4.習い事の王道
小学生になった。ピカピカの一年生というやつだ。
これで出来る事がかなり増えた。
思えばここまで、ひたすら地味で長かった……
だって六年だもんな。
この辺の子供達は小学生にあがると放課後一人で遊びに出る事が許されるようになる。
時代と田舎の地域柄のためかな、もちろん夕方五時のチャイムで帰るという約束のもとではあるが。
なので、放課後はもっぱら、校庭の遊具をハシゴするサーキットトレーニングもどきか、同じく校庭にきた同級生たちと遊ぶかしている。ちなみに最近のお気に入りは雲梯だ。投球動作に近いポジションで上半身と体幹を捻る良い運動になるし、身体も軽い分やってて楽しい。
わかってはいたが、この年代の子供の遊びにかける情熱というのは凄まじい。学校生活でも、殆どの子供は休み時間の度に校庭にでて身体を動かしている。昼休みの後なんて玉の汗を流しながら授業を受けているな。
そして、これは神経系の発達に凄く良い。所謂ゴールデンエイジというやつで、小学生の間にどれだけ多様な運動を経験しておくかはその後のスポーツ人生に大きく影響を与えるのだ。それに合わせて現在、野球の練習としては柔らかく軽いゴムボールをキャッチボール以下の力で投げて遊んでいる。目標は神経系の発達だから、未発達の骨や靭帯に負担をかける高重量や高出力で投げる必要はないのだ。
工夫点は、上から投げ下ろすオーバースローから下手投げのアンダースローまで色んなフォームで投げたり、色んな回転をかけて投げたりとバリエーションをつけること。軽いゴムボールは変化量が大きく結構楽しい。ここでこの神経回路を作ることは、将来的には色んなフォームで色んな変化球を操る下地になるはずだ。
ちなみに前世の俺はこの時期、その集団には属さないインドア派だった。休み時間の度に図書室に行って狐の怪傑や落第忍者の絵本を貪り読んでいた記憶がある。
そのおかげか国語の成績は良かったんだが、中学高校の野球部時代は周りよりも圧倒的に不器用で苦労した。
あと授業中は『スポーツ用の視力』と『脳の処理速度』を向上させる時間にあてている。例えば高速で眼球を動かして色んな物にピントを合わせたり、視界に入るクラスメイト全員の動きを処理したり、脳のリミッターが外れるようにひたすら早く動くイメージトレーニングをしたりね。
というわけで、野球選手になるための下地作りは概ね順調。ただ、万全を期すためにもう一手。ダンスに続く習い事をさせてもらう事にした。
「スイミングは初めてだったね」
「はい。でも、息継ぎやバタ足はもうできます」
二つ目は水泳である。金銭的にも体力的にも時間的にも比較的親の負担が少なく、天候に影響もされず、役立つ技能でもあるため運動系で長年人気No.1の習い事だ。
近代野球の大投手というのは、子供の頃に水泳をやっていた者が非常に多い。色んな泳法で水をかく動きを通してボールを投げるのに重要となる背骨や肩甲骨周りの筋力と柔軟性をまとめて鍛えられるし、全身運動で将来ハードな練習に耐えられるだけの心肺機能や筋持久力も鍛えられるからだろう。
じゃあもっと早くやればいいじゃんと思うかも知れないが、家からプールが少し遠かったんだよな。幼稚園の頃にいっても練習時間は短いし、周りに合わせて浮かぶ練習や息継ぎからだからコスパが悪いと判断した。あと、当時は三半規管が未発達だったからか乗り物酔いも酷かったし。
「凄いね。じゃあ、ちょっと泳いでみせてくれる」
「わかりました」
若いコーチに言われて、前世の記憶を頼りに全力で泳いでみる。なにせ、早く本格的に泳ぎたいからな。
幸い、拙いながらもクロールと平泳ぎとバタフライはできた。でも背泳ぎは無理。だって鼻に水が入って溺れそうになるから。
プールから上がると周囲が騒ついていた。
「なあ、本当に未経験……なんだよな」
「あ、はい。」
少なくとも今世では。なので嘘は言ってない。
「もしかしたら君はオリンピックを目指せる逸材かもしれん」
……あれ、もしかして何かやっちゃいました?
大人なのに背泳ぎできない人、私と握手!




