◆◆ なかよし生徒会? ◆◆
結局、みんなで・・・か。
ものすごーーーく期待してたのに。
大野さんと二人で作業すれば、少しは俺に慣れてくれるんじゃないかって。
それに、何よりも楽しそうだし。
会長ノートの呪いの紙(って、呼んでやる!)にあんなことが書いてあったけど、よく考えたら、彼氏彼女になる手前までだったら仲良くなったっていいんだ。
・・・いいんだよな? うん。そういうことにするって決めたんだ。
それに、よく考えたら、 “役員同士” ってことは、俺だけじゃなくて、和田も富樫も同じ立場だ。
あれをみんなに言うのは、今のところは保留。
星野先輩は言わなかったんだし、わざわざ言い渡して、みんなが気にしたりしたら逆効果ってこともあり得る。
とりあえずは、俺が見張るだけでいい。
だいたい、今の大野さんの様子だと、まだ相当時間がかかりそうなんだから。
きのうの帰りに、「ちょっと相談が・・・。」って言われたときは、彼女があんまり恥ずかしそうにしてるから、告白でもしてくれるのかと思ってドキドキしちゃったよ。
そうしたら、仕事の話で・・・。
まあ、「相談」って言ったんだから、 “そこで気付けよ!” ってことなんだけど、あんな態度で言われたら仕方ないよな?
仕事の話であんなに緊張してるんだから、俺の道はまだまだ先が長い。ときどきは大丈夫そうなこともあるんだけど。
ちょうど俺たちが引退するころに、いい感じになるくらいかもしれない。
・・・ほかのヤツに先を越されなければ、だけど。
もう少し、二人で話せるチャンスがあればいいんだけどな・・・。
電車は逆方向だし、朝、駅で待ってたりしたら引かれちゃうよな、きっと。
だから期待してたのに! この “予定表作り” を!
結局、全員が机のまわりに集まってあれこれ言い合って、しかも、俺は彼女の隣を確保できていない・・・。
あーあ。
「ええと、次は3月。」
「『卒業式』です。」
「ああ、それは2月から準備をするから。」
「じゃあ、矢印で2月から・・・と。今年度の日程表に日にちは載ってる?」
「はい。3月1日です。」
・・・自分勝手だな、俺は。
ため息なんかつく必要はないじゃないか。
こんなふうに、活動の初めに全員で一つの作業をするのって、すごくいい。
きのうは遠慮がちだったメンバーが、役割を越えて協力し合って。
表情がリラックスして、会話がスムーズになってる。
内気な大野さんだってあんなにみんなと馴染んで、しかもけっこう仕切ってるし。
「6月、『生徒総会』・・・と。できたかな?」
作業机に広げた模造紙には、左側に縦に来年6月までの月、その隣に学校行事、まん中に生徒会の業務予定、右側はメモ用の余白。
「9月の九重祭までが、けっこう忙しそうですね。」
「あ、俺たちの修学旅行も入れておこうぜ。」
うん。
やっぱり、きのうよりも雰囲気がよくなってる。
それに、こうやって全員が見られる予定表があると、 “これに向かって、みんなで頑張ろう!” みたいな気分になる。
いいアイデアだったな。
あとで、大野さんにお礼を言おう。
「先輩。わたしのこと、下の名前で呼んでください。」
予定表を貼るのを見ているとき、うしろで宮崎さんの声が聞こえた。
振り向くと、大野さんと話している。
「え? ええと・・・?」
「涼子です。」
「あ、じゃあ、涼子ちゃん、でいい?」
「はい。わたしも、茉莉花先輩って呼んでもいいですか?」
「うん。どうぞ。」
いいなあ・・・。
仲がよさそうに聞こえるなあ。
俺なんか、いつまでも「大野さん」なのに。
「会長!」
ん? 佐野くん?
なんだか真面目な顔しちゃって・・・それは、いつもか。
「どうした?」
「僕は、男女平等を主張します。」
「ええと、べつに男女で差別とかしてないけど?」
役職だって、特に男女で決められてるわけじゃないし。
「女子同士だけで、下の名前で呼ぶっていうのは差別です。」
「「「えっ?!」」」
何人の声が重なったんだろう?
「呼ぶなら、全員、同じように呼んでほしいです。」
「・・・つまり、佐野くんが言うのは・・・。」
「あたしが全員を名前で呼べばいいわけ?」
宮崎さん・・・だけじゃないよね、彼が言ってるのは・・・。
「ええと・・・その、もし大野先輩が宮崎のことを名前で呼ぶなら・・・。」
やっぱり!
