表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第四話 『鍵』


静かな夜だった。風の音さえ聞こえない。

まるで、この世から音がなくなったかのように。

昨夜、父と笑い合った時間が嘘のようだ。

アーシェンは自室のベッドに腰を下ろし、何も考えられず、ただ俯いていた。


ア「父さん...」


息を吸うたびに胸が痛い。胸の奥にぽっかりと大きな穴が空いたような気がする。


ア「...」


父さんが---もうこの世にいない?


受け止めきれない現実が冷たく胸にまとわりつく。そんな時だった。


「ドクン!」

ア「まただ...」


胸の奥で低い音が鳴り響く。アーシェンは胸を押さえながら、ふと思い出した。今日聞いた"声"を。


(--奪われた...)


ア「奪われた??」


この言葉が胸の穴にじんわりと熱を灯す。

父の死は実験装置が制御不能になり、起きた"事故死"だと伝えられていた。しかし、その言葉が急に嘘のように思えてくる。


---奪われた...

---誰が...

---なんのために...

---父は何を知っていた...


本当に、そんな偶然で父は死んだのか。

"奪われた"と言う言葉が急に真実味を帯び始める。


幼い頃、父がよく言っていた言葉が蘇る。


父(困った時は研究室に来い。)


ア「行かなきゃ...」


涙を拭い、呼吸を整える。

拳を強く握りめ、アーシェンは立ち上がった。


ア「知りたい。父さんの死のこと...真実は自分の手で掴まなきゃ。」

「たとえ、残酷な真実だとしても...」


悲しみが静かに"決意"へと形を変えていく。

アーシェンは立ち上がり、自室のドアを開ける。

静まり返った夜道を、一歩ずつ踏みしめながら父の研究室へと向かう。



静寂が夜道を包む。自分の息と足音だけが、響いていた。


研究室の前に立った時アーシェンは目を疑った。かつて白く輝いていた扉は黒く焼け焦げ、内部は煤だらけだった。子どもの頃父と来た場所とはまるで別物だった。


ア「...ここが...お父さんの」


扉を押し開けると、焦げた匂いが一気に押し寄せた。床には大量のメモの切れ端、溶けた機材、割れた管。父が毎日大切に磨いていた装置の姿は、どこにもなかった。


アーシェンの視線が、自然と奥の父の部屋へと向く。焼け跡が円を描くように広がっている。


ア(ここで...父さんは...)


悲しみに飲まれそうになる中、拳を握り直し、前を向いた。


ア「今は...泣く時じゃない。」


それでも目元は潤んでいた。

父の部屋を見て回るアーシェン。

この部屋は特に焦げ臭い。この部屋だけ、より高温で燃やされたように思えた。

多くのものが焼き尽くされた中、一つのものを見つける。


ア「これは...俺の...絵?」


それはアーシェンが幼い頃に書いた、家族の絵だった。大半は焼けてしまっているが、確かに自分の書いた絵だった。

父は自分の研究室に大切に飾っていたのだ。


ア「父さん...」


普段なかなかうちに帰ってこない父だったが、なによりも家族を愛していた。絵の上に一滴の滴が落ちる。無意識のうちに涙が溢れていた。

その瞬間---


「ドクン!!!」


胸の奥で鋭い衝動が走った。さっきよりも強く、深く。


ア「......っ!」


思わず片膝をついた。呼吸が荒くなる。

まるで体の内側から誰かが導いているようだった。


ア(...机...?..)


父はよく大切なものはこの机の引き出しにしまっていた。導かれるように、父の机へと向かう。

焼けこげた天板をどかすと、下から金属が擦れる音が聞こえた。


ア「え?」


机の裏側、タイルの内側に何か挟まっている。

そっと引き抜くと---

小さな封筒と小さな古びた鍵が出てきた。


ア「これ、父さんが?」


封筒には、焦げも煤の一つも付いてなかった。

父の意思がこれだけは守り抜いたように感じた。


ア「ありがとう。父さん」


気づけば胸の衝撃や、荒い呼吸は治っていた。

アーシェンは封筒に目を落とす。そこには父の字でこう書いてあった。


『アーシェンへ

これを呼んでいると言うことは--

真実を知る覚悟ができたのだろう。

"印の場所"へ来い。』


封筒を開くと、中には紙が一枚入っていた。

そこにはある"印"が書いてあった。


『£¥*』


それはアーシェンにしか伝わらないものだった。

幼い頃、父と遊び感覚で作った秘密の暗号だった。父との二人だけの秘密の暗号。


ア「地下に真実がある。」

「父さん何があったんだ....」


短い。だが、恐ろしいほどにその意図が伝わってきた。

"事故ではない"

"誰かに狙われた"

"アーシェンだけに伝えたかった事"


手紙をしまい、鍵を手にした瞬間--


「ドクン!」


また胸に衝撃が走った。次は、早く行くよう急かされているように感じた。


ア「...っ痛...行くよ。」


アーシェンは鍵をポケットに収め、父の部屋の奥、壁際の誰も知らない封鎖された面へと足を運んだ。


ア「待ってて父さん。」


第四話『鍵』完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