9. 中学生のうちに伸ばしておくべき能力
現在、中学二年生の冬。
今日も今日とて、冬季トレーニングの真っ最中。
「はあ、はあ......分かっちゃいたけど、キッツ......」
身体が酸素を求め胸が破れそうなほどの痛みのシグナルを出している、腕も脚もパンパンだ。
一緒に練習しているチームメイトも全員がへたり込んでいる。
結局、中学二年目の総体は全国ベスト16で、新人戦は全国準優勝だった。
いやー、凄いね全国。
県大会を圧倒的なスコアで勝ち進み、このまま全国優勝するぜと意気込んでいたが見通しが甘かった。部活野球とはいえ、きちんとした指導者がいてメンバーもそろっている都会の学校は強い強い!全国ベスト16以降は全てが実力伯仲の接戦だったから、来年優勝するためには自分達がより強くなるしかないと感じた。
てなわけで、この冬は前年以上の強度で追い込むため、監督と相談の上で例年行っている『持久走』を高強度インターバルトレーニング、通称『HTIトレーニング』に変更させてもらった。
『HITトレーニング』を簡単説明すると『20秒全力で運動』→『10秒休息』というサイクルを8回繰り返すというものだ。僅か4分で終わるが、瞬発力と心肺機能をバランスよく鍛えることができる。そんなに楽でいいのかって?やってみたらめちゃくちゃきついんだ、これが。
「ふうー......それじゃあ、野手陣は回復したものからロングティーに入るっすよー」
ここからは投手と野手で別メニューだ。
野手は匠が上手くまとめてくれるので、俺は投手陣の底上げを行う。
「あの、湊先輩ちょっと質問良いですか?」
「おう、どうした河野」
「HITトレーニングって心肺機能の向上も目的にしてるって言ってましたけど、ぶっちゃけ野球に持久力っていらなくないですか。」
「おっ、いい質問だね。確かにお前の言う通り持久力はあまりいらないよ」
最近は減少しているが、一昔前はプロ野球選手に喫煙者も多かったし高校野球でも名門校が集団でタバコ吸って出場停止とかよくニュースになってたもんな。日本を代表する投手の一人が持久走苦手とかも有名な話だし。
「河野はやっぱり賢いな」
「茶化さないでください」
いや、本心なんだが。この質問が来るのは相当考えている証拠だ。
この河野は前世でもよく考えよく練習する頼れる後輩だったが、今世の伸び率はさらに素晴らしいものがある。この調子で質の高い練習を積み重ねれば来年のエースはコイツで決まりだろう。県どころが全国でも通用するレベルになりそうだ。
「ちょうどいい、投手陣全員集合!次のトレーニングに移る前に聞いてくれ。HITトレーニングを行う理由は2つあってな、1つ目は中学生のうちに一番伸びる身体機能が心肺機能だからと言うこと。そんでもう1つは、『野球特有のスタミナ』をつけることだ。ちょっと難しい話になるけど、頑張ってついてきてくれよな」
そういって投手陣を見ると、全員真剣な顔で話を聞く姿勢をとっている。
ありがたいことに現在チームは雰囲気もいいし、モチベーションも非常に高い。
まあそりゃそうか。なにせ、片田舎の野球部が全国準優勝の快進撃だ。地元の皆様には大変喜ばれたし学校でも注目の的だ。必然的に「来年もやったるぞ!」とモチベーションは高くなり、河野みたいにより効果的なトレーニング内容について考える選手も出始めた。
いい傾向だ、やる気のある連中と一緒にやった方が俺自身の練習も捗るしな。やはり昨年、黒田先生に直談判して良かった。チームスポーツは勝ち続けることでしか得られないものがあると実感している。
「今の俺達、つまり12-14歳ごろって神経系が急速に発達する『ゴールデンエイジ』が終わるころなんだけど、今度は『呼吸・循環器系が一気に発達する時期』なんだよ。だから、この時期にしっかり刺激をいれて心肺機能を発達させるのは今後色んなスポーツを楽しむうえで重要なんだ。高校では別の部活をはじめる奴もいるだろうし、大人になってからいろんなスポーツをできる下地作りにもなるな。」
ちなみに筋・骨格系も13-14歳くらいから急速に発達し始めるのだが、先に身長が伸びていく上に筋肉の発達は20代後半まで続くと言われている。
だからアスリートとしてピークを迎えるときの身体能力パラメータグラフを満遍なくデカくするのが目標なら、ガッツリ筋トレして筋肉量を増やすのは高校に入ってからでもいいんじゃないかというのが個人的な考えだ。
回復量に限りがある以上、一日に出来るトレーニング量も有限だからね、取捨選択が大事だ。
とはいえ、この中学3年の野球で結果を出したい奴にはこの説明だけじゃ響かないだろう。だから、次が理由の本命だ。
「そして、HITトレーニングは『野球特有のスタミナ』をつけるのにも最適なんだ。だって野球って投球や全力疾走といった高強度のプレーを短い休息を挟みながら繰り返し行うだろう。で、その短い休息に身体をきちんと回復させて次のプレーの強度を落とさないようにしないといけない。」
説明しながら皆の顔を見る。「あ、そういうことか」って顔した奴は半分くらいか。
うーむ、もうすこし分かりやすく説明するには……
「河野、『野球特有のスタミナ』が必要になる場面を言語化できるか?」
「えっと、内野安打で全力疾走、その後盗塁で全力疾走、さらにヒットでホームまで全力疾走。そこでアウトになって、そのままピッチングにむかう......みたいな場面ですかね?」
「そう!その通り!いずれも手を抜けないし、途中でバテて0.1秒タイムが落ちたりすこしピッチングが甘くなるだけで試合結果が変わることがある。だから、『野球特有のスタミナ』ってのは必要なんだよ」
河野、良いたとえ話出すなぁ......
今後は全員が「あー、あるほど」って顔をしている。
「全力行動と短い休息を繰り返すのHITトレーニングの必要性は皆分かってくれたな?と言うわけで、投手陣は本日より、通常のHITトレーニングよりもさらにハードな『サーキットHITトレーニング』を開始するゾ☆」
全員の顔が固まった。
そりぁそうだ、控えめに言って地獄だもん。
でも、やります。
旅は道連れ世は情け。今から地獄めぐりだけど、頑張ってついてきてくれよな!
ビリー隊長に出撃して頂こうか迷ったのは内緒。
本日もう一話投稿します。




