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メガネに願いを  作者: 虹色
第三章 ちょっとずつ
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◇◇ わたしにできること。 ◇◇


先輩達からの引き継ぎが終わり、いよいよ新しい生徒会の活動が始まった。


2か月近くお手伝いをしてきたけれど、いざ、 “あなたの番よ” と言われてみると、全然自信がない。


とりあえずは、毎日の活動日誌。

話し合ったことの記録。


ちょっと困ったのはパソコン。


授業で使ったことはあるけれど、わたしの経験はそれだけ。

家でもさわらないし・・・。


幸いなことにもう一人の書記、一年生の佐野潤くんが得意だと言うので、しばらくのあいだはお願いすることにしてしまった。

でも、わたしもできるようになりたい。一人前の仕事ができるように。




引き継ぎ後、中間テストでしばらく活動が休止になったあと、生徒会室に新しいメンバーだけの時間が訪れた。

部屋にいる人数が減って、引き継ぎという “やらなくちゃいけないこと” が終わった今、何をしたらいいのかよくわからなくて、なんとなくおろおろしてしまう。

日々の決まったことはすぐに終わってしまい、まだ初対面に近い一年生とはうまく話せない。


日向くんは一年生副会長の宮崎涼子さんに何か説明している。

富樫くんは会計の仕事のコツを和田くんと新メンバーの森慎也くんに話している。

一年生書記の佐野潤くんは、パソコンで今までの資料を確認中。



・・・わたしだけ。



ああ・・・、どうしてこんなに気が利かないんだろう?

どうしてこんなに要領が悪いんだろう?

この部屋にいるのが申し訳ない・・・。



・・・何かない?



そっと荷物置き場に入ってみる。

並んでいるキャビネットは、上の段はガラス戸、下の段はスチールの戸。

端から順番にガラス戸の中をのぞいて行くと、目に留まったのは歴代の『生徒総会議事録』。


議事録・・・。


これを作るのも書記の仕事だ。

この前の生徒総会の分は、引き継ぎのときに木下さんに教えてもらいながらパソコンで作った。・・・時間がかかってしまったけれど。


古い議事録は・・・昭和30年代のもの?

ちょっと見てみようかな?

あんまり古いのは紙が破れそうだから・・・昭和55年度でいいか。


『1、生徒会予算、決算について』

『2、バドミントン同好会の部への昇格について』

『3、校則の変更(女子の髪型)について』


・・・へえ。


校則の変更も、みんなで決めるんだね。

“女子の髪型” って、いったいどういう・・・?


『校則第11条 女子の髪型に関する規定から、「ポニーテールの禁止」を削除する。』?!


ポニーテールの禁止? ・・・を削除?


つまり、このときまでポニーテールは禁止だったの?

禁止する意味がわからないけど・・・。


「あの、大野先輩。」


「あ、はい。」


佐野くんだ。


「ごめんね、ほったらかしちゃって。」


「いいえ、いいんです。あの、会長さんが、去年の浜崎中央地区生徒会会議の資料を見たいそうなんですけど・・・。」


ええと、引き継ぎで聞いたよね?

たしか、このあたりのキャビネットに・・・あった!


「これだね。」


「あ、ほんとだ。大野先輩、よく覚えてますね。僕、物を探すのが苦手で、自分で置いた場所を忘れて、いつも色んなものを探してるんです。見つからないことも多いし。」


「あれ、そうなの? しっかりしてるように見えるのにね。」


「大野さん、あった?」


あ、日向くん。


「はい、どうぞ。」


「ありがとう。向こう側のキャビネットばっかり探してたよ。こっちには古いのしかないと思ってたから。」


「たしかにこっち側は、普段使わないものばっかりだもんね。いつから置いてあるのか分からないものもたくさんあるよ。」


「そうなんだよね。資料、ありがとう。」


「うん。戻すときは言ってね。」


よかった。

普通に話せた。



・・・・地区生徒会会議か。


近隣の高校の生徒会が集まって、何かを話し合うって聞いたな。

去年はうちの学校が当番校だったから大変だったって。

今年は参加するだけだからよかった。


でも、事前に準備することとかないのかな? ちゃんと間に合うようにできるのかな?



・・・そうだ。

わたしができること、見つけた。


ここにあるものの場所を覚えよう。

佐野くんは苦手だって言ってた。

それに、どんな資料があるのか知っておいたら役に立つはず。


それから一年間の仕事の予定表。

忙しいときにはスケジュールの管理が必要だもんね。


うん。

こういうことならわたしにもできそう。


よかった。





「ひ・・・日向くん。」


やっと呼べた!

帰り道で訊いてみようと思って、ずっとタイミングを探してた。

もう、駅はすぐそこ、というところに来て、やっと。


「あの、ちょっと相談が。」


ああ・・・どうしよう? ドキドキする。

もし、余計なことだって言われたら・・・。


「なに?」


ほかのひとたちと、ちょっと距離をとってくれた?

気を遣ってくれたんだ。

やっぱり日向くんて、よく気が付くひとだなあ・・・。


なんて、ほっこりしてる場合じゃない。


「ええと、あの、わたしたちの活動の予定のことなんだけど・・・。」


「ああ、うん。」


がんばれ!


「もし、邪魔にならなければ、一年間の予定表を大きい紙に書いて貼りたいんだけど・・・。」


「予定表・・・。」


反応が薄い・・・。

どうしよう?

もしかしたら、「それくらい頭の中に入れておけよ!」なんて思われてる?

怒りたいのを我慢してるのかな?


「あの、わたし、あの、まだ慣れなくて、・・・ごめんなさい、余計なことだった?」


「え? あ、いや、そんなことないよ。」


そう?

ホントに?


「みんながやることを確認できるし、いいと思うよ。」


わ。

そんなににっこりされたら・・・恥ずかしい! でも、嬉しい・・・。


「あの、じ、じゃあ、明日にでもやるね。去年の日誌を見ながらやれば、いいよね?」


ああ・・・緊張してうまくしゃべれない。


気付かれないように、しっかりと深呼吸。


「そうだね。俺も手伝うよ。」


そんな!

日向くんと・・・二人で?

・・・ダメかも。


「・・・ありがとう。」


明日が・・・楽しみ? いいえ、怖い!!







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