プロローグ
沈みゆく夕陽を眺めながらカーテンを閉めた。
まあ、70点くらいの人生にはできたかな。
「・・・・・・ふう、遺言も全部書けた。これでもう『やるべき事』は残ってないはず」
学生時代は勉強も部活もそこそこ頑張った。
医療系の国家資格をとり病院で働き、愛する女性と結婚して子供も二人授かっている。
30歳を少しすぎたあたりで厄介な病を罹ったのは残念だが、原因は不摂生ではなくて遺伝的なものが大きい。それから10年、治療と手術を受けつつ働けるうちは働き、家族との時間も大切にした。
多分あと数ヶ月で死ぬんだけど、妻や子供達だって、もう俺がいなくても立派にやっていけるはずだ。幸い生命保険も入っていたしな。
というわけで、後は病院で緩和ケアを受けながら、お気に入り本でも読み返そうと考えている。
「これで、残りの30点がもう少し埋まればいいんだけど……まあ、それは高望みだな」
そんなことを呟きつつ、思考の海に潜る。体力が落ち満足に動けなくなってきた分、こうやって自分の内面について考えることが増えた。
どうやら俺は
『何かが好きすぎてちょっとアレな人』が主人公の話が好きらしい。ほら、金にときめく聖女の話とか、陰から愛を見守りたい貴腐人の話とかね。
それと
『長年の努力によりやべー力を手に入れたキャラ』に強い憧れもある。ほら、特撮ヒーローになりたい四十男とか、修行が好きすぎる先代巫女とかね。
そんな俺が人生で一番熱中し、努力したものといえば野球。中学、高校生時代の部活動だ。働きながら草野球チームにも入った。
だが、早めに自分で才能に見切りをつけたというか、熱中しすぎて他が疎かにならないようにブレーキをかけたというか、好きな作品の主人公達のように『自分のできる限界』まではやりきれなかった自覚がある。
もちろん、それが当時の自分の出来る最高の判断だったし、代わりに得られた物も多い。だからその選択を、というか今の人生を後悔してはいないんだけど……もしも、今の知識がある状態であの頃に戻れたら俺はどうするのだろうか?
プロ野球選手には昔からずっと憧れがある。
そして、多少なりともトレーニングや医学的な知識を得た今だからわかるが彼らとて初めから超人だったわけではない。
幾多の正当な努力を積み重ね、常人にはあり得ないようなパフォーマンスを発揮するまでになったトップ選手達。彼らはまるで創作物の主人公だ。昔よりもずっと憧れがある。
ピロン、というメッセージ着信音で意識が現実世界に浮上する。
母親からだった。
『今、流星群がすごい!』
そういえばニュースで言ってたな。今晩は二つの流星群が同時にやってくる奇跡の夜なんだったか。あいにくの天気で見れないはずだったんだけど……
そう思いつつカーテンを開けるとーー
そこには、今までにみたどんな景色よりも美しい夜空が広がっていた。宇宙の神秘というか、この世界を作った神の存在を感じるような光景だ。
だからだろうか、無意識にスマホのストラップにしている『ミサンガ』ーーオカルト好きの古い友人が海外旅行土産にくれたものーーを握りしめてポロリと本音が溢れていた。
「神様、もしも現在の知識を持って過去に戻れるなら、今度は野球を極めることに全振りしてみたいです」
そう口にした瞬間、手の中でミサンガがぶつりと切れた感触があり、それを確かめる前にふっと意識が遠のいていくのを感じた。
(んん?鎮痛薬が効きすぎたか……合併症で脳の血管でも詰まったか……)
それが、一度目の人生で最後の記憶となった。
対戦よろしくお願いします
こちらの初手はセオリーどうり、異世界へ送りバントです




