第五話
それと妹がいるということだ。
日比木京香−、それが妹の名前だ。容姿は姉と同じくこれまた美人で、我が部のマドンナとして、もてはやされている。京香は舞とは対照的に線の細い、華奢な美少女だ。艶やかな黒い髪はきれいに整えられ、眼は見た物を浄化してしまいそうなくらい澄み、透き通るような白い肌をしている。そして、誰に対しても柔らかい物腰で接する。まさに、大和撫子という言葉がピッタリな人物であった。
そんな彼女は、自分の席の後ろでフルートを担当している。しかも上手く、いくつもの賞を授与されている。彼女にピッタリの楽器だと思う。彼女がフルートを吹いている姿は美しい絵になる。
本当に舞と京香が姉妹なのかを疑いたくなるくらい違っているのだ。姉妹だってそんなものだと言われれば、それまでなのだが。
自分も実は京香に憧れの念を抱いていた。
恋愛感情とは違う。どちらかと言えば、アイドルのファンになるのに近い。しかし、もしかしたらあの便せんは京香からのものではないかと、淡い期待も抱いている。
反面、あの大和撫子が俺のような奴に見向きもするはずが無いとも思う。
複雑なところだ。
ああ、部活が終わってほしくない。が、長い話を聞いているのも苦痛だ。
「音なし−」
それじゃあ、行かなければいいと思う。ただの悪戯だと片付けるのも一つの手だ。
「音無−」
しかし、それだと便せんの主を傷つけてしまうかもしれない。
「音無響助!」
「はっ、はい!」
ぐるぐると複雑に渦巻いていた頭の中に一つの怒号が轟いた。
「お前、今日は本当におかしいぞ。後で職員室に来い」
「でも、今日は用事が・・・」
「用事も爪楊枝も一緒だ!とにかく来い、というか連れていく。今日はもう終わりだ。京香、号令を」
確かに他人にとっては用事も爪楊枝も一緒かもしれないが、俺にとっては大切なことだ。