2.百獣の王の理屈
三歳になった。
出来ることが増え、日中起きていられる時間も、行動範囲も少し広がった。来年には幼稚園に行くことになっている。
なんとなく予想はしていたが、今までに得た情報を統合したところ、この世界はどうやら完全に前世と同じものらしい。少なくとも現時点では。
今、俺が住んでいるのは四国にある人口三万人程度の港町。漁業と柑橘類の栽培が主産業で、あと一応、九州へ向かうフェリーがでている。
前世に帰省した際は、頬をなでる潮風に段々畑にある石垣の白い反射光、それとフェリーの汽笛をきいて帰ってきたなぁと実感したものだ。
ちなみにウチは現在三人家族で、前世ではずっと三人のままだった。
ただ今世では増えるかもしれない。誕生日プレゼントで弟か妹が欲しいとおねだりして以降、今までにも増して夫婦仲が良さそうだから(意味深)。
そうそう、両親の紹介を忘れていたな。
フェリー乗り場の近くにある土産物屋を営んでいる父親の湊航希と、繁忙期は店も手伝いつつ家事育児も頑張っている母親の支帆だ。そして俺は鴎賀。
俺の名前の由来は父親の好きな鳥からだそうだ。船乗りにとって鴎は縁起がいいのと、知性が高くてどんな環境にも適応できるところがお気に入りらしい。商人の発想だなぁと思う。
家はそれなりに裕福。どうやら親父殿はけっこう商才があるらしく、結婚する前は苦労した時期もあったそうだが、記憶にある限り金に大きく困った時期はなかったはずだ。それだけでも尊敬に値する父親である。
「なあ、鴎賀は何かやってみたいこととかあるか?」
加えて、そろそろ習い事の一つでもという話になった今も、真っ先にこちらの意思を確認し、尊重してくれようとしている。
ちなみに前世は何も思いつかなかったためピアノが選択されたらしい。その結果というと……俺に音楽の適性は無いと分かった。
まあそれはいいんだ。せっかく選ばせて貰えるのだし今回は野球に関連したものにしないとな。というわけで選択するのはコレだ。
「ダンスがしたい」
「お、おお?ダンスか、そうかそうか。そういえば近くの公民館でやってたな。あれみて楽しそうだったからか」
「うん」
もちろんそんな理由ではない。いや、ダンスなんて楽しくねーよとかそんな事を言うつもりではなく、目的が違うという意味でね。
この度俺は、ダンスを通じて二つの能力を獲得したいと思っている。
一つ目は『身体の各パーツを思い通りに動かす能力』だ。で、この能力を磨くのに最適なのがダンスの『アイソレーション』という練習だと俺は考えている。
アイソレーション、通称『アイソレ』がどんなものか簡単に説明すると、全身鏡の前で身体を各パーツごとに個別に動かすというものだ。そしてこれは、あらゆるジャンルのダンスで基礎練習に組み込まれている。
何故ダンサーがこの練習を重視するのかというと、人間は視覚の補助がないと身体の各パーツを正確に動かすことが意外とできないから。
例えば『腕を真横に伸ばす』という単純な動きですら鏡で確認すると上下に5°から10°程度ズレていることがザラにある。
さらに『斜め前にあるティッシュ箱の角を目をつぶって中指の腹で触る』あたりまで難易度をあげると、殆どの人が上手くできない。
この能力が低いままだと、スポーツでフォームが崩れた時に自分ではズレに気づかなかったりする。それはまずい。
ゲームに例えるなら、同じボタンを押しているのにキャラが毎回ちょっとずつ違うアクションをしちゃうような状態である。なんやそのクソゲー。
というわけで、将来どんなスポーツを選択するにしてもまず思い通りに動かす練習をしておくのは理に適っているはずだ。ちなみに、かつて十種競技で日本一になったスポーツタレントは真っ先にこの能力を磨いたらしい。もちろん、それだけで日本一になれるほどスポーツの世界は甘くないので他にも色んな創意工夫があったのだろうが。
二つ目は『未知の動きを素早く覚える能力』である。これを、ダンスで新しい振り付けを覚えることを通して獲得したい。
ダンスというのは日常で行わない動きの連続だ。そんな未知の動きを素早く覚えるには、手本となる動きを見てカウントを口ずさみ、脳裏でイメージしながら実際に身体を動かすなど視覚、聴覚、想起に身体感覚など脳のあらゆる箇所をフル動員させる必要がある。
そしておそらく、この脳の処理能力は訓練で向上が見込める。テーマパークダンサーなんてオーディション当日に新しい振り付けを全部覚えちゃうらしいからね。
で、この『未知の動きを素早く覚える能力』と『身体の各パーツを思い通りに動かす能力』が高いレベルで揃うとどんな事が出来るようになるかというと……
『相手の技を一度見ただけでコピーできる』
ようになる。たぶんね。
色んな漫画で強キャラが持ってる能力だな。
まあ、そこまでは流石に無理かもしれないが、あらゆる技術習得に必要となる時間は大幅に短縮できるはずだ。ゲームに例えると『新しいスキルの解放に必要な経験値が百分の一になる』といった感じだろうか。ほら、男性向けなろう小説でよくあるやつ。
実際、前世で幼少期にダンスを習っていた長女がそんな感じだった。他のスポーツを始めた際、技術習得は他所のお子様よりもかなり早かった記憶がある。
勿論、その技を使える様になっても体格や筋力が弱いと劣化コピーにしかならないんだけどね。長女の場合も小柄で基本的にインドア派だったから基礎体力が足りずに試合ではなかなか結果が出なかったし。
だが、運動ガチ勢の場合は特に、技術練習に体力と時間が取られないのは非常に大きなアドバンテージとなる。なぜなら、その分を全てフィジカルトレーニングに突っ込む事ができるから!
そして筋力や神経回路がコピー元よりも上なら『オリジナル以上の威力でお返しするぜ!』なんてチートじみたことだって出来るようになるわけだ。
「ふ、ふふふ」
「なんだ。随分と楽しみにしているみたいだな。」
「うん、家でも沢山練習するー」
だからアイソレのビデオ撮ってね!
あ、しまった。誕生日プレゼント、でかい全身鏡にしとけばよかったかな……まあ身体も小さいし、しばらくは母さんの姿見でいいか。
ダンサーの倒し方?両手を上げる振付の時にボディ!




