第五話 『深層』
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壁際の封鎖された面にひっそり隠れた扉を見つけた。
ア「こんなところに扉が。知らなかった。」
それはアーシェンたち家族ですら触れたことのない、父だけが抱える"秘密"へと続く入り口だった。小さな鍵穴には父の残した鍵がぴったりはまった。
『ガチャ』
差し込んだ鍵を回した。両手に力をいれ精一杯扉を押し開けた。目の前に広がるのは地下へと続く階段。
『ビューー』
冷たい空気が下から込み上がってくる。
階段は暗闇の底へと吸い込まれている。
ア「...怖くない。」
アーシェンは虚勢を張った。不気味な雰囲気が恐怖心を煽る。しかし、父への思いが背中を押した。アーシェンはゆっくりと階段を降りて行った。
◆
地下に降り立つと、そこには小さな空間が広がっていた。資料は床に散らばり、文献の多くは破れ、壁には焦げ跡まである。
まるで誰かが"何かを探す"ように、荒らしたようだった。
ア「これ...父さんの...」
アーシェンは部屋の中央に落ちていた古いノートを見つける。
表紙は黒くこげており、縁は破けている。
開けば戻れなくなる。そんな予感がした。
震える手でノートを開く。
そのページには、複雑な文字や図形が並んでいた。しかし、一つの記述がアーシェンの目に留まる。
◆
エインシェントコア(古代コア)---
そこには父の筆跡で埋め尽くされていた。
『"伝説"は存在した。通常のコアとは異なる。"意思"の影響を受けない唯一の存在。"絶対の核"。』
そして次の行がアーシェンの心を掴んだ。
『適合者:アーシェン』
ア「え...」
息が止まりそうだった。確かに自分の名前がそこにはあった。
『エインシェントコアのレゾナントとなった者は"大きな運命"を背負う。』
このページの最後に父はそう書いていた。
アーシェンは思わずページをめくる。
次のページは他のページ以上に焼け焦げ、破れていた。読める部分はほんのわずかだった。
アーシェンは不思議に思った。
ア「誰かが...意図的に?」
何者かが、意図的に何かを隠そうとしたように思えた。かろうじて残された文字が、断片のように浮かび上がる。
『.......エー....闇...........』
『レ...ント...........代償...........』
『.....ヒト........長............侵食』
『..依.....支..配....最終......養......』
それ以外は完全に失われていた。
意味の繋がらない断片が、恐ろしい"何か"を匂わせる。
父は何を知り、何を伝えたかったのか。
そして、何者が、なぜ、このページを消したのか。アーシェンはこのページから目を離せなかった。
ア「父さん、これじゃわからないよ。」
真相に近づいたはずなのに、謎はむしろ深まっていくばかりだった。アーシェンはそっとノートを閉じる。
そのときだった---
『ドクン!』
胸の奥で音が鳴る。それと、同時に
?「アーシェン」
頭の中で誰かが名前を呼んだ。昨日も聞いたあの"声"。でも、今は正体がわかる気がする。
ア「エインシェントコア...?」
"声"は返事をしない。ただ遠くで自分を読んでいるような、不思議な引力がアーシェンの胸を掴んで離さなかった。
アーシェンの胸が強く脈打つ。
父が伝えたかった秘密--
自分が託された運命--
どこかで自分を呼ぶ声--
そして、この世界の真実--
アーシェンはノートを抱え、地下からゆっくりと上がった。
◆
帰ってきた。我が家だ。
しかし不思議と落ち着かない。
家の中には父の気配はもうどこにもなかった。
再び"声"がアーシェンに話しかける。
声「---来い。」
ア「ああ、いくさ。真実を確かめるために。
自分の手で掴みにいく。」
アーシェンは玄関のドアに手をかけ、一度だけ振り返った。
ア「行くしかないんだ。」
自分を鼓舞するかのように呟いた。
『カチャ』
玄関のドアが静かに閉まる
そして静寂に包まれる夜道を、一人で歩き始めた。もう振り返ることはなかった。アーシェンは覚悟を決めたのだ。
自分を呼ぶ"声"を求めて。
父の伝えたかった"真実"を求めて。
---アーシェンの旅が始まった。
第五話『深層』完




