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メガネに願いを  作者: 虹色
おまけのおはなし
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啓一、あせる。


カフェのテーブルで、悲しそうにアイスコーヒーを見つめるジャス。

それを呆然と見つめている俺。



ジャスが日向から心を移した。

日向の留守中に。

なんていうか・・・あっという間に。



そうだ。


よく考えてみると、ジャスと日向はずっと一緒だった。

高校では毎日一緒で、大学に入ってからも、毎日のように会っていた。

それが、この2週間、電話かメールだけだ。

いや、ヨーロッパは時差が大きいから、ほとんどメールだけなのかもしれない。

ジャスが淋しくなって、誰かを好きになっても仕方のないことなのかも・・・。


「ジャス?」


「・・・はい。」


「相談って、そのこと?」


「うん・・・。」


そうだよな。

普通の相談なら、俺じゃなくて日向にしているだろうから。


「あの・・・、ジャスは・・・、日向のこと、もう好きじゃないの?」


さっと顔を上げたジャスの目が苦しそうだ。


「そんなことない。」


はっきりと言い切った。

ちょっと、ほっとする。


「数馬くんからメールが来ると嬉しい。早く帰って来てほしいって思う。」


「じゃあ、何も」


「だけど、ほかに好きなひとが・・・」


ああ・・・。


「もしかしたら、そのひとの方が数馬くんよりも・・・好きかも知れなくて・・・。」


日向、ピンチ!


・・・なんて言ってる場合じゃない。

あいつのことは俺も気に入ってるんだから。


「あの・・・、相手を訊いてもいい?」


「え? あの・・・。」


言いにくい?

もしかして、俺も知ってる相手だったりして。この大学の・・・。


「あの・・・、赤坂、さん。」


「赤坂さん?!」


俺が紹介したバイトだ!



去年まで、俺が夏休みに引き受けていたイベント関連の事務所のアルバイト。

今年はできないから、日向がいなくて暇になるジャスを紹介した。

赤坂さんはこの学校のOBで俺の4つ上。九重高校の先輩でもある。

高校も大学も重なってはいないけど、俺が入っているサーフィン同好会が縁で知り合った。その縁でアルバイトの声もかかった。



赤坂さん・・・。


日焼けした顔に、少し長めの髪と無精ひげの似合うスポーツマン。

イベントの準備では深みのある大きな声でテキパキと指示を出し、自分も率先して作業に加わる。

無造作でありながら、細かい気配りもできる。

ジャスを連れて行ったときも、さわやかな笑顔で、いかにも頼りになりそうな雰囲気だった。


その赤坂さんを、ジャスが?



なんか・・・まずいことになってないか?

もしかして、バイトを紹介した俺にも責任が?

日向に「心配するな!」って言ったのに・・・。


「あ、あの、ジャス?」


呼び掛けると、上目づかいに俺を見た。


「ほんとうに赤坂さんのことが好きなの?」


無言でうなずく。


「あの・・・、もう何か・・・あった?」


こんなこと、いくらジャスが相手でも訊きづらい!


「う、ううん! ないよ。何も。」


よかった〜!


「だけど・・・、ね。」


だけど・・・?


「あのね・・・、その、」


なんだ?

言いにくそうだし、真っ赤になって・・・。


「触ってみたい気が・・・。」


“触って” って?!


ジャスが?

男に?

自分から?


「ど、どこに?」


「え? あの・・・、肩、とか。」


「肩・・・?」


なんだ、肩か。

それくらい・・・いくらでも、とは言えないな。


「あの、なんか、その・・・後ろ姿が・・・。」


後ろ姿・・・。


赤坂さんはスポーツをやっているから、たしかに体格がいい。

肩幅も広いし、ワイシャツの袖をめくっていると腕も筋肉質だ。もちろん力持ちだし。

体を動かして働いている姿がカッコいいことは間違いない。

細身で優しい雰囲気の日向とは全然違う。



違うから、こんなことになるとは思わなかった。

まさか、ジャスが赤坂さんに魅かれるなんて。


どうしたらいいんだろう?

俺が紹介したバイトでジャスが心変わりをしたなんてことになったら、日向に顔向けできない。



・・・心変わり?



まだ、そこまでは行ってないかも知れない。

ジャスは、日向のメールを見ると会いたくなるって言ってる。

日向のことを嫌いになったわけじゃない。


「ジャス。あの・・・勘違い、ってことは・・・?」


「勘違い?」


「赤坂さんを好きだってことが・・・。」


「・・・違うと思う。」


「ホントに?」


困りきった顔。


「初め、自分で気付いたとき、びっくりして・・・、」


ああ、もちろんそうだよな。


「何度も “違う” って思い込もうとしたの。」


「うん。」


「だけど、赤坂さんが目に入るとどうにもならなくて、話しかけてもらうと嬉しくて・・・。」


あらららら・・・。

本気かも。

まずい。


「数馬くんのことを好きなのに、こんな気持ちになるなんて・・・。こんなふうに数馬くんのことを裏切るなんて・・・。」


「う、裏切るって、ジャス・・・。」


ジャスが男を裏切る?

そんなことが本当に起きるのか?


「啓ちゃん。わたし・・・、数馬くんにごめんなさいって伝えなくちゃ。」


あ・・・。

そこまで思いつめて?

それほど?


「すぐに言うべきだと思う? こういうことを電話とかメールで言っても・・・」


すぐに?!


「ちょっと待って、ジャス! 落ち着いて。」


そうだよ。

俺も落ち着かないと。


「ええと・・・。」


どうする?

とにかく、もう少し時間を。


「急に答えは出せないよ。少し考えさせてくれないかな?」


ジャスがコクンとうなずく。

悲しげな表情で。



こんな顔をさせた原因が俺にあるなんて。

今まであれほど大切にしてきたジャスミンに・・・。







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