第三話 『断絶』
◆
「チリリリ...チリリリ」
いつものようにアラームの電子音が鳴り響く。
窓からは朝日が差し込む。
「カチッ!」
部屋の中は静寂に包まれる。
アーシェンは珍しく自分でアラームを止め、リビングへと向かう。
ア「おはよう。」
母「あら、自分で起きてくるなんて珍しいね。」
母は驚きつつも、どこか嬉しそうだった。
世界は昨日のことなどなかったかのように、何も変わらない。
しかし、アーシェンの頭の中には昨日の父の言葉が何度も繰り返す。
ア「光と影...真実は自分で掴めか...」
朝食を食べながらアーシェンは一人呟く。
胸の奥の小さな棘はまだ取れずにいた。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか家を出る時間になった。
母「アーシェン!早くしないと遅刻するよ」
アーシェンは急いで制服に着替え、玄関を飛び出した。
ア「行ってきます!」
◆
レ「アーシェン、おはよー!昨日なんか変だったよ?」
教室に入るなり、友達のレイトが笑いながら背中を叩いてきた。レイトとは幼い頃からの友達だ。そしてもう一人の友達、エリアスはじっとアーシェンの顔を覗き込む。
エ「また寝不足?ほら、目の下。クマできてる」
ア「うるさいなあ...大丈夫だって」
そう返しながらもアーシェンの心はどこかふわりとしていて、掴みどころがなかった。
あの"声"の正体はなんだったのか。父に話したが、謎は余計深まるばかりだった。
ホームルームが始まるとアーシェンは窓の外に視線を向けた、雲ひとつない快晴のはずなのに、どこか濁って見えた。
◆
その頃、アーシェンの父、リアンは研究室にいた。
いつもは静かな研究室。だが、今日はリアンのキーボードを叩く音がやけに早く、力がこもっていた。
一緒に働く研究員が言った。
研A「リアンさん、本当にやるんですか。危険だって言ってたじゃないですかーー」
リ「わかってる。でも時間がないんだ。息子が..."声"を聞いた。」
研A「まさか!そんな...適合の兆しが」
リアンは返事をしなかった。だまって分厚い資料と膨大な研究データに向き合う。
リアンは一冊の古いノートを手に取った。そこには長年研究してきたエーテルの構造、世界の真理や古代コア(エインシェントコア)に関して、さらには強大な"光"が生み出す"影"についての記述が雑多に書き込まれてあった。
震える手で新しいページをめくる。
リ「アーシェン...お前には伝えなければ...」
リアンは独り言を呟き、書きかけの資料に走り書きを続けた。
古代コア(エインシェントコア)の適合者、エーテルの意思、レゾナントが科される代償、そしてエーテルの"闇"についてーー
どれも世界の根幹を揺るがす真実だった。
◆
昼休み。
レイトがパンを半分にちぎって放り投げる。
レ「ほら、ちゃんとキャッチしろよー!」
ア「お前もっと上手く投げろよ」
エリアスは呆れながらも笑っている。
そんな他愛もない日常がアーシェンの心を少しだけ軽くしていた。
その瞬間だったーー
「ドクン」
胸の奥で低い音が鳴った気がした。ただの心臓の音ではない。何かが外から叩いたかのような異物の音に感じた。
アーシェンは無意識に胸をおさえた。
エ「どうしたアーシェン。体調悪いのか?顔色も悪いぞ」
ア「いや...ちょっと変な感じしただけ。」
「大丈夫だよ」
ふざけていたレイトも首をかしげ、心配そうに見つめている。何気ない日常の中に、また違和感が溶け込んだ。
◆
同じ頃ーーリアンの研究室
?「お前は知りすぎた」
不意に誰かが背後から呟いた。
リアンは咄嗟に振り払うが誰もいない。それどころか、どんどん"何か"が近づいてくるようにさえ感じた。
リ「ここまでか...」
資料をまとめる手が止まる。
机の上には銀色の鍵と一通の手紙があった。
アーシェンへーー
そう書かれた手紙の上に黒い影が落ちた。
リ「想定より早かったな。すでに知っていたのか...」
リアンは椅子から立ち上がる。次の瞬間ーー
強烈な光がリアンの視界を覆った。
心臓が掴まれたかのような痛み。呼吸が止まった。あの声がもう一度囁く。
?「お前は...知りすぎた」
床に崩れ落ちる音だけが、研究室に静かに響いた。光はゆっくりと揺らぎ始めやがて炎へと変わった。普通の炎ではない。低く鈍い音を立てながら、広がっていく。まるで研究室そのものの魂を喰らうかのように燃え盛った。やがて炎は深い蒼へと色を変え、全てを焼き消した。
◆
午後の授業が終わった頃、教室の扉が静かに開いた。
先生「アーシェン、ちょっと来なさい。」
アーシェンは嫌な予感がした。
先生に連れられて校門まで来た時、母が立っているのが目に入った。
母の目は赤く充血しており、頬には泣いた跡があった。母は震えた声で
「アーシェン...お父さんが....」
その瞬間アーシェンの耳にだけ、別の"声"が届いた。
?「奪われた。間に合わなかった...」
とても冷たく、悲しい声だった。
アーシェンの唇が震える。
ア「.....うそだ...」
第三話『断絶』完




