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メガネに願いを  作者: 虹色
第二章 前進
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◇◇ なんとかなりそう・・・かな。 ◇◇


日向くんと話せた!


月曜日から始まった生徒会のお手伝い。

仕事以外では絶対に日向くんと話すことなんてできないと思っていた。

でも、啓ちゃんの命令を守って火曜日から毎日、日向くんが生徒会室まで付き添ってくれたおかげで、最後の今日になってようやく会話ができるようになった。

“会話” って言っても、カナちゃんと話すように自由にではないけれど。


でも、嬉しい!

メガネのおまじないが、一年経って、ようやく効いてきたのかな?





「大野さん。これ裏のキャビネットに片付けてくれる?」


「あ、はい。」


憧れの塩田先輩。

綺麗で、キビキビして、話すと楽しい。

一緒に仕事ができるだけで、とても勉強になる。

わたしがこんなふうになるのは無理だけれど、この先輩に信頼されるようになれたらいいなと思う。

もうすぐ引退してしまうのが残念だな・・・。


あれ?

どこだろう?


ノートより一回り大きい箱の側面には『選管雑貨』。

ってことは、選挙関係のものと同じ場所だよね?


ええと・・・。


「あれ? 探しもの?」


日向くん!


・・・さっきは話せたけれど、顔を合わせ直すと、やっぱり恥ずかしいな。


「あの、この箱をしまう場所が・・・。」


「ああ、それか。こっちの方にたしか・・・あ、ここだ。」


日向くんが開けたキャビネット下段のスチールの戸の中には、同じような箱が積み重なっている。

『アンケート用鉛筆』、『卒業式用』、『腕章』、『委員長会議用』、その他もろもろの一番下の古そうな箱には『ネガ』・・・?


「どうもありがとう。」


「文房具類とは分けて、仕事別にしようって話も何度か出るんだけど、ついそのままになっちゃって。」


忙しいから荷物の入れ直しなんかやってるヒマがないのね。


「大野さん、ちょっといい?」


あ、塩田先輩。


「はい。」


日向くんにもう一度お礼を言って、塩田先輩のところへ。


「この資料、日付順につづっておいてくれる?」


「わかりました。」


ええと、作業机・・・。


渡されたA4用紙の資料には、3か月分くらいの日付が。

忙しくてファイリングする時間がなかった?


日付順に並べて、穴を開けてファイルに綴じる。

単純作業をしながら、ふと思う。


生徒会って、そんなに忙しいんだ・・・。


使いにくいから荷物の置き場所を変えようと思っていてもできない。

資料をファイリングする暇もない。

みんな、あんなに忙しそうに動き回っているのに。


わたしにできる?

とりあえず、健康状態だけは自信があるけれど・・・。


「大野さん、それが終わってからでいいんだけど。」


「あ、はい。」


今度は木下さん。

書記のお仕事だから、ちゃんと覚えておかないと。


「これ、来週の委員長会議で配る資料なの。3枚ひと組でホチキス留めしてくれる?」


「はい。」


やってみると、単純作業って楽しいな。

終わると達成感があるし。


「手伝おうか?」


「わっ!」


すぐそばで声が!

誰?!


「和田くん・・・。」


「びっくりさせちゃった? ごめん。」


「いいえ。わたしがぼんやりしていたから・・・。」


木下さんに頼まれたホチキス留めは、和田くんの手際良さであっという間に終わる。

こういう人と一緒に仕事をしていくんだ、と思ったら、身の引き締まる思いがした。






『慣れてきたみたいでよかったよ。』


夜、啓ちゃんから電話がきた。


「まあ、今はみんなに言われたことをやっていればいいだけだから。」


『うん、仕事はね。俺が言ってるのは人の方。』


「人?」


『そうだよ。ジャスは人見知りなところがあるだろう? ちょっとだけ心配してたんだよ。』


「自分でやれって言ったくせに・・・。」


『そうだけど、一応、あんまり辛そうだったらやめさせてもいいと思ってたよ。』


ほんとうに?

今ならいくらでも言えるよね。


『でも、大丈夫そうだね。一番苦手そうだった日向とも、それなりに話せるようになっただろう?』


「え?」


日向くん?


『最初にあいさつに連れて行ったとき、日向とは特に話しにくそうにしてたよ。だからあいつに迎えに行かせてたんだけど。』


そんな目的が?!

わたしを逃がさないためだけじゃなかったんだ・・・。


どれだけ観察眼が鋭いのか。

まさか、日向くんへの気持ちも知られているのでは・・・?


『ジャスが断ろうとするのは予想がついたから、それも日向には言っておいたんだよ。大当たりだったみたいだね?』


あの日、やっぱり聞こえてたんだ・・・。

笑ってるし。


「信じられない! そこまでしなくても、いつかはちゃんと・・・。」


『いいじゃないか、早く話せるようになったんだから。今の役員で残るのは日向と富樫だけなんだから、仲良くなっておかないとあとで困るよ。』


「それはそうかも知れないけど・・・。」


一般の生徒は、ちゃんと役員になったあとで仲良くなれるものなのでは・・・?


『俺だって心配してるんだぞ、ジャスがちゃんとやって行けるかどうか。』


「うん・・・、ありがとう。」


啓ちゃんがいつもわたしのことを心配してくれているのはわかってる。

たまに心配し過ぎて、 “見守る” 以上のことをしてくれるのは、少しだけ困ってしまうけれど。


『今週は慣れないことで疲れてるだろうから、週末はゆっくり休むんだよ。来週から、また頑張れるように。』


「うん。わかった。」


『それからね、ジャス。』


「なに?」


『富樫も日向も頼りになるいいヤツだから、彼氏にするならああいう・・・』


「啓ちゃん!」


『もう誰かいるの? だったら、まずは俺のところに連れて・・』


「いません! 大丈夫だよ、そんなことまで心配しなくても。」


『ダメだよ。変なヤツには、うちの大事なジャスミンを預けられないからね。』


「はいはい、分かりました。候補者ができたら、啓ちゃんに審査してもらいます。」


『絶対だよ。』


「はい。」


『じゃあ、おやすみ、ジャス。愛してるよ♪』


「はい。おやすみなさい。」




彼氏?

わたしに?

そりゃあ、もちろん憧れるけれど・・・。


無理だろうな。

だいたい、存在に気付いてもらえないんだから。



でも・・・日向くんは啓ちゃんのお薦めなんだよね?

じゃあ、万が一のことがあったとしても・・・・日向くんが彼氏に?


やっぱり無理だ! 絶対!


日向くんとわたしじゃ差が大き過ぎるし、話をするだけで精一杯なんだもの。

彼氏なんて・・・手をつないだり? いやーん、そんな!


絶対に無理! あり得ない!

考えただけでも恥ずかしいよ!







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