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メガネに願いを  作者: 虹色
第一章 決心
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◇◇ 後悔 ◇◇

初回は茉莉花です。

以後、サブタイトルの前後を「◇◇」ではさんだ回が茉莉花になります。


ショック・・・だった。


自分が目立たない存在であることは分かっていたけれど。



この九重(ここのえ)高校に入学して一年、クラスに溶け込もうと努力してきたつもり。

人見知りだけど精一杯頑張った。

その甲斐あって、ちゃんとお友達もできた。

クラスから浮いてしまうこともなかった。


だけど。


一年が過ぎて、クラスの解散を前におこなわれた打ち上げ。

焼き肉屋さんでの食事会の様子を写した写真に・・・わたしが写っていたのは、終わったあとにお店の外で撮った集合写真だけだった。

その事実に、一番なかよしの美雪でさえ気付かない。


小学校のころからそうだった。

遠足や修学旅行のスナップ写真を友人たちは何枚も注文するのに、わたしはいつも1枚か2枚。

貼り出された注文用の写真を見ながらみんなが騒いでいる中で、一緒ににこにこと見ているだけ。

卒業アルバムの写真も同じ。


みんな自分のことに夢中で、わたしが写っていないことに気付かないことだけは有難い。

だって・・・そんなことで同情されたらいたたまれない。

こうやって仲間同士でデジカメの画面をのぞきこんで、それを指摘できずに、外側は笑いながら傷ついている自分・・・。




わたしはこの一年、いったい何をやってきたんだろう?

みんなの記憶にも、心にも残らない。

何となく気後れしているうちに、部活にも入りそびれて。


ああ・・・ひとつだけ、あるかな?

このメガネ。

黒縁の大きめのメガネ。


「どうしてそんなメガネにしたの?」


と、何人もに尋ねられた。

印象の薄いわたしに似合わない、存在感のあるメガネ。


これは・・・なにか共通のものが欲しくて選んだもの。

入試のときに一目惚れした彼と。


日向(ひなた)数馬(かずま)くん ――― 一年前の入試のときに一目惚れしたひと。





一目惚れなんて、あり得ないと思っていた。

その人がどんなひとが分からないまま、外見だけで恋をするなんて。


だけど・・・それは、いきなりのことだった。

試験を受ける教室で開始時間を待っているとき、前の扉から入ってきた黒縁メガネの彼を見て、突然、思った。


『この人なら分かってくれる。』


華奢な体つきで、背の高さも髪型も普通、静かな表情。特徴があるわけではない。賢そうではあるけれど。


学校も名前もわからないまま入試は終了し・・・、彼のことが忘れられなくなっている自分に驚いた。

気が付くと、そのひとに心の中で打ち明け話をしている。

人見知りの自分が? 男の子に?


ありえない!


でも・・・『分かってくれる。』という確信は、なぜか揺るがずに。

そのひとが、間違いなくこの学校に入学するのかどうかもわからないのに。


高校に入学したら、メガネをやめてコンタクトレンズにするつもりだったけれど、彼と似たようなメガネに変えた。

少し大きめの黒縁メガネ。

これをかけたわたしは見るからに真面目ちゃんだった。

女子の制服は、白いスカーフと襟に2本のラインが入った古めかしい紺のセーラー服だから、このメガネをかけると、昔の女学生みたいだった。

けれど、そのひととお揃いっぽく見えそうだし、似たようなメガネをかけていることがきっかけになって、話ができるかも知れないと期待して。


入学式の日に教室で彼を見つけたときには、どんなに嬉しかったことか!


名前がわかった。

席が近くになったこともあった。

イベントもいろいろあった。


想像していたとおり、気さくで、親切で、聡明なひとだった。

昔ながらの黒い詰襟の学生服は、姿勢の良い日向くんには、特別に似合う気がした。

浅黒い肌に軽く額にかかる髪、目はいつもまっすぐに前を見ていた。

優秀なのに、それを鼻にかけるようなこともなく、冗談も言うし、男子同士の荒っぽいおふざけにも当たり前に仲間に入っていた。

いつも穏やかで、むやみに慌てたり、声を荒げたりしたところは見たことがない。

人望が厚くて、誰とでも親しく話して笑っていた。


・・・なのに、わたしはほとんど話はできなかった。

わたしの人見知りのせいで。


何かのはずみで「ありがとう。」くらいは言ったことはある。

でも、それだけ。

クラスメイトにメガネが似ていることを指摘されることもなかった。もちろん、本人も何も言ってくれなかった。

みんなわたしに興味がないから。どうでもいい存在だから。


目立たないことにはもう慣れっこになっていたけれど、このクラスでは、せめて普通になりたかった。

日向くんがいたから。


もしかしたら、わたしが考えているようなひとではないかも知れない・・・と、思い込もうとしても、できなかった。

“日向くんなら、分かってくれる。”

ただ、それだけが心に浮かんできて・・・いろんなことを話したかった。



もうすぐクラス替え。

2年生からは、理系の日向くんと文系のわたしが同じクラスになることはない。


だから、よけい悲しい。





ふふ。

なんだか、笑える。


いるのかいないのか分からないようなわたしに、好きな人がいるなんて。

わたしなんかに好かれても、自慢にもならない。

まして、このあたりで学力トップの伝統ある九重高校(わたしたちは87期生。昔は男子校だったそうだ。)の中でも優秀と言われ、生徒会の副会長をつとめる日向くんが相手では・・・わたしなんか、机や椅子みたいなものだ。


あーあ。

バカみたい。

入学式の日に、あんなに舞い上がったりして。


日向くんとお話ししているところをどれほど想像したことか。

学校から駅までの道を一緒に歩いているところとか・・・あり得ないでしょ?!



思いきって話しかけてみればよかった?



それは・・・何度も思ったけど、できなかったよ。







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