第三十六話
「そうは言われましても。あっ、そうだ。まだ話は途中なんですよね。さあ、続きを話してくださいよ」
「ちょっと、露骨に話をそらすんじゃないわよ、響助!」
京香はそう言うと不満そうな顔をした。
「わかった、続きを話そう。まずはこの穴とお前の耳鳴りについて話そう」
舞はそう言いながら、指で背中にある穴を指さした。
「まず始めに用意するものがある。それがこれだ」
舞は二本の水入りペットボトルを取り出した。片方には蓋がついていない。
「私達のいた惑星、アコーストでは心は動くモノと考えられていてな。そして、心が動くことによって生まれるエネルギーを心動エネルギー、共に生じる音を心動音と呼んで、様々なことに利用してたんだ」
「心が動く…」
「ちなみに心動音はアコースト人にしか聞こえないわよ。例外もあるけど」
京香が補足をする。
「そのエネルギーを利用するために、アコースト人にはどこかに穴が空いているんだ」
「でも、心って無限にありますよね。ということは、無限のエネルギーということになりませんか?」
「それが違うんだ。ここでこのペットボトルを使う、この蓋付きのペットボトルは地球人の心、もう一方の蓋が付いていない方のペットボトルをアコースト人の心だと考えてくれ。すると我々の心は飲むことが出来る、すなわち使うことが出来るが、無くなってしまう」
そう言うと舞はペットボトルを飲み始めた。
「そして、地球人の心は蓋が付いていて自由に使うことは出来ないが減ることもない」
「なるほど」
舞はペットボトルを置いた。
「しかし、できることもある」
うんうんと頷きながら舞は言った。
「で、そのエネルギーと音は一体何に使うんです。そして、俺にできることって?」
「これからそれについて説明しよう。京香、あれをだしてくれ」
「わかったわ。はい、これ」
京香はポケットに手を入れ、先が二股に割れた棒のようなモノを取り出し、舞に渡した。
「先生、これって…」
「ああ、音叉だ」
「音叉なんて何に使うんですか」
「今朝使った物だ。この音叉の音を聞かせると、その対象を気絶させることができる」