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10話 オオカミ少年は動き出す

 翌日。

 いつも通り稲穂を荷台に乗せて登校し、先に行ってろと別れ、駐輪場に向かうまでの道で感じる雰囲気が、どこか湿っていた。朝の空気が重く、通り過ぎる声が一段と小さく聞こえる。

 学校では、クラスのグループに入っていない分、俺は空気の変化に敏感になっているのかもしれない。


 駐輪場に自転車を停めていると、背後から近づく影に肩を叩かれた。


「おはよう、大上」

「なんだ池町。今日は元気がないな」


 少しだけ声のトーンが低い池町が、いつも通り俺に話しかけてきた。


「そりゃそうだろ……あ、そういえばお前、クラスのLANEグループに入ってないんだっけか?」

「ん? ああ。俺だけハブられてな」

「昔誘った時に断ったのは誰だっけか?」

「俺だな。スタンプ連投の通知はキツいわ」


 中学の頃、授業中もうるさい男子が深夜にスタンプを連投し、寝てたクラスメイトのスマホを鳴らしまくった。あれ以来、俺はクラスLANEに入らないと決めた。

 以来、俺は『学校で何があった』だの『あの先輩がうざい』だの情報が入らない環境にある。だから俺は常に”空気を読む”ことで生き延びている。


「で? この空気は何?」

「根も葉もない噂なんだがイジメがあった。それが学校全体に知れ渡って、気まずくなってるって感じだな。まぁ、俺たちの学年じゃなくて一個下の後輩……お前の妹がいなかったか?」

「ああ、いるぞ。でも稲穂はイジメをしない良い子だし……もし、稲穂がイジメられてるんなら、俺は加害者を絶対許さん」

「おおう……シスコン乙」

「誰がシスコンだ」


 俺は妹に甘いだけだ。稲穂には一生ついていてやらないと。変な虫は一匹残らず叩き落とさねば。


「んで? 大上は今、何をやってんだ?」

「退治だよ」

「は?」

「増殖中のカエル退治」


 池町は一瞬眉を顰めた。


「何言ってんだ?」

「お前こそ、白百合に何を聞いた?」


 駐輪場で「何をしてるか」と聞かれて、返せる答えなんて一つしかないだろう。それ以外の答えを求めているのだとしたら、例の件しかあり得ない。


「イジメの根絶って聞いたが? 具体的には大上が知ってるから、そっちで聞けとも言われたな」

「ああ、醜いカエル退治だよ。今は煙を焚いてる最中だ」


 俺はあの後、生徒会のメンバーに声を掛け、あらゆるツテを使って噂を流すように頼んだ。


『一年ではイジメが起こっているらしい。この高校では長年イジメなんてなかったのに、最低だな』と。


 流れる噂は、文字通り風の噂となり、あらゆる生徒、教員方の耳に入ったようだ。

 高校のコミュニティとは、思っているよりも狭いものだ。幸い、生徒会メンバーはあらゆる方面に顔が利く。


「井の中の蛙を炙り出すには、十分だろ」 


 害虫駆除の鉄則。弱点を晒し出せ。

 イジメなんて、自分の価値を上げたいという浅ましい欲から生まれるもの。

 なら、その評判ごと煙に巻いてしまえばいい。

 そうでもしなきゃ、ヤツらは尻尾を出さない。


「なるほどな。だから俺にも声が掛かったと」

「池町はモテるからな。火種にするにはちょうど良かったんだよ」

「ところで聞きたいんだけどさ、大上」

「どうした?」


 必要なことは全部話したと思ったのだが。何か不足してるところなんてあったか?


「なんで比喩がカエルなんだ?」

「……あー」


 そうか。俺は無意識で使っていたが、知らない人からしたら意味がわからないよな。


「そうだな……昔、似たヤツがいたんだよ」

「へぇ。ノンフィクションってやつか?」

「まぁ、そうなるな」


 つまり俺は、過去憎しで動いていることになる。傍から俺を見れば、きっと怖いヤツに見えるだろう。目は真実だけを映す。ならそこに間違いはない。


「お前、怖いよ」


 池町は僅かに笑い、しかし目だけは笑っていない。


 だから俺は「確かに」と笑顔を作った。


「今の俺は、怖いかもな」


 口が引き攣っているのがわかる。

 不出来な笑顔を作る自分に、密かに吐き気を覚えた。



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