第十二話
岩田龍一。我が部の経理担当にして、コントラバスパート担当の変人だ。経理担当ということもあって、お金にうるさく、数学が得意である。背丈は百八十位ある長身で、がたいはそれなりにいい。だが、興奮するとおかま口調になる。というか本当におかまなんじゃないかと疑うくらい、女子と溶け込んで会話もする。根はいい奴だとわかっている。だからこそできるのだろう。
「はい、はい。ありがと、ありがと」
「はいは一回ですよ、先輩!」
「はー、へいへい」
「むぅー」
心は針千本の様に口を膨らませてすねている。
「ほら、あなたがそんな態度をとるから、心ちゃんすねちゃったじゃない!謝りなさいよ!」
「なんで、俺が・・・。すいませんでした」
「わかればよろしい。心ちゃんも、ね?いいでしょ?」
これではまるで龍一は母親のようである。そう、彼はこの部活内では「吹奏楽部の母」と呼ばれている。
「わかりました。今日一緒に帰ってくれたらいいですよ」
「な!」
「よかったな、心ちゃん。一緒に帰ってくれるそうだぞ」
「わーい!やったー!」
心は子供のように喜んでいる。
「はー。それじゃあ、三人で」
「うわっ、しまった。私、今日バイトがあったんだわ!」
「何!それじゃあ二人になっちまう」
「それじゃあね!」
龍一は風のように走り去っていった。
「先輩、二人で一緒に帰りましょう!」
心がニコニコと笑いながら言った。
「はあー、しょうがないなー。でも、まだ楽器の片付けとかあるから、お前。先に校門で待っとけ」
「はーい、わかりました!待ってますからね、先輩。絶対に来てくださいね?」
「ああ、ああ。絶対行くよ」
心は音楽室を出た。
「はあ、俺の平穏を返してくれよ」
響助はぶつぶつ言いながら、楽器を片付け始めた。