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メガネに願いを  作者: 虹色
第一章 決心
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◆◆ また一年が終わる。 ◆◆

今回は数馬の語りです。

今後はサブタイトルを「◆◆」ではさみます。


もうすぐ一年が終わる。

この九重高校に入学して最初の一年が。



入学したときに、今までとは違う何かが始まるんじゃないかと期待していた。・・・でも、同じだった。


勉強と生徒会。

俺のことを優秀扱いするクラスメイト。


――― そういう期待に応えている、俺。




いったい、なんなんだ?

何を期待していたんだ?


他人の期待に応えるのが嫌なら、そう言えばよかったのに。

態度で示せばよかったのに。


感情を隠すのがうまくなって、教師や生徒からは「落ち着いてる」とか「大人っぽい」とか言われてる。

でも、俺が心の中では、そういうことが嫌だって思っていることを知ったら、みんなはどう思うだろう?


・・・結局は自分が悪いんだ。

級友たちに嫌われるのが怖くて、自分で性格のいい優等生を演じているんだから。


まあ、生徒会は居心地がよかったな。

会長の星野先輩は気さくで統率力のある人だから、生徒会全体がまとまりがあって、役員同士も仲がいい。

同じ中学から来た栗原のせいで仕方なく立候補したけど、今では生徒会室が、俺の居場所だという気がする。




栗原 ――― 栗原(しょう)

俺は仲がいいつもりではないのに、何故か一緒にいることが多い。

中学ではおちゃらけた生徒で、しょっちゅう先生に注意されていた。

調子が良くて、いくら俺が迷惑な顔をしても平気で馴れ馴れしくからんできて、追い払うことができなかった。

バスケ部では体は大きくなかったけど、すばしっこさで活躍していたらしい。・・・そういえば、今では俺よりも大きいな。


栗原の相手をするのは面倒だったから、高校に入って、また同じクラスになったときにはがっかりした。

あいつは相変わらず俺と親しげにしていて・・・俺を生徒会に立候補させた。


あの日、委員会決めのHRで。




クラス委員、図書委員、九重祭委員など、委員会は10種類あって、各2人ずつ委員を選出しなくてはならなかった。

クラスの人数は30人。

何も当たらない生徒の方が少ないことがわかると楽そうな委員から順調に埋まっていき、風紀委員が残った。

生徒の持ち物や服装のチェックをやらされる風紀委員は、人気がなくて当然だった。

そのうえ、ほかの委員は男同士でも女同士でもかまわないが、風紀委員は仕事の内容上、男女一人ずつ選ぶことになっていて、あれこれ敏感な年頃の俺たちが尻込みするのも仕方なかった。


目を伏せて沈黙する生徒たちに面倒になった担任が、名簿を見ながら個人的に声をかけた最初が俺だった。


「日向、どう? やらない?」


声がかかったのは偶然だったと思う。

でも、担任の視線を追って級友たちが俺を見て、みんなが納得したのがわかった。

黒縁メガネの俺は、見るからに真面目そうだから。


みんなが期待しているのがありありと感じられて、ことわるのも面倒で、「いいですよ。」と言おうとしたとき、栗原がいきなり言ったのだ。


「日向は生徒会に立候補するから、風紀委員は俺がやるよ。」


その言葉に、クラス中の生徒が、今度は “ああ、なるほどね。” という顔をした。

俺が生徒会に立候補することは、その場で無言のうちに全員一致で了承されたのだ。



栗原はいつもそうだ。

面倒なことを俺がことわれないように押しつける。

中学でも、誰も立候補したがらない生徒会役員を、栗原の推薦でやることになってしまった。

この学校でもきっと、面倒な生徒会役員に立候補する生徒なんていないだろう。


だからって、今から俺を・・・と、思ったが、もう遅かった。

日直が黒板に栗原の名前を書いて決定。

担任が「もう一人・・・。」と名簿を見ているあいだに、あいつの犠牲者がもう一人出た。


「ねえねえ、大野さん、一緒にやろうよ。」


栗原の右隣の席にいた女子。

真っ直ぐな髪を肩のあたりで切りそろえ、俺と同じような黒縁のメガネをかけた、真面目でおとなしそうな生徒。

驚いた顔で栗原を見つめて、何か言おうとしたけど、言葉が出ないまま口を閉じた。


栗原が彼女に風紀委員の仕事を押し付けるつもりで選んだのは間違いなかった。

ちゃらんぽらんな栗原が、風紀委員の仕事なんてやるつもりがあるはずがない。

あの子が文句を言えない性格だとわかっていて、声をかけたんだ。


俺は心の中で「断れ!」と叫んだけれど、彼女に聞こえるはずもなく、結局、断ることができなかった彼女に決まってしまった。かわいそうに。


あれから何度かあった服装や持ち物のチェック期間のたびに、困った顔で生徒の間をまわっている大野さんのことが気の毒でしかたなかった。

けれど、なにを言ってあげればよかったんだ? 「同情するよ。」とでも?


彼女には、そんな言葉は似合わない。

たしかに内気で他人と話すのは苦手なようだったけれど、困っていても、自分の足でしっかりと進んで行ける強さが感じられた。

ときどき、何かを決意したような表情を浮かべることがあった。

どことなく、彼女を軽々しく扱えないオーラのようなものがあった。・・・栗原には効き目がないようだったけれど。


それと・・・俺と共通するもの。たぶん、孤独感。

みんなと違うということ。


そんなことを言ったら、大野さんは傷つくかもしれないな。感受性が強そうにも見えるから。

でも、彼女のプライドがそれを隠してしまうだろう。




・・・そんなクラスも終わる。


栗原は文系だから、俺とは同じクラスにならないはず。くされ縁もここまでだ。

あいつがいなければ・・・何か変わるかもしれない。


何が、どう変わるのかはわからないけれど。







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