第六話
フルート担当にして我が部の部長である京香が号令をかける。
「起立」
ああ、どうしよう。
「気をつけ」
行けなくなってしまった。それとも連れていかれる前に逃げるか?
「礼、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
部員全員の声が響く。
「よーし、音無君。さあ、行こうか」
そう言うと舞は響助の首根っ子を掴むと、半ば引き摺るような形で、職員室に連行した。
やっぱり、駄目だったよ。
休日で人一人いない職員室に舞と響助が入ってきた。
「音無、今日はどうしたんだ。顔がピンク色だぞ?」
「ピ、ピンク色ですか!」
ピンク色という言葉に過剰に反応してしまう。
「いや、私の勘違いだったようだ。青ざめていて、慌てふためいているな。どうやら、長丁場になりそうだ。コーヒーでもどうだ?」
「いえ、結構です。急いでいるんで」
「そうか。最近はまっていてな、味を見てもらいたかったのだが残念だ。でもまあ、そう急ぐなよ。早い男はもてないぞ?」
目の前の女教師は、のんびりコーヒーをいれている。
俺にはそんな余裕は無いのに。
「うーん、いい香りだ。流石、私のいれたコーヒー」
舞はのんきにコーヒーをすすっている。
「そうだ、知ってるか音無。最近、コーヒーの値段が上がっているそうだ。どうしてだか、わかるか?」
「はい。ニュースで見ましたが、他の国でも飲まれるようになったとか、環境のせいで−」
「違う。違うな、音無」
「えっ、違うんですか」
「あぁ、違う。確かにそういう考え方もあるが、違う。お前にはわからんかな?」
「ええ、わかりませんよ」
しかし、響助には彼女が次に何と言うか予想がついた。