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メガネに願いを  作者: 虹色
おまけのおはなし
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啓一、さぐる。


「こんばんは。」


夜、赤坂さんに電話をかけてみる。


『よお、元気か? 勉強進んでる?』


低くて深みのある声。

気さくな話し方。


「はい、お陰さまで。」


簡単な時候のあいさつのあと、さり気なく用件を切り出してみる。


「うちのいとこは、ちゃんとお役に立てていますか?」


『ああ、茉莉花ちゃん?』


あ。

そう呼ばれてるのか・・・。


『頑張ってくれてるよ。飲み込みが早いし、汚れるような仕事でも、嫌がらないで引き受けてくれるしね。』


「そうですか。よかった。」


さすがジャスミンだ。

・・・って、嬉しいけど、不安だ。


『素直で明るいから、茉莉花ちゃんがいると場が和やかになるって、事務所のみんなにも評判がいいよ。』


「そうですか・・・。紹介した甲斐がありました。」


あくまでも仕事の上では。


『性格がいい上に美人だし、俺も、あんな子が九重の後輩だと思うとよけいに可愛がっちゃうよ。あはははは。』


微妙な表現・・・。


「赤坂さん、そんなこと言ってたら、彼女に怒られますよ。」


赤坂さん、彼女いますよね? いてください!


『彼女? 嫌なこと思い出させるなよ。』


「え?」


『ああ、星野は知らなかったっけ? そうか、この前の飲み会に来なかったから・・・。』


「・・・何かあったんですか?」


『思い出すのも嫌だけど・・・二股かけられてたんだよ。』


「え?! 赤坂さんが?!」


『そう。で、一か月くらい前に別れた。』


別れたばっかり・・・。プライドを傷つけられて・・・。


『ひどい女だよな? だから、茉莉花ちゃんみたいな子を見てると、ますますほっとするよ〜。』


「そう、ですか。お役に立ててよかったです・・・。」


役立ち具合が不安だ〜。


『そうそう、この前の企画ではさあ・・・、』


ジャス・・・。

素直で明るくて美人。

自慢のいとこ。


・・・ではあるけれど、この状況は・・・。



ジャスに告白されたら、断る男なんているわけがない。


日向。

俺、ほんとうに申し訳ないことをしたのかも知れない・・・。







あそこだ。


赤坂さんに悟られないように聞き出しておいたイベント会場に足を運んだ。

実際にどんな様子なのか、確かめるため。

大勢の客にまぎれてしまえば、ジャスたちが俺に気付くことはないだろう。


会場の中で、二人一緒のところが見られるかどうかはわからない。

けれど、来ないではいられなかった。

このままでは勉強が手に付かない。



あの事務所では、イベントに出展する企業のブースの運営をサポートしている。

つまり、赤坂さんたちはあくまでも裏方で、あれこれの用事をしながら会場と裏を行ったり来たりしている。

普通なら、そんな赤坂さんたちを見付けるのは簡単ではない。

でもこのイベントでは、大きな休憩所があるところがほかと違う。

去年もおととしもそうだったけど、来場者とスタッフ兼用のその大きな休憩所で、赤坂さんたちも一休みするのだ。

そこにいれば、ジャスと赤坂さんが話している様子を見られるかも知れない。



うっかり見つからないように気を付けながら会場を一回りすると、去年とほとんど変わっていないことがわかった。

何度か知っている顔を見かけたけれど、みんな忙しそうに通路を歩いて行った。

昼前に軽食を買って、休憩所の端の席を確保。スタッフルームの出入り口から見えない角度で座る。



・・・まるで、へたくそな素行調査だ。



そんなことを思い付くと、なんとなく気分が沈む。

ジャスを疑っているみたいで。


正しく言えば、疑っているのとは違う。ジャスは正直に言ったんだから。

じゃあ、疑っている相手は赤坂さんか?


それも嫌だ。

赤坂さんもいい人だ。

世話になっているし、赤坂さんのことは好きだ。

日向のことがなければ、「ジャスのことをよろしくお願いします」って言ってる。


日向のことがなければ・・・。


何を考えているんだ!

日向だっていいヤツじゃないか。

あいつは融通が利かないところもあるけど、真面目だし、何よりもジャスのことを大切に思っている。


だけどジャスは・・・。



あ〜〜〜〜!


どうしたらいいんだ?!

誰も傷つかないで終わる方法はないのか?!



あ。



来た。

赤坂さんとジャス。・・・二人で?

どうしてほかの誰かと一緒じゃないんだよ?



ああ。

ジャスが言ってたことの意味が分かった。肩に触りたくなるって。

後ろから見ると、大きな背中が頼もしく見える。

それに、ワイシャツ姿でもわかる広い肩と胸の厚み。逞しさ。


男らしさ?

ちょっと色っぽいっていうか。

しかも、あの顔だし。



ジャスの嬉しそうな顔。

赤坂さんを見るときの恥ずかしそうな目つき。

そんな顔をされたら、男は誰だってイチコロだよ。

しかも、赤坂さんは、二股をかけられて傷ついたばかりで・・・。



あ。

頭をなでた。



赤坂さん!

そんなことされたら困ります!

ジャスは俺以外の男には触られることには慣れていない・・・日向は?


うーん・・・、日向って奥手そうだから・・・あ、今度は腕に? 赤坂さん!



もしかして、これが原因か?

そうだとしても、どうしたらいいんだ?


日向が留守の間に、俺が紹介したバイトでジャスが・・・。


ああ・・・、日向、ごめん!







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