しかも、お前、そっちがほんとうの目的だな?!
「あ! 僕もそう思います!」
森・・・。(もう、「くん」なんて言ってやるもんか!)
さすが、見た目が似てるだけあって、考えることも同じか。
「下の名前で呼んでもいいなら、僕も呼びます。」
誰のことを言ってるんだ?!
「ははははは!」
「富樫・・・。笑ってる場合かよ?」
「いいじゃん、みんなで呼べば。」
「みんなで?!」
「俺もべつにいいと思うけど。」
和田も?
大野さんは・・・呆然としてるよ。
そうだよなあ。
「はいはい! わたしが試しに全員を呼んでみましょうか?」
「おう、やってみろ! 俺が全員の名前を書いてやる。」
富樫、楽しそうだな。
宮崎さんといいコンビだ。
俺の心配(大野さんのも)も知らずに、富樫はラベルシートを持って来て、ペンで名前を書いて行く。
それを剥がして全員に強制的に制服の胸に貼らせると、ニヤッと笑った。
「ええと、」
宮崎さんが最初に見たのは、一番端にいた俺。
「数馬先輩。」
うわ、やっぱり恥ずかしい・・・。
「芳輝先輩、虎次郎先輩、潤くん、慎也くん、茉莉花先輩。」
「いいんじゃない?」
和田・・・。
恥ずかしいのは俺だけなのか?
「あ、じゃあ、次は僕が。」
はいはい、どうぞ。
「ええと、数馬先輩、」
男に呼ばれても何ともないや。
「芳輝先輩、虎次郎先輩、潤、涼子、ええと・・・ジャスミン先輩。」
「えぇ?!」
「ば・・・!」
思わず「馬鹿野郎!」って言いそうになった。
あーあ。
大野さん、あんなに驚いた顔をして。
「あの、あの、そっちじゃなくて、マリカの方で・・・・。」
「ええ〜。星野先輩がどっちでもいいって言ってましたよ。」
「だからって、森・・・。」
「いいじゃないか、どっちも名前なんだから。」
富樫〜。
まさかお前もそう呼びたいのか・・・?
「僕もジャスミン先輩って呼びまーす♪」
「・・・わかりました。でも、学校の中だけにしてください・・・。。」
大野さん・・・負けちゃったよ。
「よし、じゃあ、今度は俺な。」
富樫。
張り切ってるな。
「数馬! 芳輝! 潤! 慎也! 涼子! 茉莉花!」
・・・普通だ。
こいつが呼ぶと、当たり前に聞こえる。
そんなに得意気な顔をするなよ・・・。
「え? 俺もやってみなくちゃダメ?」
和田は何て呼ぶつもりだ?
「あらたまってやるのは気恥ずかしいな。ええと、数馬、虎次郎、潤、慎也、涼子、・・・茉莉花。」
お前も呼び捨て?
しかも、その “間” は何なんだよ?
照れた顔なんかして・・・・。
え?
「俺? ええと、俺は全員名字で・・・。」
「それじゃあ、バランスがとれません。」
「バランスって。」
「いいじゃないか。思い切って呼んじゃえよ!」
断りきれない・・・。
「ええと、芳輝、虎次郎、潤、慎也、」
どうする?
思い切って・・・。
「涼子、ちゃん、・・・茉莉ちゃん。」
言っちゃったよ〜〜〜〜!!
「“ちゃん” 付け・・・?」
「数馬はしょうがないだろう。こいつに女子を呼び捨てにさせるのは無理だ。」
なんで富樫が仕切ってる?
しかも、もう「数馬」って馴染んでるし・・・。
「ええと、これで全員・・」
「まだです。」
え? あ・・・。
「ええと、やっぱりわたし・・・?」
「はい。」
森と佐野の期待に満ちた目・・・。
「涼子ちゃん、慎也くん、潤くん、」
あーあ。
幸せそうな顔しちゃって。
「虎次郎くん、芳輝くん? ・・・芳くん、で、いいですか?」
え? 特別?
和田が赤くなってる!
虎次郎も芳輝もかっこいい名前だよな。『虎』に『輝く』だもんな。
俺なんか『馬』だよ。
騎馬民族なら縁起のいい名前かもしれないけど・・・。
「ええと、それから・・・数馬、くん。」
大野さんから「数馬くん」って呼ばれたーーーー!!
想像してたより、何百倍も嬉しいかも!!