第二十三話
ここなら見つからないだろうと思い、木に手をかけ必死によじ登った。木は刺々していて痛かった。枝の一本一本が登ろうとする私の邪魔をする。そして、後少しで頂上に着くというところで、掴んでいた枝が音をたてて折れた。
私はバランスを崩し、真っ逆様に落ちていった。強い衝撃が体を襲う。
枝が全身を引っ掻き、至る所から血がにじんできた。このまま死んでしまうと思った。
長い時間が流れた。
「大丈夫か!心!」
その時聞き慣れた力強い声が聞こえたところで記憶は途絶えた。
後から聞いた話によると、先輩は私一人だけなかなか見つからないので、他の皆を帰し、一人でずっと探しつづけてくれたそうだ。そして、落ちてボロボロになっている私を見つけ、おぶって病院までつれていってくれたそうだ。記憶には無いがその時の温かさは覚えていた。きっと、私は心の奥で先輩だけに見つけてもらいたかったのだと思う。それほどまでに私と先輩のつながりは強かったはずだ。
これだけではない。もっともっと、数え切れないほど思い出があったはずだ。
私と先輩は特別な関係だったはずだ。
なのに、今では私のことをただの後輩としか扱ってくれない。
そんなの寂しすぎる。
このままでは先輩はもう手の届かない所に行ってしまう。
それは絶対嫌だ。
どうにかして追いつきたい、どうすればいいのか。
答えは簡単だ。
自分の口で想いを告げればいい。
しかし、それも怖い。両方とも怖いのだ。
どこかへ行ってしまうのも、壊れてしまうのも。
だが、どちらかを選べと言うなら、選ばなければならないというのなら、私は。
そうだ、明日は私の誕生日、特別な日だ。明日は何をしようかな。明日はどうやって先輩を困らせてやろうかな。早く明日になってほしいな。
初音心はある決心を持って明日を迎えることにした。