3.医療系の論理
現在、俺は五歳。
三歳から今までの間に大きな変化が二つあったので、伝えておこう。
一つ目、妹が生まれた。
名前は美波、俺との歳は四歳差。
……うん、ここでもう前世とルート分岐したのがわかる。だって、前世は妹っていなかったし。
もちろん両親とも大層喜んでいて、特に親父はデレデレだ。気持ちはよくわかる。勿論、俺も喜んで可愛い妹の相手をしている。
そして、将来的にもとてもいい事だと思う。今世、俺は結婚する気がないし、俺の寿命が尽きた後に美波がいてくれるのは両親にとって大きな救いとなるだろう。
二つ目、グローブとバットを買ってもらい、毎月二回父親の草ソフトボールについていくようになった。
この地域は草野球ではなく草ソフトボールが盛んだ。短時間で終わるし狭い球場でも出来るし、走る距離も投げる距離も短い分、オジサンが仕事終わりの平日の夜やるのに都合が良いのだろう。
「おお、両打ちか」
「器用なもんだな」
父親の所属するチームは緩くてアットホームな感じなので、試合前やイニング間に手の空いたオジサン達がよく投げたり打ったりの相手をしてくれる。
ありがたいことだ。そして、こうやっているとやっぱり野球って楽しいなと思う。早く大きくなって本格的な試合がしたい。
「鴎ちゃんは左手ききか」
「将来はピッチャーかな」
ちなみに今相手をしてくれているオジサン達は、俺の事を『左投げ両打』だと思っている様子だが厳密には少々違う。
正解は『両投げ両打』である。そうなるように練習している最中だ。こうする事で全身のバランスの偏りが無くなり、将来、野球でピッチャーをする場合に連投と故障リスクの両方に対する備えになるからな。
今左でしか投げていないのは、手元にあるグローブが左投げ用だからにすぎない。
ちなみに、前世は右投げ右打ちだったので遺伝的にはそうなのだろう。
だが、利き手交換なんて麻痺や切断のある医療現場では日常的に行われているし、数は少ないがプロ野球史に残る大投手や名ショートが子供の頃に投げる手を入れ替えた実話もある。あとメジャーで大活躍したイケメン投手だって右肘のリハビリ中に左投げの練習して130キロくらいの球を投げてたし。
打つ方だって、大怪獣のニックネームを持つ左打ちの大打者が小学生のころは右打ちだったというのは有名な話だ。
人間というのは、やれば結構なんでも出来るようになるのだ。今、俺の場合は吸収の早い子供の身体な上に二年間のダンスを通して『身体を思い通りに操る能力』も高まっているしな。というわけで、今はプロ野球を見ながら色んな名選手のフォームを真似している。
「しかし、鴎ちゃんは結構良い球投げるな」
「フォームも格好いいし、打つ方も結構飛ばすぜ」
ふふふ、ありがとうございます。
俺は十月生まれということもあって、同学年の四月生まれの子たちと比べるとまだまだ身体は小さいんだけどちょっとずつできる事が増えている実感がある。
前世ではあまり運動出来る方ではなかったはずだが、毎日身体を動かしているからか幼稚園の同学年の間では一番素早く強く動けているはずだ。
「相手してくれてありがとな」
「おお、航希さんお帰り。丁度、左投げっていいなって話してたところだよ」
日本人は右ききの割合が9割を超えているので対人スポーツでは練習しにくい左利きが有利な場合が多い。なお、これは文化的に矯正される影響もあるようで例えばイタリアでは右ききの割合は六割程度と日本よりかなり低いそうだ。
「いや、それが実はこいつは両利きみたいなんだよ。俺も半信半疑なんだけど」
ちなみに、日本にも両利きの人間は4%くらいいる。あと、両投げ投手というのも前例があるからチートまではいかないはずだ。
「すげえな。二刀流じゃん」
「おお、かっこいいな、二刀流」
それはあかん!
その二つ名は、もうすぐこの世界に生まれてくる野球史上最強選手が冠するべきものだ。
でも、確かに将来俺が両投げ投手として活躍したらメディアからそう取り上げられる可能性もあるのか……うーん、どうしよう。二刀流が自分には相応しい名称じゃない理由を考えておくとか……あと先手を打ってこちらから二刀流以外の名前をプッシュしておくべきかな。
どんな名前があるだろうか
両刀使い……はなんか別の意味にとられちゃいそうだな。却下。
ツインバスターライフル、ダブルラリアット……うーむ、全然ぱっとしないな。
誰かにいいネーミングを考えて欲しい……
急募 [ガチ]:両投げ両打選手のカッコイイ二つ名




