第九話
彼はあの便せんを読んでくれただろうか。
彼は来てくれるだろうか。
少し心配になる。だが彼はきっと来てくれる。いや、彼が来ないと何も始まらない。このままでは手遅れになってしまう。今も普通に変動しているこの世界が、もうすぐ未曾有の危機に晒されようとしていることを知らずに、人々は普通の生活を送っている。そんな運命を変えることができるのは私と彼だけなのだ。
「先輩・・・」
彼女は楽器の片付けをしながら、これからについて考えていた。
「先輩!少しいいですか?ここのパートの吹き方がわからないんですけど」
彼女の後輩が話しかけてきた。
「あら、ごめんなさい。少し考え事をしていたものだから」
彼女は後輩に丁寧に音楽について教える。彼女はこのパートのリーダーなのだ。
「なるほど、こういうニュアンスで吹くんですね。わかりました、ありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」
後輩が彼女から離れていく。再び彼女は思考に戻った。
「お前と私は地球人じゃないんだ」
そう姉に言われたのは一昨日のことだった。
初めはそんな馬鹿らしいことを信じる気にも、真面目に受け止める気も無かった。直後、受け入れなければならない確固たる証拠を突き付けられた。
姉は唐突に服を脱ぎ始めた。
下着姿の姉は妙に色っぽかった。くすみの無い白い背中、引き締まった腰に、普通の人間には見慣れているが、見慣れないものがあった。
黒い穴だ。
黒い穴が姉の腰にあいていた。スピーカーや、アンプに付いているような穴が確かにあいていた。
「お前にも付いている、見せてやるから脱げ」
そう言われると私は服を脱がされ、鏡で確認させられた。確かにあいていた。私の背中に、白い肌の中心に黒い穴があいていた。これだけでも信じられないのに、さらに驚くべきことを告げられた。