第三十七話
「まさかこの音叉の音、心動音に関係が?」
「やはり、なかなか頭は回るようだな。安心、安心。その通りだ。この音叉は心動音の高低を操作し、様々な効果を発するものだ。この調子で行けば、耳鳴りの正体もわかるな?」
響助は少し考えた後、答えた。
「そうか、あの耳鳴りも心動音なんですね」
「その通りだ。アコースト人である京香とキスしたことで、お前は本来ならば聞こえないはずの音が聞こえるようになったんだ。そして、今はなれて音の調整ができるはずだ」
「確かに耳鳴りが、って!あのキスにはそんな理由があったんですか」
「そりゃそうよ。何の理由も無しに、いきなりキスなんてするわけないでしょ」
「そこまではっきり言わなくても」
「こういうことは、はっきりとしておくべきよ」
京香にはっきりと言われショックを受ける響助。しかし、それを傍目に説明を続ける舞。
「この音叉はバイレートという鉱石でできていてな。おい、聞いてるか!」
「は、はい!聞いてます」
響助は慌てて元の世界に戻る。
「このバイレートはな、さっきも言ったように心動音の高低を操作する力がある」
「どうしてなんですか?」
「それはな」
舞はにこりと笑って答える。
「それは?」
「解説するのに一日、いや一週間位かかるが聞きたいか?」
「最初から説明する気が無かった。いや、できなかったんですね」
「そ、それは違うぞ」
「明らかに目が泳いでるじゃないですか!」
「できる!説明できると言ったら、できるのだ!」
舞の表情はにこりと笑ったまま固まっている。
「じゃあ、してくださいよ」
「だから、時間がかかると言っているだろう!」
このままでは埒が明かないと思ったのか、京香がすかさず言葉をさす。
「本当に二人とも馬鹿ね。いつまでこんな茶番を繰り広げる気?」
「先生が折れるまで!」
「そ、それもそうだな。まだ、説明することはたくさんあるんだ。さあ、次に行こう」
「あっ、逃げた」
舞は顔を背け、わざとらしく口笛を吹き始めた。