね。


「人形に小池。」


「あたし?! 人形って・・・?」


「着せ替え人形をイメージしてるんだけど。」


「じゃあ、かわいい服とか着れるわけ?」


「もしかしたら金髪のかつらになるかも。」


ああ、お洒落な着せ替え人形か。

小池さんってモデル体型だもんね。きっと似合うな。


「隊長に熊田。」


「あー、ぴったり!」


柔道部の熊田くんか。

貫禄があるから偉そうに見えるかも。


「お姫様の愛犬に江川。」


え?

カナちゃん?


「え? あたし、犬?!」


「あ、心配しなくていいよ。旅をするあいだは人間に変身したことにするから。」


「じゃあ、普通に立ってていいんだ。それならいいけど。」


「うん。江川は小さいから小型犬のイメージにピッタリだと思って。」


ああ、わかる。

小さくて元気な小犬ね。


でも、カナちゃんもみんなも、指名されても平気なんだね。さすが。


「お姫様は大野。」


え?


「きゃ〜!! やっぱり!」


わたし、呼ばれた?

“やっぱり” って、なに?


「茉莉さん! お姫様だって!」


カナちゃん?

みんなが見てる。見てる。見てる・・・・まさか?!


「む・・・無理です! そんな! 絶対に無理!」


思わず立ち上がっていた。

今まで、これほどはっきりとみんなの前で “できない” って宣言したことなんてない。


「茉莉さん、ぜひお願い! 賞を獲りたいんだもの!」


そんなこと言われても!


「だっ、だけど、わたしじゃなくても。劇の経験なんてないし、園田さんがやれば・・・。」


「大丈夫、ちゃんと指導するから。それに、茉莉さんはネームバリューがあるから。」


「ネームバリューって・・・生徒会?」


そんな・・・。

こんなことなら、啓ちゃんに言われたときに・・・。


「キャストに『大野ジャスミン』って書けばきっと注目の・・・」


そっち?!


「だ、だめだよ! そんなこと書いたら、みんなが外国人だと思っちゃうよ! 来てがっかりされたら、逆効果だよ!」


「お願い! クラス参加部門で3位までに入りたいの! お客さんがたくさん入らないと、点数も入らないんだもの。」


「でも、『ジャスミン』は絶対だめ!」


「じゃあ、主役はOKだよね?」


「そんな・・・。」


なんか、罠にはめられたみたいな気がする・・・。


「でも・・・、メガネもかけてるし・・・。」


「大丈夫! そのメガネって、茉莉さんのトレードマークだから。」


「だけど・・・。」


「まわりのキャストも、茉莉さんが演じやすそうな相手を選んであるし。」


そこまで考えられてるの?

まさか、新手のイジメなんてことは・・・まさかね。

みんなに可愛がられているカナちゃんや、人気者の栗原くんまで巻き込んでなんて、あるわけがない。



逃げられない・・・?



去年は目立たないことが悩みで、せめて普通になりたいと思って頑張った。けどダメだった。

なのに今年は生徒会に劇の主役? 普通を飛び越えちゃってるよ・・・。


「あの・・・うまくできないと・・・思うんですけど・・・。」


“じゃあ、やめよう” って、誰か言ってください!


「いいよ〜。どうせ、みんなも初心者なんだし!」


やっぱりダメ・・・?

本来なら、そういう言葉を励ましだと有難く思わなくちゃいけないんだろうけど・・・、複雑だ・・・。


ああ・・・。

みんなの期待に満ちた目が・・・。


「わかりました・・・。やります。」


大野茉莉花、せっかくの初抗議もむなしく初主演決定・・・。

ラブ・ストーリーじゃないことが、せめてもの慰めだ・・・。







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