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8話 オオカミ少年の衣替え

「お兄ちゃん、どう!?」


 シャーッとカーテンが開いて、おめかしをした稲穂が出てくる。

 着ている服は、黒と紫を基調としたゴスロリ調のワンピース。ふわりと裾が揺れて、さながら店内の照明がライトスタンドになったかのような錯覚を受ける。


 試着室から出てくるりと一回転した稲穂は、てててーっと小走りで俺の目の前まで走って来て問うた。


「わー、いいぞー」

「うわ棒読みぃ……はぁ、お兄ちゃんに聞いた稲穂が間違いだったよ。白百合先輩、この服どうです?」

「うん。私もいいと思うぞ。少々足が出ているのが気になるが、常着しない服なのであれば関係ないしな。とても似合っている」

「こういうの! お兄ちゃん、こういう感想が欲しいんだよ稲穂は!」


 無茶言うなって。普段から女性の服を褒める機会なんてないんだ。きちんと褒めろと言われて、ぶっつけ本番で正解なんか引けるか。


「白百合先輩! 先輩もどうですか!?」

「へ? どうって……その服のことか?」

「はい! 先輩も似合うと思うんです!」

「いや……私は似合わんだろう」

「そんなことないですって! ねぇお兄ちゃん!」


 俺に話の矛先が向けられたが、俺は何と言ったらいいのかわからず。


「……まぁ、馬子にも衣装って言うしな」

「お兄ちゃん、それは本当に最低だよ」

「うっ。……すまん、言葉の綾だ。褒めようとは思ったんだけど……」

「はぁ……。お兄ちゃんがモテない理由がわかった気がするよ」


 結局、何を言っても地雷になりかねない気はしてるんだけどね。この二人、俺に遠慮がないんだもの。……この二人を褒めるのって、知らない人を褒めるよりレベルが高いのでは?


「まぁ女性と目を合わせるのも苦手だからな、大上兄は。一年の頃、同じ食卓を囲むことに、私がどれだけ苦労したことか」

「その節は、本当にすみませんでした……」

「……まぁ、お兄ちゃんは女性嫌いだし、仕方ないね。今日は特別に許してあげましょう!」


 許された。よかった、一生言われるパターンかと思った。


「ただ稲穂の格好を見て、いい感想をくれなかったのは許さないけどね!」

「うぐぅ……」



ーーー



 くすくす。小さな笑い声が耳をくすぐる。


 三人がいなくなって数分。

 森ノ宮は、一人ベンチに座って黄昏ていた。元から、こういう人の多い場所は好きではなかったのだ。


 人と肩がぶつかるのが嫌いだ。

 誰かに見られているようで嫌いだ。

 ……何も喋れない自分が嫌いだ。


 かつて、森ノ宮は蓋をした。


 極論、誰とも関わらないのが楽なのだ。


 人と話さず、触れ合わず。

 鋼鉄の仮面を常に身に着け、

 孤高を貫き、他人を気にせず。


 臭いものには蓋をして、

 二度と何かと関わらないように。


 けれど閉まった蓋は、

 いつか誰かの手により開くもの。


 いい意味であれ、悪い意味であれーー



「あっれ〜? 森ノ宮さんじゃ〜ん?」



 ーー閉じていた蓋が、開いた気がした。



ーーー



「……これ、いつまで続くの?」


 大上稲穂プロデュースのファッションショーが始まってから十数分が経った。


 ファッションモデルは白百合。

 武道に通じて、抜群のプロポーションを保っている彼女は、基本的に何を着ても似合っている。


 ゴスロリから始まり、タイト、クール、フリルのドレス。

 途中から店員さんも加わり、チャイナドレス、制服風など、白百合が遊ばれているのを遠巻きに眺めていた。


 稲穂がゴスロリを着た時から思っていたけど、ここって何の店だっけ……?


「お客様お似合いです〜! 次はこちらなんて如何でしょう〜?」

「おお、和装メイドというやつですね! 白百合先輩、腰回りが細いし、すごい似合いそうです!」

「う、うぅ……何故ここまで遊ばれなければ……お、大上くん! 助けてくれ!」


「……チッ。10連外したか」

「おい! ここでソシャゲをするんじゃない!」


 そう言われましても。そんな女子女子しい空間に身を投げる覚悟なんて、俺にはないと言いますか……


「彼氏さんも一緒に如何ですか〜? 男性用の和風執事服もございますよ〜!」


 差し出されたのは、黒いショート丈の羽織と袴。

 和服テイストでありながら、少し欧風の執事に寄せた服装だった。


「……は? いや彼氏じゃないですし。というかなんで……ここ、ウィメンズのアパレルでは?」

「私の趣味にございます〜♪」


 店員一人にそんな権力があるのか。大丈夫か、この店。


「いや、遠慮しときま」

「ふふふっ……逃がさんぞ大上くん。私が辱めを受けているのだ。無論、君も道連れにする!」

「やめろ来んなファッションゾンビ。俺は着ないぞ……そうだ、そろそろ森ノ宮が心配だ。ちょっと見てくる」

「あ、逃げるな卑怯者! 後で覚えておけ!」


 誰が着るかそんなもん。

 いつものブレザーだって似合ってる自信ないのに、俺にコスプレは似合わないだろ。


 アパレルショップから逃走した俺は、スタコラと森ノ宮のいるベンチへと向かう。

 実際、森ノ宮はかなり疲弊していたし、恐らく人の多い場所が苦手なのだろう。無理に付き合わせていた手前、申し訳ないと思っていたのも事実だ。……何か、飲み物でも買って行ってやるか。


「……おーい、森ノみ……や?」


 ベンチに戻ると、顔を伏せて座っている森ノ宮の姿があった。しかし何処か苦しそうに、小刻みに震えているのが見て取れる。


「どうした? コーヒー買ってきたけど飲むか?」

「……」

「あ? どうしたって……え?」


 ぽたり、と。一滴の雫が、森ノ宮の膝に落ちた。



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