第十一話
音無響助は階段の踊り場で息を切らしていた。
「はあ、はあ!なんであの先生は全てを知ってるみたいにものを言えるんだ!」
響助は乱暴にポケットに手を突っ込み、便せんを取り出す。
「透視能力でも持ってるのかね、あの人は。それとも読心術か」
厄介なものをもらってしまったものだと思う。
この一通のせいで今日一日が無茶苦茶にされた。いや、無茶苦茶なのはいつものことだが。それに歯止めが効かなくなっている。否、これは一人相撲をとっているだけなのだが。
「しまった、早く楽器を片付けないと」
響助は再び便せんをポケットに戻した。が、便せんはポケットから滑り落ち階段の踊り場に残されてしまった。
響助は気づいていない。
急いで階段を駆け登る。誰もいない廊かを進んでいく。
もうこんな時間だ。ほとんどの部員が帰ってしまったのだろう。急がなければ。
ようやく音楽室に着いた。物音一つしていない。
響助は扉を開けた。と、同時に大きな声が廊下に響いた。
「ドーン!」
そして、小柄なツインテールの少女が飛び出してきた。
「先輩、驚きました?待っててあげたんですよー?」
少女がくりくりとした大きな目をこちらに向けて聞いてくる、と同時に男の大きな声が廊下に響いた。
「バーン!」
そして、長身の男が飛び出してきた。
「おい、響助!びっくりしただろ!」
長身の男はわはは、と笑い声をあげながら聞いてきた。
「はあ、お前ら。まだいたのかよ。心、龍一。他の奴らはみんな帰ってるじゃねーか」
音楽室には人っ子一人、三人を除いていなかった。
「お前らは本当に暇人だな。こんなことに時間を使って」
響助はあきれたように言った。
「なっ、失敬な!せっかく私達が貴重な時間を割いて待っててあげたっていうのに!ねぇ、心ちゃん」
「はい、龍一先輩!」