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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ほうふくじへん

掲載日:2026/05/05

           

 昔昔むかしむかしのそのむかし、とあるさとにはまことしやかにささやかれていることがあった。

 いわく、「そのやまには、【りゅう】がんでいる」という。

 けわしい山岳さんがくつらなった奇形きけいでは、度々《たびたび》厄災(やくさい)こっていた。人々《ひとびと》がこまてていたそのとき、【りゅう】があらわれたのだという。

 【りゅう】がやまつと、厄災やくさいはピタリとおさまった。ゆえに、人々《ひとびと》は【りゅう】をうやまい、やま大切たいせつにしていた。



 あるとき、大陸たいりくくにおうさまが、大勢おおぜいじゅう(しゃ)れてさとへとやってきた。ゾロゾロとひとかずに、さとものたちは大層たいそうおどろいたものだ。さとおさおうさまにう。


「こんなへんぴな土地とちにまでいらっしゃるとは、一体いったいどういったごようでしょうか?」


 おうさまはこたえた。


「このやまにいる、【りゅう】がしいのだ」


 このおうさま、大陸たいりくでは有名ゆうめいな【しがり】であった。かれたものは、なにがなんでもれなければまない性質たちで、そのためには手段しゅだんをいとわないという。

 ノドから今にもがとびてきそうなおうさまに、里長さとおさは、きびしいかおをしてった。


「【りゅう】は、だれのものでもございません。いくら大国たいこくおうたる御身おんみであっても、そのうちはいることはありません」


 しかし、おうさまがれることはなく、それどころか、ハナでわら始末しまつだった。


「ハッ!このわたしに指図さしずしようとは、よほどいのちしくないらしい」

 そうって、かたわらにいてあるけんをチラつかせた。さからうことはゆるさないというあらわれである。

 まったくもって、乱暴らんぼうなことだ。里長さとおさはそれ以上いじょうなにうことができなかった。


 

 さとものたちの非難ひなんもなんのその。おうさまは山入やまいりの準備じゅんびをおしすすめた。

 そして、いざやまとうとしたそのとき、里長さとおさからひとつげられたことがあった。


やまでだれかと言葉ことばわしたのなら、すぐにおもどりください」


 しかし、おうさまはかたちだけの返事へんじをするだけで、とくにもめず、やまはいっていった。

 


 やまはいったおうさま一行いっこうは、草木くさきはらい、つちらしながらすすんでいく。すると、(なか)からこえをかけられた。


「もし、そこのおかた


 不意ふいひびいた鈴鳴すずなこえあしまる。幾度いくどくびまわしたさき、そこにはひとりのおんなっていた。

 ぼろきれのすそからのぞく生白なましろあしは、かぜけばんでしまいそうなほどにたよりない。しかし、びっぱなしの黒髪くろかみからのぞく一対いっつい眼光がんこうが、イヤににつくおんなだった。

 おんなった。


わるいことはいません、いますぐにかえしなさい」


 とは裏腹うらはらに、鼓膜こまくらすおもひびきがあった。

 おうさまは、にこやかにう。


わたしがだれかっての言葉ことばか?」


 おんなも、うすくんでった。


関係かんけいありませんから」


 おんなこたえに、おうさまは「そうか」と一つうなずく。そして、腰元こしもとからけんくと、あろうことか、おんな袈裟げさりつけた。あまりに突然とつぜんなことに、とうおんな悲鳴ひめいのひとつもあげないままくずちる。そのとき不思議ふしぎなことがこった。

 いま方横がたよこたわっていたはずのおんなからだが、けむりのようにえてしまったのだ。

 しんじられない光景こうけいに、みな一様いちよう見張みはる。すると、あた一帯いったいにものものしい雰囲気ふんいきがただよいはじめた。

 とりばたきに、カサカサとひびかすこえくようなかぜに、ぶつかり水流すいりゅうあわおとまで。まわりにあるすべてのおとが、一緒いっしょくたになって耳元みみもとすさぶ。そのあまりのやかましさににみみをふさごうとてたそのときおうさまのまわりから一切いっさいおとえた。

 バッ!とかおげて、あたりを見回みまわす。四方しほうかこんでいた従者じゅうしゃたちの姿すがたがだれ一人ひとりとして見当みあたらない。


「だれか、だれかいないのか!」


 おうさまの悲鳴ひめいのようなごえが、あいだをはねまわる。しかし、かえってくるものはなにかった。

 ふと、耳元みみもとなにかがかすめる。ぐるりとまわすと、さきほどのおんなっていた。

 ——しかし、なにかがおかしい。

 まえおんなは、さきほどおのれてたはず。ならばなぜ——。

 その瞬間しゅんかん得体えたいれないなにかが、足下あしもとからがってくる。

 ドッドッとれる脈拍みゃくはくに、心臓しんぞういたむ。

 いきえなおうさまとは裏腹うらはらに、おんなふかんでいた。そのがった口元くちもとが、たまらなくおそろしい。


「おまえ一体何者いったいなにものなんだ……⁉︎」


 不意ふいそらくらくなる。まさか、とおうさまは見上みあげて、そして後悔こうかいした。おおきな、おおきなかげが、おうさまの真上まうえせまっていたのだ。

 そのとき、おうさまは理解りかいした。おのれようとしていたものは、到底人とうていひとにはあまるものだと。

 バクリ、とひらいたふかやみまえに、ゆびのひとつもうごかない。

 そして、そのまま——。


 

「──ああ、まずい、まずいなぁ」

 つぶいたのは、何者なにものだったか。それをものは、どこにもいない。

この度は、数多の作品の中からみつけていただき、ありがとうございます。

こちらは第18回日本新薬こども文学賞に応募した作品です。

児童向けにしては少々過激な内容だったかな、と思う反面、個人的にはとても好みに仕上げられたので投稿しました。

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